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魔の王と竜の王

「何故、強くなろうとする?」


「それが『僕』だから」





 百鬼夜行。


 この光景は、まさにそう呼ぶのに相応しいのだろう。そう呼ぶ以外に、どんな呼称があるというのだろう。


 大地を埋め尽くすばかりの『怪物』の群れ。


 当初は七百七十七体いた魔物は、道中の森や山や海や川や洞窟や迷宮に潜むそれを巻き込んで大規模な魔獣軍団と化していた。。


 人間を一飲みできるほど巨大な狼、全身が爛れた鬼、白く燃え盛る虎、三つ首を揃えた大蛇、瘴気を纏った禿鷹、雄叫びを上げる飛龍、紫電を放つ猿、紅い鱗の蛟、小躍りをする鶏、岩石の甲羅を背負う亀、陸を歩く鮫、異様に腹の膨らんだ蛙、龍の頭を持つ蝙蝠、猛毒を垂れ流す蛞蝓、百の手の蟷螂……その他、数え切れない形容もしがたいような異形たち。


 覇道に目覚め、魔道に堕ちた少年に付き従う。最早、彼の肉体の一部とさえ称しても差し支えないのない『怪物の軍勢』。


 町や村に現れようものなら、住民がその危険性に気付く時間さえなく、逃げる猶予さえなく、悲鳴を上げながら蹂躙される。


 巨大な狼が男を丸呑みにし、鬼が女を襲い、虎が子供を焼き払い、大蛇が老人を絞め殺し、禿鷹が死体を貪り、飛龍が生物を戦慄さえ、猿が奴隷を痺れさせ、蛟が家畜を食い荒らし、鶏が野犬を啄ばみ、亀が富豪を押し潰し、鮫が商人を引き裂き、蛙が魔術師を溶かし、蝙蝠が剣士を千切り、蛞蝓が盗賊を蝕み、蟷螂が戦士を刻んでいた。


 圧倒的物量による破壊。


 彼の軍勢が通り過ぎた後には、比喩なしで草一本残らない。


 そして、たった今も一つの村を滅ぼしたところだった。


「これにて、十七の町と四十八の村を殲滅完了だ。そろそろ、国を相手に動いてみるか」


 そう嘯く本人は知らないことだが、彼と彼の軍勢によってもたらされた被害は、彼の所業だとはもたらしたものだとは思われていない。


 彼と彼の率いる軍勢がもたらした被害の多くは、新世代の四大逆魔の仕業だと思われているのだ。


 仕方がないことではあるのだろう。何故なら、新世代の四大逆魔たちはラジオを通して大々的に自分達をPRしたのだ。逆に、飛鳥は自分が魔王に変貌したことを誰にも教えていない。行く先々の村や町も皆殺しにしているので目撃者もいない。加えて、元々、飛鳥本人への注目が少ないこともある。


 本当、間の悪い少年である。


 自分とも、他人とも、時代とも、世界とも、怪物とも、英雄とも、血統とも、才能とも噛み合わない。


 どこまでも『ズレている』。


 それが六道飛鳥という少年の本質なのだろう。


 本人は知る由もないが。そして、気付かないまま死んでいくのだろう。惨めに、見っともなく。本人はそう自覚することもなく。


『友よ、また派手にやったな』


『はっはっはっはっはっはっは! 見事だぞ、小僧! これぞ我等の本懐! これが我等の本質だ! 汝ほど「逆魔」に相応しい餓鬼に逢えて我は嬉しいぞ!』


 飛鳥の内部に潜む鬼神と魔王がそれぞれ彼を讃える。


「ありがとうよ」


 二体の相棒に礼を言いながら、飛鳥は考える。次はどこの町を攻め落とすだとか、そういうことではない。自分の現状についてだ。


 こんなこと、望んではいなかったはずだ。


 自分が求めていたのは、こんな蹂躙ではなく、対等な相手との決闘や君臨者への挑戦なのだから。


 何故、このような結果になってしまったのだろうか。


「ああ、何でだろうな……」


 魔王となった少年は、ひどく虚ろに呟いた。自らが率いる軍隊によって変わり果てた、つい数時間前までは森林だった荒野を見渡しながら。


「すっげえ楽しい」


 その瞬間だった。




 眼前の光景が爆ぜた。





 あまりにも突然の出来事だったが、飛鳥はそれに対応していた。


「《炎壁》」


 高く、広く、厚く、熱い炎の壁を発動させて、彼は彼の軍勢を守った。そのおかげで彼の軍勢は無傷だった。


 だが、守っていた? 何から? 国家の軍隊とも渡り合えるであろう彼の軍勢を、一体何から守る必要があったのだろうか?


 天から飛来した《何か》からだ。


「……それは」


 炎が静まると同時に、天から飛来したものの声が聞こえた。


 それは人間の姿をしているが、全身から放たれているオーラは紛れもなくドラゴンのそれ。しかも、オーラの濃度は並大抵のものではない。これほどのオーラを放てるドラゴンなどこの世界には数えるほどしかない。


「それは、赤いのの――僕たちの朋友の技のはずだ……!」


 魔王の眼下に現れたのは、人の姿を模した二体の竜。


 青い青年と黄色い童子。


 青水竜王と黄土竜王。今や半数となってしまった四大竜王の生き残りである。


 飛鳥は確認を取るまでもなく、そのことを理解していた。いや、彼らが接近していること自体、数分前には気付いていたのだ。だからこそ防御を取るのも容易かった。


 だからこそ、彼らを煽る挑発の台詞も思い付いていた。


「ああ、これ? 奪ったんだよ、こいつを使ってな」


 飛鳥は左手に持っている刀を示す。それは斬り殺した相手の魔力を奪う妖刀『喰王』。飛鳥はこれを用いて、赤火竜王を殺した。そして、彼の持つ最高の『火』の魔力を手に入れたのだ。元々は魔力が底辺だった飛鳥だが、赤火竜王から魔力を奪い、原初の逆魔の魂を取り込んだことで、現状では世界最高クラスの魔力を持っている。


 それでも、現時点で世界最強の魔力を持っている雪風乙姫には程遠いが。


 だが、魔力や剣術を合わせて総合的に見れば、竜王二体にも遅れを取ることはないだろう。


 これは世界最悪の災害を引き起こせるほどの『怪物』であることを意味する。


 もっとも、竜王の関心はそこにはなかった。飛鳥が、眼前の少年がどれだけ強いかなどには興味がなかった。


「てめえが、てめえが赤いのを殺したのか!」


 青水竜王の怒号に対して、飛鳥は狂った笑みを浮かべた。


「ああ、そうだ。お前らも同じ場所に送ってやるよぉぉぉお!」


 少年の狂気に対して、二体の竜王は憤怒のオーラを爆発させた。


「許さない! 殺してやる!」


 黄土竜王が一歩前に出る。変身が解けて、彼らの姿が竜王本来の巨体へと変貌していく。


 飛鳥は二刀流を構えて、それに応える。


「やってみろ!」


 竜王と魔王。


 異なる人外の頂点が激突する。


「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」」


 竜王の咆哮。


 それによって召喚されたのは、聖獣の軍団。飛鳥の率いる魔獣の軍勢とは対極にある集団。正義の体現。生物の頂点たる竜王の眷属。王を失った赤火竜王と緑風竜王の眷属も含まれていた。数にして数千に及ぶだろう。


 無論、それに怖気づくほど怪物の軍勢も大人しくはない。ありったけの敵意と重圧を放ちながら、それに向かい合っていた。


「さあ、戦争を始めよう!」


 決して『歴史に残せない』戦争が開始した。





「愛とは何でしょう?」


 分からない。


 何故だか知らないが、私は『愛』というものにひどい不信感を抱いている。生前はこんなことはなかったのだけど……うん? 何だろうか。この強烈な違和感は。


 まるで、世界の全てが反転してしまうような憎悪を味わったような覚えがあるような……そんな記憶はないのだけど。


 紛いなりにも、両親や妹に愛されては……うん? やっぱり、変な感じがする。間違いなんてないはずなんだけど……あれえ?


 何かがズレているような気がする。確証はないのに、何故か断言できてしまう。私は何かを忘れているのだろうか? それは問題だ。しかし、思い出せない。違和感がモヤモヤと胸の中で渦巻いている。


「リョーマに逢えば、この違和感の正体も分かるのかな?」


 私にとって、彼は初恋だ。だが、彼にとって自分とは何なのだろう?


「リョーマは、私をどう思っているのかな?」


 その自問に、自答は出来なかった。


 他の誰かも答えることはない。


 元々、答えなんて求めてはいないのかもしれないが。


更新はまたしばらく先になりそうです。

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