デートって言って良い、のか?
短い己の生涯が、まるで映画のワンシーンのように現れては遠ざかる。
大量の情報が、まるで洪水のように目の前に現れていく。
「これは、もしかして九条教官が言ってた、Ø(トーラ)ってやつか?」
「おい、いつまで寝ているつもりだ…? はやく、案内をし・ろ!!」
「痛っ!! ――――ハッ!?」
頬に衝撃が走り、京介は今見ていた光景から現実へと引き戻された。
「……何でビンタ?」
イイものをもらって京介は涙目になりつつ問いかける。
「何故って…。お前が白目を剥いて気絶していたから、起こしたまでのことだ」
「気絶っていうか…。ふふん。俺は自分の中のØを見つめなおしていたのだ」
もう見飽きてるんだけどな的な顔を作り、見栄を張る京介。(本当は今まで一度も見たことなかったが)
「とーら…? 何だ、それは? お前はまるで走馬灯でも見ているよな死にかけの顔に見えたけどな…」
「え……。そうま、とう、なのか…。あれは?」
そういえば、能力に目覚めた感はまったくない。それに朔は「一度ハッキングに目覚めた者は最初から方法を知っていたように自ずと能力が使えるようになる」と言っていたが、全くそんな手ごたえはない。と、いうことは…。
「………?」
エマは物珍しそうな顔で京介をじっと見ている。
「…………」
京介は浮かれていたことが急に恥ずかしくなり、そんな自分を誤魔化すように顔を背け、抗議の言葉をぶつける。
「全く、急に飛び降りるなよ……殺す気か!?」
どうも体にケガはしていないようだが、色んな意味で精神的には大ケガをした気がする。
「何だ、京介。お前もここの生徒なのだろう。どうしてハッキングしないんだ? 私がいなければ、スクランブルエェッッグ! だったぞ」
「……それは、地面に激突して、でろんでろん、ってことか? ……お、俺は無闇やたらと能力は使わない主義なんだよ!」
何故か見栄を張っていた。それに対してエマは「それは良い心がけだぞ」と無邪気に、嬉しそうに笑う。その顔を見ていると、実はハッキングなんて使えないと言えなくなってしまった。
と、京介はすでに自分が学院の外に居ることに気づいた。一体何分くらい気絶していたのだろうか?
「まあ、何でも良い。行くぞ、京介!!」
そう言ってはしゃぐエマに手を引かれて坂道を下る。
桜並木の、ピンク色のラインが綺麗なコントラストを描いて―
「ていうか、おい! コレ、スピード出し過ぎだろ! 息が、苦しいよ!!」
息絶え絶えで何とか声を張り上げた。エマはようやく走るのを止めて
「おお、すまん。つい力が入ってしまってな。だが、京介。これしきの速度についてこれぬとは……お前。さては“ヘタレ”というヤツか? そんなことでは、いざ彼女が出来たときにデートをすることも叶わないぞ」
真剣な顔で言った。
「いやいや、デートってこんな全力疾走するもんじゃないから」
「そうなのか? 私が伝え聞いたデートとは、女が男に『つかまえてごらんなさ~い』といって逃げ、男はそれを受けて『こいつぅ、待てよ~』と言いながら追いかける、というものなのだが」
おいおい。いつ、誰からこいつはそんな事を伝え聞いたのだろうか。そんな文献でしか見ないような古典的な…。このまま全力疾走を続けたら身が持たない。というか街の案内を任されたはずだよな…。
ぶつぶつと文句を重ねる京介を横目で見つつ、何が嬉しいのかエマは「ふふ」と笑っている。
そんなエマに、デートとは何ぞやということを説明しつつ、お願いですから普通に歩いてください、と京介は拝み倒すのだった。




