ブルートフォースアタック
京介の言葉を冷淡に受け流し、それからクロトは何かを思い出したような顔をし、盛大に吹き出した。
「くっく。そーいやよォ、さっきの人形の台詞、傑作だったな。“何故かお前の顔が忘れられなくて、もう一度会いたくて、頭の中がそれだけになった”だってよ」
「何、が、可笑しいんだよ!」
「あァ? だってよォ、俺がこの人形にお前を殺すようにプログラムを追加したんだぜ。そりゃ忘れられないのは当然だっつーの! 何故かじゃねーよォ! ッハッハハハハ!!」
クロトは気を失ったエマを指差し、人形呼ばわりし続け、挙句ずっと苦しんでいたエマを一笑に付した。
一しきり笑った後、満足したのか再びクロトは京介に向き直った。
「何か言い残したいこと、あるかよ?」
「……ひとつだけ、質問したい」
京介は激情を押し殺し、静かに問う。何の意味もないかも知れないが、何もせずにはいられなかった。
京介の言葉を受けてクロトは余裕ぶってにやりと笑い、京介に促した。
「エマが言ってた。政府に捕まって、ずっと実験体の扱いを受けていたって。お前も、その政府の人間なのか? それにエマはそこから逃げてきたって」
「―――? 何だ、そんなもんが最後の言葉で良いのかよ? ……ってなんで俺がお前の質問にご丁寧に答えてやる必要があるんだ、あァ!?」
と、またクロトは京介を殴打した。
「まあ、後半の質問には答えてやるよ。逃げてきたってのはな、幻想だよ。俺が操作してる間、束の間良い夢見せてやろうってな。本当は俺が解放してやったのさ。これは俺の“優しさ”だよ、や・さ・し・さ。分かるかァ?」
「―――!!」
京介は意識が遠くなり、体も冷たくなってきていた。それでも。例え自分がどうなろうと、この男だけは殴り倒さなければならない。こいつのせいで、エマは。
「――――そう、か。私はお前に操られていたのか」
「――エマ!?」
エマは地面に突き刺さった剣を支えに、よろよろと立ち上がる。
「――! 目ェ覚めたか、俺の可愛いお人形よォ!」
クロトは笑顔を浮かべ、エマを見る。その目はお気に入りのおもちゃを見るような目だ。
「……こんな、矮小な男に、私は……」
言って、嘆息する。
「な、んだと? 今、何て言った!!?」
クロトは怒りに声を震わせ、顔を歪ませている。
「お前は一人では何もできない。これだけ人数を揃えねば前に出られない卑しい男と言った!!」
そう言い放ち、エマは先ほど京介が落とした鉄パイプにハッキングし、空中に浮かべた。
「な、止め―――」
エマは狼狽えるクロト目がけ、鉄パイプを放った。
がらん、がらん。
残響が辺りを包んだ。鉄パイプはクロトに直撃することは無かった。
クロトの眼前で突然静止し、そのまま地面に落下した。
「……ハァ、はぁ……ッはァ」
クロトはエマに手をかざし、肩で息をしている。
「…はは。ははハはあhあははは。人形が、持ち主に逆らえる訳ねェだろうが」
クロトは咄嗟に全力で√を発動させていた。その√は、エマを完全に支配下に置くまでにはいかないが、動きを止めるには十分だった。
エマは硬直させた体で、ただ涙を流していた。
「わ、たし、は、に、んぎ…ょ、う、じゃ……な、い」
「エマ!? く、そ」
「反抗的なガラクタが! 後でもう3重ほど首輪かけてやる!」
そう言って、クロトは息を整えつつ、冷や汗を拭い、それからおもむろに京介に目を遣った。
「ちっ、にしてもよォ、お前には本気で反吐が出るな。俺の物に、勝手に“エマ”なんてだせェ名前付けて自分の物みてェに呼ぶんじゃねーよ! 人形が勘違いしてんだろ、自分が人間だってなァ!」
「お、前ェえええええェえええええ!!」
最後の力を振り絞り、京介は抵抗を試みる。力を入れたせいであちこちからまた出血する。
咄嗟のことに反応しきれなかったか、または京介の傷口から流れ出た血で手を滑らせたのか、右手を拘束していた男は京介を放しよろめいた。京介はそのまま左手を拘束していた者の顔面に叩き込み
「エマのこと、人形なんて呼ぶな!!」
クロトを殴ることだけ考えて駆け出した。
こいつだけは、こいつだけは!
が、クロトは涼しい顔を崩すことは無く
「………もういいわ、お前。飽きた。串刺しになれよ。――Enter(終劇)」
その言葉は朔から絶叫を絞り出し、朔の周りに大量に剣を生み出させた。
「…は、ぁ、はぁ。……これ、は、ブルートフォース(全剣多重連続奏射)!? に、げろ。京介!!」
朔が必死に声を挙げた。それを見てクロトは愉悦を隠し切れずに笑う。
クロトの合図を受け剣は一斉に生命を得て、我先にと京介に殺到する。
「――――!」
京介は事態に驚愕する。だがそれは、自身の命を奪いに来る剣に対してではなく
「エマ!!」
立っているのも限界の筈なのに、両手を広げ京介の盾にならんとするエマの後ろ姿にだった。




