あの日の真実
「この街にきてしばらく、俺はネットワークの拡大に専念してたんだ。それと同時進行であれを使って派手に事件を起こし、それをエサに弓月朔を釣り上げる。俺は完成したネットワークとアレを併用して朔を始末するつもりだった」
クロトは横たわるエマを一瞥した。その言葉は、エマを駒のひとつに過ぎない、と断じていた。
「―――! お前が、お前がエマを操って、エマに人殺しを、事件を強いていたのか!? お前に、エマの気持ちが――」
言いかけて京介の言葉は斬撃に遮られた。
「―――グッ! く、そ。離せ! 離せよ!!」
京介の頭の中はクロトへの憎悪で満たされていた。が、両腕を拘束されているため、声を出すことしかできない。裂けた右手から血を流し過ぎ、意識が崩れかける。
「アレは俺が解析を成し得たアンティークだ。どう扱おうと、お前にとやかく言われる筋合いはねェんだよ。いいから、最後まで聞いとけ。これがお前の人生最後の言葉なんだぜ」
京介は後悔していた。もっと早くに何か打つ手があったのではないか。
やはり、エマは人殺しなどではなかった。何故一瞬でもそれを疑ってしまったのだ、と。エマの言っていた殺人衝動とはつまりはクロトがエマの頭の中に干渉し、エマに殺人を強いていたんだ。そんなエマが目の前の、群衆を率いねば何もできないような矮小な男に全てを奪われる理不尽があっていい筈がない。
悔しさに涙が零れそうになる。そんな京介を見てクロトはにやりと満足そうにして語りを続けた。
――ある日繁華街で、クロトの人形の一つが偶然魔弾の一部隊に遭遇した。
人形に与えられていた命令は一つ、“目に付いた者に√を使え”。
人形は一分の狂いもなく、命令を実行し、そのまま部隊に制圧された。
部隊を率い、クロトから人形を取り上げたのが、クロトのターゲット、弓月朔だった。クロトは、人形を調べられることを嫌ったが、同時に朔が蒼月館学院に居ることを突き止めた。そしてすぐに攻め込むことを考えた。そこで自身の最強の駒、エマを先兵として蒼月館に放った――
「アレには俺のスペックを全て注いだ“首輪”を付けて、学院に攻め込ませた。だがな、最初に屋上に配置した時、そこにお前がいたんだよ」
京介はクロトの言葉に思い当たるものがあった。思えば一番最初にエマに会ったとき、彼女の様子はどことなく、地に足がついていないような違和感があった。あの時、まさにクロトがエマを操っていたのだ。
「一番最初に出会った生徒だ。お前も駒にしてやろうと近づいた瞬間、あれとの接続が途切れ、視界が暗転した。お前が何かして首輪を壊したんだ!」
「何の事だ、俺は何も――」
言うか言わないかのうちに、今度は三振りの剣が京介を襲い、全身を撫で斬り口を噤ませた。
「だから、しゃべんなよなァ。お前が首輪を壊した後、俺はあちこち探し回る羽目んなった。もっとも、お前の壊し方は半端だったらしい。アレは時々殺しをして街を彷徨ってたらしいが」
京介にはクロトが忌々しげに繰り返す言葉が、まるで分からない。首輪を壊した、そんなことをした覚えはもちろんないからだ。謂れのない憎しみをぶつけられる理不尽に、ますます怒りがこみ上げてきた。クロトはそんな京介をよそに話を続ける。
「そんなある日、俺に幸運が舞い込んだ。どういう訳か、俺の拠点にお前らが揃って現れたんだなァ」
「…拠点。……まさか」
「ああ、ショッピングモールだ。あそこは大量の人形を置いとくのに丁度良い。お前らはいわば俺の腹ん中に飛び込んできたってわけだ」
モールの人間全員を、到底クロト一人で操りきれるとは思えない。
が、現にいま京介達を取り囲む人数を見るとそれも妄言ではないらしい。
「でもな、カフェに来たお前のために直接俺が出張っても、お前を操れなかった。能力も解析できなかった。施設内全員を使ったのになァ!」
と言ってクロトはギリと歯噛みした。
「……その場でお前を殺んのは諦めたが、お前とあれが別れるのを待って、あれに首輪をかけなおすことには成功した」
そうしてクロトは続けた。京介にエマを差し向けて殺そうとしたまさにそのとき、別の魔弾隊長が現れたため断念したこと。他の人形を学院内に潜り込ませて京介と朔が幼馴染だと知ったこと。エマを使い、朔と京介を同時に殺すことを計画したこと。
「……くそ。お前なんかにやら、れて、たまるか」
もう京介は全身がずたずたで、血を流し過ぎていた。全身に力がうまく入らない。




