譲れない互いの信念
京介の目をまっすぐ見つめ、朔は一切飾り立てのない言葉を発する。
「俺にお前を傷つけさせないでくれ…ッ。京介!」
「…お前は変わったよ、朔。前はそんな問答無用じゃなくて、もっと優しかった」
「……人はいつまでも、変わらないままではいられない。変わらない世界を望むなら、お前はここに来るべきじゃなかったんだ!」
一瞬。ほんのわずかに朔の表情に躊躇いが見えた気がした。
が、迷いを振り払うように語気を強め、そこから無理やり自分を納得させるように一つ深く息を吐いて
「……そこをどく気になったか、京介?」
かつて聞いたことのないほどの昏く、鋭い朔の声。
本当はすぐにでも逃げたい。それぐらいに朔はどうしようもなく本気だ。
「愚問だ。お前こそ、俺の話を聞いてくれる気になったか、朔?」
京介はそう訴えるも、朔はただ悲しげに、小さくため息をつき
「…埒が明かないな。任務の邪魔だ、京介。話は後でいくらでも聞こう。だが、今は――!」
言うか言わないかのうちに、2本の剣が空中を滑るように向かってきた。
何の予備動作もないその動きに全く反応できず、最初の衝撃が顎にあったと思うと、京介は体ごと宙に浮いていた。そのまま2つ目の衝撃が腹に来て、思い切り吹き飛ばされてしまった。
「あっ…、っ」
口から熱いものがどろりと零れ落ちる。
それは非日常の朱い色。頬に感じるのは土の感触。冷たい。熱い。
気が付くと京介は、橋桁から川そばまで吹き飛ばされていた。
もう夕暮れの時間のようで、日差しが紅く、酷薄に、差し込んだ。
(斬られた、のか…)
もう起き上がることができそうもなかった。斬られた箇所は痛みを通り越し、ただ熱を感じる。代わりに頭が、おかしくなりそうなほどに痛い。
京介はどこかで高をくくっていた。朔が自分を傷つけるはずはないと。
だが、現実はそうではなかった。痛い。痛い…。
このままもう二度と覚めない眠りについた方が…楽、かもしれない。
「京介ッ!」
エ…マ?
誰かが、駆け寄ってくる気配を京介は感じた。
顔に手が添えられている。その手が温かくて、気持ちいい。
(小さく、震えて、る?)
「お願いだ! 私は逃げも隠れもしないから、もう京介をこれ以上傷つけるな!」
「何、言ってるんだ? そんな事言ってないで、さっさとここから逃げてくれよ。これじゃあ俺、ただのやられ損じゃないか……」
京介が絞るように出した声はしかし、二人には届かなかった。
「元よりそのつもりだ。銀色の魔弾は君をブラックドール事件の犯人と断定した。君が逃げたりしない限り我々は誰も傷つけることはない」
そう言って朔は2本の剣を手元に引き戻して、エマに向かって告げる。
「……最後に言い残すことは?」
添えられたエマの手が、そっと京介から離れていく。
かすんでいく目を必死に凝らすと、おかしなコートを着た女の子が両手を広げ、自分を庇う盾となっていた。
その姿はとても堂々としていて、でも触れれば壊れそうで。
少女は震える声で
「ありがとう。……では、一つだけ。京介に伝えて欲しい」
「…………」
長い、沈黙。朔はその間口を挟んだりはせず、ただエマの言葉を待っていた。
「………。いや、やはり良い」
「………そうか」
「――――――――――!!」
待てよ。そんなのはいやだ。
京介は身体が熱くなるのを感じた。このまま何もできないまま終わって良い訳がない。
何が銀色の魔弾だ。大体、朔に頑固とか言われたくないな。お前の方がよっぽど――
「―――頑固だろうが! 朔!!」
「―――――!?」
無理やり体を立たせ、エマの手を強引に引く。
突然の事に虚を突かれ、朔に一瞬の隙が生じた。
「うああぁああアあ!!」
その隙を逃すまいと拳を振り上げ、全力で駆ける。
これが朔に攻撃する最初で最後のチャンスだったろう。
京介の全力の拳は果たして朔の顔面にまともに入る。しかし朔は膝をついたりは……しなかった。
「…いい加減にしろ、京介! もう遊びでは済まされないぞ」
再び2本の剣が京介を目がけ―――
――パキィyン――
京介の目の前に迫る剣が突如、ガラスの割れるような音を立て、散っていった。
「――――?! くっ…」
京介は突然の事に呆然とするのみ。そして朔はというと、頭を押さえ小さく呻いた。
「――朔!?」
「今のは、何、だ。京介、お前の、能力か?」
「今のが、俺の、能力?」




