「銀の弾丸を胸に」
会議室に残った蒼月要、麻月カスミ。それに後から何人もの黒服の弾員が入室した。彼らは各々の席に着き、会議の開始を待つ。
会議室は、真冬の凍った湖の如く張りつめた空気を醸し出していた…ただ一か所を除いて。
「クスクス。彼女達、今頃絶対道に迷ってるよ。何せチーフはああ見えて方向オンチ、だからねェ」
蒼月はリラックスした調子で対面の麻月に話しかけていた。
「あんた、やっぱサディストだよな。つくづく友達にはなりたくねェな」
麻月はうんざりした様子で答えた。
「いやいや、僕はマゾでもあるからね。MとSの間でも、僕はM寄りだから、丁度O当たりかなァ」
「Oって。……オッサンのOか?」
「グサッ! 人が気にしてることを…。相変わらず、キミは朔君が居ないとえげつないねェ。こっちが素なのかな?」
「放っとけ! どっちもあたしの素だよ」
「ん? 何の話をしてるんだ、カスミ、それに蒼月隊長?」
会議室のドアが開き、席を外していた朔が二人に声を掛けた。
「ゑ!? イエ、何でもないです、隊長」
麻月は両手を顔の前で振り、顔を真っ赤にして朔に答える。
「実はね、朔君。君の部下の麻月カスミちゃんにねェ…ヒッ」
何事か言いかけた蒼月は息を詰まらせ、それ以上口を開かなかった。麻月が無言の殺気を叩きつけていたから。
どうして僕の周りには恐ろしい女の子ばっかり何だろうか。
そう思いつつも、満足そうなため息を吐く蒼月だった。
などと他愛ないことを話していると、突然の電子音とともに、会議室の長机の上に映像が映し出された。ホログラムが映し出すその人物は、蒼月館学院の学院長兼銀色の魔弾東方支弾長、つまり東ヤマトの事実上のトップ、その人だった。
画面越しでも、その人物の持つ威圧感を伝えるには十分だった。今年の入学式で生徒を何人も保健室送りにしたのは記憶に新しい。
「本日、生徒が1名犠牲になったそうだな。それも白昼堂々と学院の内部で。犯人の詳細は掴んだのか? 警備部!」
画面に映る人物は重々しく口を開いた。その言葉は入学式の壇上でのそれ以上に重い。会議室は緊張した空気に包まれた。
発言を促された警備部の隊長、蒼月要は一言一言に注意しつつ、答える。
「………目撃証言によると、犠牲者は黒い炎に包まれ、即死状態で発見。現場にて怪しい動きをしていた生徒一名を重要参考人として特定しました。が、生徒情報によるとその者の能力は一切が不明とあり、他の情報は秘匿扱い。理事会も沈黙を貫いています。また当時の環境データを見るも、犠牲者周辺に√使用による環境異常、その他異常動作はありませんでした」
「秘匿……か。その生徒のデータを転送しろ」
支弾長の言葉を受けて、蒼月は件の生徒、月見里京介の個人データを転送した。データに一通り目を通していく支弾長。と、そのうちの一文に目を止めた。
「この生徒の出身施設……。弓月、貴様と同じ場所ではないか?」
「………」
「そうか。ならばこの生徒も例の事件の――」
「支弾長。それは今回の件とは無関係です」
朔は支弾長の言葉を遮った。胸中を悟らせないように、努めて平静を装いながら。
しばらくの沈黙。支弾長は探るように朔を見つめていた。
何事かを思案し、しかしそれ以上追及する事はしなかった。
「……では、警備部の見解を聞かせろ、蒼月隊長!」
会議室内がびりびりと震える。
「はい。…全生徒及び教職員の能力情報を照会しましたが、今回のように犠牲者をあれほど圧縮しうる能力を持つ者は該当なし。また黒い炎を√に持つ学内関係者もいません。学院内で犯人がいないとするならば、今回犠牲となった生徒は学院の外で犯人の時限式、あるいは条件式の√を受けたのではないかと――」
「または学院に犯人の侵入を許してしまったか、です」
蒼月の言葉に続いて朔はそう発言した。その言葉に学院長はぴくりと反応を示した。
会議室内は、にわかにざわつきを見せ始める。
蒼月は朔に何か言いたそうにしていたが、思いとどまったらしい。
「静まれ!! 両隊長の挙げた二つの意見。それは同時に存在し得る可能性だ」
「しかし、学院関係者以外の学院への立ち入りは全て警備部で把握していますが、不審な人物はありませんでした。それに学外の干渉者の入校申請もこの1週間はありません」
蒼月が反論する。それは心なしか、朔に対して向けられた言葉のように、きっと出席者には聞こえただろう。対して朔は沈黙を貫いていた。
会議室内は停滞を見せ始める。
「……解らない」
張りつめた静寂を破ったのは朔であった。
「と、いうと?」
首を傾げる朔に対し、蒼月が問う。
「この事件。これまでは犯人の尻尾が全く掴めずにいた。それがここに来て白昼堂々の犯行。派手すぎます。まるでこれまでの犯人とは別の人間のようだ」
朔の言葉を受け、会議室内はにわかにざわつき始める。
「蒼月隊長、今回の被害者は確かに黒く燃え上がり、死体は全身が焼けていたんですか?」
「……犠牲者には自然現象でいうところの温熱熱傷の状態、つまり火焔による火傷の特徴があった。傷害は皮下組織に及ぶもの、全身に深度3の熱傷が見られたそうだ。一般的に焼死と定義されるものだね」
朔の問いの真意を図りかね、蒼月は一拍遅れて返答した。
「……一般人が犯す焼殺には2種類あります。一つは強い憎しみや何らかの意思を表すもの。そしてもう一つは、対象に何らかの証拠や痕跡が残ることを嫌い、隠滅せしめんがためのもの」
思案しつつ、ぽつり、ぽつりと朔は語りだした。
「つまり、今回の犯人には、殺すこと以上の目的があった、ということ?」
蒼月もまた、ある一つの可能性を思い、問う。
「この事件。炎でなければならない理由がある……?」
朔のその言葉を受け、遅れて他の弾員も気づき、室内のそこかしこで声が飛び交う。
「静まれ!」
モニター越しのその一言で、再び会議室に秩序が取り戻された。
「……いつも言っている。悪性干渉者の思考を深りすぎるな。能力犯罪の動機などそれこそ星の数だとな。現時点ではこれ以上の議論は無益」
その言葉は会議室に広がった動揺、弾員達の迷いを消すには十分だった。
「蒼月隊長、貴様は引き続き学院の警備。そして弓月隊長。貴様の隊は市井をくまなく警戒!」
二人に指示を下した支弾長はここで少し間を置いて
「統括理事会は今回の犯人に対し、バグ指定を行った。犯人を断定し、速やかに抹殺処理を行え! そして生徒をこれ以上犠牲にする前に事件を収束させろ!」
最後に支弾長は「銀の弾丸を胸に」、と締めくくり、画面は完全に沈黙した。




