ある一つの仮定
会議室の誰もがうつむいて、事態が動くのを待っていた。
「……弓月隊長、先ほどの発言についてだけど。犯人が、間抜けな僕の隊の警備をすり抜けて学院に侵入した、という意味かな?」
沈黙を破ったのは蒼月だった。
「いえ、誤解なきよう。私は蒼月隊長の隊を過小評価している訳ではありません。しかし、想像し得る事柄は、常に可能性として存在する。そのように思いませんか? まして我々干渉者にはなおさら、です」
問い詰められた朔はしかし、怖じることなくそう返す。
「………何か、含みのある言い方だね。君は何か、隠していることがないかな?」
「…さすがに鋭いですね」
蒼月にごまかしは通用しないだろう。朔は一つの可能性を話すことに決めた。
「実は先日、商業地区を巡回中にちょっとした事件がありまして」
「事件?」
「はい。巡回中に突如中規模の環境異常が発生したのを確認しました。√が使われたと見て間違いないと我々は判断しました」
それ自体は珍しい事ではない。退学処分をくらった学生の嫌がらせか、新月の敵対行動か。
「その場に居た4人組が逃走を図ったためこれを捕縛し、尋問を試みました。しかし、捕えた彼らは突如我々に襲いかかってきました。カスミの√の影響下にも関わらず、です。ですが、ほどなく彼らは死亡しました」
「……何だって? カスミちゃんの√を受けて、なお動いた?」
今まで朔の話を聞き流していた蒼月が、反応を示した。
「ええ。完全麻痺の状態にあったにも拘らず、です。さらに、彼らの死体を検分に回したところ、死因も分かりました。“熱暴走”です」
「………」
蒼月は“環境異常”、”完全麻痺”、“熱暴走”の3つの鍵から一つの推論を立て、朔に提示した。
「やはり、蒼月隊長もそう思いますか。だとすると……」
「ああ、かなり厄介だ」
「我々魔弾の人間ならばいざ知らず、一般生徒ならばブラックドール事件の犯人に加担し、学院に犯人を招き入れてしまう、といったことも考えられます」
「まったく、これだから干渉者相手は疲れるねェ。√は何でもありだからさ、色んな可能性を想定しなくちゃならないよォ」
やれやれといった様子で、すこし素の顔を見せる蒼月要。
対して朔は、あくまでも執行部隊長の顔で
「蒼月隊長。あらゆる可能性を念頭において、学院の警備を一層固めてください。我々執行部は、巡回を強化します。そして、必ず事件を処理します」
と忠告をした。
「……了解」
朔の表情は学院の生徒を守るという決意に満ちていた。蒼月はそんな朔に対し、これ以上軽口の応酬をする気にはならず、頷く。
「……弓月隊長。僕が好きな作家の言葉にこんなのがあるよ。“人は無からあらゆる意味を生み出す錬金術師である。そしてそれを成すのは大抵が演者でなく観劇者である”ってね。あまり深読みしすぎるのも良くないよって意味だと僕は解釈している。……朔君。自分の足元も疎かにしないでね。まあ、白き死神と恐れられる君には余計な心配だとは思うけど」
それは仕事上というより学院の一先輩として、後輩を心配しての言葉だった。その純粋な言葉はきっと朔にも届いたに違いない。
「……ヴァイロの言葉ですね。ご忠告ありがとうございます」
「どういたしまして。……はあ。でも、今日の事件の影響で、生徒の行動はかなり制限を受ける事になるだろうねェ。1年生の恒例イベント、クラス対抗戦も中止になるそうだよ」
そう言って、肩を落とす。それから蒼月は警備部の弾員達に向き直り
「皆も明日から学院校舎内の警備に当たってもらうことになっているが、生徒から不満が出ないように慎重に当たること。弓月隊長も登校する時はそれとなく注意しておいて欲しい」
その言葉で報告会は締めくくられ、後は各隊の打ち合わせということになった。




