泥中に咲く蓮(はす)も、やがて黒く染められる
本日最後の授業の終了のベルが鳴っている。
この学院は窮屈だ。結局京介はあれからも一言も発さないまま終わった。
放課後に教室に残っていても仕方がない。逆に自分が居ると教室は変な空気のままだ。
京介は一刻も早く学院から遠ざかりたくて、カバンをひったくり、ドアへと進む。
「な、なあ京介…」
ワイスが声を掛けてきたが、京介は「放っといてくれよ!」とその手を払いのけ教室を出た。教室を振り返ることはしなかった。
長い、長い廊下をただ闇雲に、早足で歩いていく。
「―――ッあ」
気が付くと京介は廊下の床に転がっていた。遅れて膝に痛みが迸る。
(俺、転んだのか?)
「コイツか、月見里京介ってヤツ?」
「確認した、生徒証で。間違いない、この男で」
「あいかわらずメンドクサイ喋り方ッスね~逆月君は。…って何こっち見ちゃってんですか月見里クン? xクラスのくせに」
玄関まであと少しのところで、つまずいた。否、足を掛けられた。
京介を見下ろして会話をしている高慢な男子二人と女子一人。その集団のうち女子が不快感も露わに言葉を発した。その胸ポケットに輝くのは凝った意匠が施され、銀色に輝いている、aクラス所属を意味するバッジ。
「何、するんだよ!?」
掠れた声をあげ、京介は立ち上がりそいつらの顔を見た。いかにもaクラスの連中、と言った感じの奴らだった。明らかに人を見下している眼だ。
「あぁ? 何バツクラスの奴が俺らにタメ口利いてんだよ、ってヤツ」
「お前だそうだな、ブラックドールの犯人は。だがあり得ない、我々aクラスよりxクラスが高位の能力を持っているなど。確かめようと思った、それを」
「っていうかこんなマヌケな奴が犯人ならさ、シメようよ! ウチらなら楽勝ッスよ」
そう言ってそいつらは京介ににじり寄る。
「いい加減にしろよ! どけよ!!」
ついに、今日一日貯め込んだものが爆発した。3人に殴りかかるのを何とか押し留まり、精一杯我慢して出た言葉。
「何偉そうに言ってんだ、あァ!? こっちはお前にムカついてんだよ。学院内のあちこちが警戒措置とかで歩き回んのもままならねえし、おまけに来月のクラス対抗戦。やっと暴れられるっつって楽しみにしてたのに、それまで中止にするとか言いやがるしよォ。バツクラスをボコッてストレス解消しようと思ったのによォ。全部お前のせいだろってヤツ? だからお前に責任とってもらうんだよってヤツ!」
男の一人が近寄って来て、京介の体を押した。
「知らないよ。そんな事犯人に言えばいいだろう。俺は犯人じゃない! いいから通せ!」
頭に血が昇ってきた。目の前が怒りで赤くなっていく。
だが、京介が絞り出した言葉に、3人は全く聞く耳を持たない。
なおも進路を塞いで突っかかってくる。
「試してやる、お前が犯人かどうか。解放しろ、能力を」
めんどくさい喋り方の男はただ静かにそう言って構えを取った。
「こいつぶっ殺して銀弾に突き出せばウチらも有名になるンスかね?」
そして嫌な目をした女子はそう言ってケラケラと軽く嗤っていた。
「どけって言ってるだろ!!」
もうどうなっても良い。たとえ3人相手でも一人くらいは殴り倒せる。
「貴様、何をしている!?」
まさに京介が殴りかかろうとしたその時、黒服男、銀色の魔弾の弾員がaクラスの連中をかばうように割って入った。
「大丈夫か、君たち。月見里京介に襲われたのか?」
別の黒服たちが次々とやって来て、aクラスの3人を心配して口々に言葉をかけ、それに対して3人は何でもないと笑いかけて応じている。
「違う! 俺がそいつらに足を掛けられて――」
「黙れ! 妙な真似はするなと今朝方言った筈だろう。今は能力を行使しようとした訳ではなさそうだが…。貴様の嫌疑はまだ晴れていないことを忘れるな!」
反論しようとしたが、それ以上言う前に大声で封殺された。3人はこちらをバカにしたような目で見た後教室に入っていった。
「もう放課後だ。これ以上我々に疑われたくなければまっすぐ寮へ帰れ!」
そう言ってその男は京介の手を乱暴に放した。
「くそッ何だよ!」
吐き捨てる京介を見下すように一瞥し、弾員は遠ざかって行った。
気が付けば野次馬も集まりだしてきて、京介は逃げるようにその場を立ち去った。




