つい料理人世界一になってしまったぜ…?
入学初日にして、とんでもない学校に入学してしまったと思い始めていた京介だが、それは何日経っても変わらない。全国有数の高校の授業は、京介の想像の遥か斜め上だった
簡易命令作成学の授業は、対象となる物に自分の思考を転写して自律動作させたり、思うとおりの動きをさせるための学問だった。
授業内容は、物質にプログラミングする思考の容量をできるだけ小さくするため、とにかく与えたい命令を可能な限り簡潔にまとめて思考する方法論を学ぶというものだ。
この教科は、教師が教壇に立って授業を行う、という講義形式だったので京介にとってまだ楽だった。
確かに、いい年をした教師が大真面目な顔で中2病全開の講義を展開するというのは予想以上に痛々しく、つらいものではあったが、最悪寝ていれば良いという訳だ。
しかし、簡易命令作成学で学んだことを実践するプログラムインストール初級という科目ではそうもいかない。
初級ということもあり、最初は人形というもっとも成功しやすいと教師がのたまう物を対象に実践を行うことになった。
京介はこの授業が始まった時、真っ先にクラスメイトの型月を、いや彼女がいつも抱いているシュールな人形―中村さんという名前らしい―を連想した。どうやらクラス全員が同じ考えを持ったらしい。皆の視線が中村さんに集まる。
「なんや、そんなに俺がかっこええか。ほんならもっとよく見さらせや」
そう言って中村さんはなんとも形容しがたいポージングをドヤ顔で決めていた。
……プログラムインストールというこの科目を極めたら、顔はウサギ、体は人、の喋る人形という世にも珍妙なものを作ることも可能だというのだろうか。
「いや、無いわ~。あれは無いだろ」
クラスのあちこちからそんな声が聞こえる。だが、その言葉を口にしたヤツはことごとく中村さんにドロップキックを食らわされていた。
それはともかく、クラス中がハッキングを早く試したくてウズウズしていたと言わんばかりに、目線だけで人が殺せそうなくらいに真剣に人形と向き合っていた。
だが、もちろん京介はハッキングが使えない。人形を見つめてその後どうすれば良いのか、全く分からないのだ。
『もし、今この教室に軍の特殊部隊が攻め込んで来たら…自分はどうするか?』
『自分がオリヴィエル・コンクール(世界で最も権威のある料理大会だ)に出たらどんな料理を作るか…』
そんなしょーもない妄想を武器に、京介は睡魔との聖戦を繰り広げていた。
「お……い」
「ZZzz……」
「おーい、京介大先生。入学早々授業中爆睡とは余裕じゃん。次、移動教室だっつーの。早く行こーぜ」
「―――――ハッ」
ワイスに肩をバシバシ叩かれ、京介は自分が料理人として世界の頂点を極めたのが夢であったことを悟った。
「―――ん。…あれ、ワイス。授業中に何やってんだ?」
「おいおい。絶賛寝ぼけ中か? もう授業終わったっつーの。次、aクラスとの合同授業だろ。何か能力向上学のオリエンテーションらしいぜ。オラ、ワクワクすっぞ!」
「何だ、そのキャラ? ……よく分からんが、起こしてくれてサンキュ」
初回の授業で寝てしまい、軽く自己嫌悪を覚えたが、どうせ起きていても変わらないなと開き直り、半ば投げやりに体を起こした。




