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狂

「はああぁぁぁ……」


 xクラス重要会議(月霊会談と呼ばれていた、また中二か?!)が終わり、下校の途に就く京介。

 無駄に長い廊下を一人歩きつつ、ため息を吐く。一人になるとどうしても余計な事を考えてしまう。あの時は決意を口にしてみたものの、不安は頭から離れてはくれない。


「俺、本当は干渉者でもなんでもなくて、やっぱり間違いで入学したんじゃないか?」


 入学当初こそ、蒼月館という立派な学校に入れたことで舞い上がっていたが、今はこの広すぎる校舎がとても煩わしいものに感じる。


 何でこんな学科に入ってしまったのだろうか。クラス全員中二病みたいな言葉を交わしているし、教師陣は無駄に怖いし、どの授業にも全くついていけない…。

 確かにクラスの皆は良い奴ばかりだが、だからこそ時々心に過る言葉。

自分はここに居ていいのか、と。


 ハッキングとは結局何なのだろうか。みんなにハッキングとはどうやっているのか聞きたかったが、それを口にする事は相手の過去の傷を抉ることに等しいと朔は言う。その肝心の朔は屋上で一度会って以来、連絡もつかない。直接あいつのクラスに行くのは何となく抵抗があるし…。と、どうにも身動きが取れないのが現状だった。


 こんな、手をかざしただけで物を浮かせたり、動かしたりなんて超能力、使えるわけが…。

 京介が何気なく右手を前に掲げてみたその時、ボッ と何かが爆ぜる音が聞こえた。


「きゃあああああああああ!」

 それとほぼ同時に、どこかで鋭い叫び声が挙がった。 分からない…。

目の前で何かの塊が燃えている。 思考が追いつかない…。

--包まれた。俺の右手の先に居た生徒が。黒い焔に、突然!


「あ、……えっ? 何だ、これ? 何かのイベント…だよね?」


 知らず零れた呟きはその場に居合わせた生徒たちの悲鳴にかき消される。


「お、おい。何だよこれ!?」

「あ、あ唖ぁァ…」

「ひいいイィ…」


 悲鳴は徐々に、しかし確実に廊下全体を混沌の色に染め上げていく。

黒い焔に包まれた生徒は声を発することもなく床に崩れ落ちた。


 突然上がった焔は、何かに燃え移ることはなく、広い廊下のただ1点に留まっている。それはまるで穢れない純白のキャンパスに黒いインクを落としてしまい、染みになってしまったような異彩感。


 突然起こった現象はまた、嘘のように消失した。まるで夢事だったかのように。


 そこにあったモノは、高熱によって個人の特定が不可能なほどに全部黒焦げ。周りには焼け焦げた骨の一部や臓物が散らばっており、体そのものは焼き縮みによりまるで膝を抱えた人形のようだった。


 それはまるで、どこかで聞いた、出来の悪い物語のようで。


「ブ、ブ…ブラッ、ク。ブラックドールだ!」


 だれかがそう叫んだのをきっかけに廊下中がパニックに包まれる。

悲鳴、怒号、恐慌。逃げ出す者や、その場に釘付けになったような者。先ほどまでの放課後の風景はまるで、ハリボテの虚構。今や完全に廊下は収拾がつかなくなってしまっていた。


 我先にと走り出すものは進路に居たものを突き飛ばし、床に倒す。そうして倒された者は足元を顧みずに逃げ出すものに踏まれていく。


 普段の振る舞いは嘘のように、その場の生徒達は恐慌に飲み込まれ、薄皮一枚の下にある、本能をのぞかせている。


 京介はあまりの突然の出来事に、頭が完全に真っ白になって、ただ棒立ちしていた。


「あいつがやったんだ!」


 そんななか、男子生徒の一人が怒声を挙げた。指し示すのは………


「私も見た!その人が手をかざした途端、焔が巻き上がったわ!」


 京介は右手を突きだしたままなのに気づき、慌てて引っ込めたが、遅かった。


「誰か、先生を呼べ! あいつが、あいつが犯人だ!!」


 群衆が、京介が犯人であるという認識の元一つになっていく。

――いや、俺じゃない! こんなこと、俺にできるわけ無いだろ。


 京介は釈明しようとして身じろぎをした。その場の集団が一斉に京介から距離を取り、後ずさっていく。


 未だ状況もろくに把握できなかったが、体が先に動いた。訳も分からずに非難の感情をその場にいる生徒に浴びせ続けられることに耐えきれなくなって、京介はその場から逃げ出した。


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