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ぶつかりあうそれぞれの想い

 頭の中は嫌な想像で満たされていく。それを必死に振り払うため、京介はただひたすら全力で走り続ける。


「―――!」


「よお、京介クン。探したぜぇ」

「犯行。屋上での犠牲者。噂だ、またお前がやったという」

「銀弾の人らが捜してたッスよ、月見里君のこと」


 前に京介に絡んできたaクラスの3人組が京介の行く手を塞いでいた。

 そのうち一人が生徒証を取りだし、何か操作をしたかと思うとすぐに他のaクラスの奴らがゾロゾロと集まり、京介を取り囲む。


「くそッ! 急いでるんだ。通してくれよ!」

「はァ? 何言ってんの、お前!? 通すわけねえだろうが。お前、屋上でまた殺ったんだろ。しかも魔弾の弾員、3人も! そんで校舎内の魔弾の人ら、全員どっか行っちまったよ。緊急事態ってよ」

「危険だ皆。固まるな、一か所に。プロをも殺している、月見里京介は。分からない、どんな危険な能力か……。」

「あ~~、ホントメンドイッスね、逆月クンは。コレだけ人数居るんだ。全員でボコりゃ良いんスよ!」


 aクラスの連中は、それぞれ好き勝手なことを言っている。


「今お前らに構ってる暇はないんだ! だいたい、いつまで俺がブラックドールの犯人だと思ってるんだよ!? 俺じゃないって言ってるだろ! 銀弾も俺への疑いは解いてるんだ!」


 あまりの理不尽さに京介は声を荒げる。だが、aクラスの連中は京介の言葉は全く聞いていない。急いでいるのに、この人数でしかも囲まれている。


「どうすれば、いいんだよ!?」


 焦りだけが募る。


「俺達、今回の事件にはマジでむかついてるんだよね。折角蒼月館に入学して、いざ能力の勉強を…、と思ったら事件のせいで自習続き。ずっとお預け喰らって」


 京介の背後を塞いでいる男子がそう言った。それに同調する声が京介を囲む。


「それにッスよ、何か犯人はxクラスの奴らしいってんで、私らaクラスより全然目立っちゃってさ。バツクラスのクセに!」


 目の前の女子が床を踏みつける。その音をきっかけに周りはどんどんヒートアップしていく。


「何だよそれ! aとかxとか……。人が死んでるんだぞ!」


 要するにこの連中は正義感から捕まえようとしているのではなく、単に安いプライドが傷つけられたからその腹いせをしているだけらしい。


「うるせえんだよ! バツ野郎が!」


 集団の中心だろう男子が叫んだ。同時に後ろに立っていた奴が突然京介を羽交い絞めにした。


「やめろ、離せ! お願いだ、今は行かせ―――が!?」


 言い終わらないうち、正面の男子が京介の腹を殴りつけた。そして、後ろの奴が強い力を籠め、京介はなすすべもなく床に膝立ちにさせられる。


「お前が行くのはさ、銀弾の監獄だろ。でもさ、お前がうちのクラスの弓月朔と友達ってんなら取り調べのとき許しを請えば助けてもらえんじゃね?」


「「「aッhahaハhahaハハ破はははは!」」」

(こいつら……!)


 周り中から浴びせられる嘲笑で、京介は全身に悪寒が走るほど怒りが湧いてきた。目の前が赤黒く、濁っていく。俺がもし能力を使えれば、こんな奴らに馬鹿にもされずに、こんな目にも合わずにすむのか? 俺が能力者なら……!


「おい! んだよ、その目は!?」

「ギッ―――!?」


 男子に髪を掴まれ、そのまま床に叩きつけられる。口の中に血の味が広がった。


「這いつくばる君、無様ッスよ。さすが落ちこぼれ組ッスね」

「おい、もういいよ。あとは俺一人で十分だ。今丁度生徒会(エンジニア)の連中も出払ってて、ここにまで手が回らないだろうからな」


 顔を上げられず状況がよくわからないが、両手が一瞬自由になったと京介は思った。しかしすぐ、背中に強烈な衝撃。息が出来なくなるほどの。何だ、これ。


「しっかし、弓月にも参るよな。こんな奴らと仲良くしようなんてな」


 上から声がする。背中の圧力はあの男子が京介の背中を圧迫しているようだ。


「そうっすよ。まあ朔サマの言うことなんで~、ちょっと考えたけど…。やっぱバツクラスとなれ合うのはちょっとね……。朔サマじゃなかったらぶん殴ってるとこッスよ」

「理想論にすぎない。無理だ、我々とxとでは。厚いのだ、壁が」

「まあ、バツクラスから犯罪者が出たんだし。朔サマも納得するッスよ。まあ、理想を追いかける男はピュアで素敵なんスけどね~(※但しイケメンに限る)」


「クソっ! 好き勝手言いやがって。俺は何もしてないのに……!」


 ただ拳を握りしめるだけで何もできない自分が情けない。こんなとき朔が居たら。


「オイ…おい!」


 周りのやつらが好き勝手に議論しだす中、京介の背中に乗っている男が耳元でささやく。


「俺な、知ってんだよ。お前が犯人じゃねえってこと。他の連中はどうか知らねえけどな……」


 な、何を言ったのか、理解するのに少し時間がかかった。


「お前があいつらを焚きつけて俺をこうして囲んでるんじゃないか」

「俺はただ、やっと得た能力を存分に使う場所を探してたんだよ。んで能力で犯人捕まえて、手柄にしようかと思って噂のお前をずっと見てたがよ。お前、見たとこ全くハッキングできないだろ。すぐにお前が犯人じゃないと分かった。すると今度はこんなやつに踊らされてると思うって何か無性にムカついてきてな。ちょっと遊んでやろうかと思ったんだ。それにお前を捕まえるってなるとよ、こんだけキャラの濃いクラスの連中がすげーまとまるんだよ。お前のおかげで今や俺がクラスのリーダーだよ。ここんとこずっと、弓月の野郎も居ないしな!」


 そういってまた京介の顔を床に押し付ける。


「……何だそれ、そんな理由で俺の邪魔をしてるのか」


 ギリギリと奥歯が軋む。……悔しい。こんなとき漫画や映画なら、都合よく能力が目覚めて、邪魔する連中を蹴散らすのに。俺を踏みつけるこの男一人どかすことはできない。何も、できない……。現実は、どこまでも現実(リアル)だ。


「―――――いつまでワシの舎弟を踏んどんねん、ガキ」


「え――――がッ!?」


 くぐもった声が聞こえたと思ったら、直後廊下の壁に何か大きなものが当たったような音と衝撃。


 同時に背中を圧迫する力がなくなった。何事かと思い、京介は痛む体を無理やり起こした。


 そこにいたのは―――


「大丈夫か、京介?」

「え、誰だ!?? はうっ!」


 そいつは「どこ見とんじゃい!」と言って、いきなり向う脛を攻撃してきた。

 あまりの痛みに思わずしゃがんでしまった京介の眼前に居たのは、京介の膝高ほどもない小さな半ウサ人形。

 そのシュールな見た目は間違いようがない。クラスメイト、型月エクレスフィア――がいつも持ち歩いている人形、中村さんだった。


「中村さん登場や! 舎弟がaクラスのモンにやられとるって聞いたんでな。華麗に登場や」


 と中村さんはドヤ顔で決めポーズを取った。どうやら京介を助けてくれたらしい。

(いつの間に俺は舎弟に!?)


 京介を踏みつけていた奴は廊下の壁にもたれかかり白目をむいている。

 その壁はべっこりと凹んでいるが、一体中村さんはどれほどの攻撃を繰り出したのだろうか。小さな体のどこにそんなパワーを秘めているのか。


 取り囲んでいるaクラスの連中に動揺が広がり始めた。


「中村さん、いくら中村さんが強くても二人じゃ無理だ……」

「何言うとるんや。二人やないで」

「え……?」


 中村さんが親指を立てて、白い前歯をのぞかせる。とその時、群衆がざっと割れた。


「きょ、京介。助けに来たぜ……ゲホッ」


 すでにボコボコにされた後なのか、若干ボロボロのワイスが滑り込んで来た。どうやらここまで蹴り飛ばされてきたようだ。


「いや、むしろお前に助けが必要だよ!」


 ワイスは大丈夫だと白い歯を見せ立ち上がった。

(1本欠けてんじゃねえか!?)


「お、お前ら。よくもバリーを…。許さないッスよ! 逆月クン!」

「よく見ろ、状況を。増援だ、奴らの」


 リーダーを気絶させたことで、3人組の女子の方がわめいていたが、もう一人の男子はあくまでも冷静に、言った。

 群衆にどよめきが起こる。


 もう京介を取り囲んでいたaクラスの連中は、誰も京介を見ていない。皆ワイスが飛んできた方を見ている。


「………? あ、み、皆!?」


 中村さん、ワイスだけじゃない。xクラスの皆が駆けつけ、aクラスの連中とにらみ合っている。


「俺のソウルに導かれて来たんだ」

「ただ、私は前世からの因縁に決着をつけに来たのよ…」

 

 など皆中2病のお決まりのような言葉を口にしながら。その言葉が京介には何だか、うれしい。


「何か知らんが急いでんだろ、京介。皆、何だかんだ色んな理由で来たけどな。言いたい事は一つ」


 ワイスは京介の背中をぽん、と押した。


「「「「ここは俺達に任せて、先に行け!!!!」」」」


 クラス全員の声が揃った。そして中村さんが「どけ!」と言って道を塞いでいた奴を蹴り飛ばし


 「行け、京介! この場はワシらに任せろや!」


 その言葉にまた背中を押され、京介は足を踏み出した。ただ、前だけを見て。


「ごめん、俺…。いや、ありがとう、みんな!」


 怒号とともに、巨大な塊がぶつかり合う気配を背に、京介はありったけの声を張り上げた。


 届いてなくても良い。どうしても言っておきたかった。色々なことへの謝罪と感謝を。


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