逆魔の問答
一年振りの更新になります。
ブックマークを外さないでいてくれた方々に感謝を。
「『六道一転流』二の型『人間道』奥義、《岩雪崩》ぇ!」
先に動いたのは、飛鳥だった。
炎を纏った魔剣から放たれたのは、閃光のように『伸びる』斬撃。山さえ切り裂く究極の秘剣。
『舐めるな!』
だが、相手もさるもの。かの四大竜王のうち2体だ。
『《空海螺旋》!』
その瞬間、時空そのものが曲がった。情景さえ変えてみせる歪みは衝撃波を飲み込み、圧縮された。
「……へえ。やるじゃん」
口では賞賛をしながらも、顔を憤怒に染める飛鳥。当然だ。彼にとって自身の剣術とは魂を込めて仕上げた作品だ。それを破られるということは、それ即ち人生を否定されたに等しい。
人生の否定。
飛鳥にとってそれは耐え難い苦痛だ。特に、前世で親族から掛けられた言葉を思い出す。それだけで脳みそが弾けそうになる。歯軋りが止まらず、目が血走ってくる。
「ぶっ殺してやる……楽には殺さねえぞ、クソトカゲがあああぁぁ!」
両手の剣を構えて、突進のように飛び出す飛鳥。彼の剣に魔力が込められる。彼自身のものではない、赤き竜王から奪った『火』と古の魔王から貪った『闇』が、大地のマナを蝕む。
「『六道一転流』三の型『修羅道』奥義、《森羅万象》!」
地震。
一瞬、そのように錯覚するような地響き。これが、人間大の生命体が剣で地面を殴っただけの動作で起こったのだから馬鹿げている。
だが、原初の時代から生きる竜王からしてみれば、馬鹿げているものなら見慣れている。『この程度』の化け物なら、見飽きるほど見てきた。
『《天静寂》!』
青水竜王が魔力を発した途端に、地響きが止んだ。もしこのままあの地響きが続けば、竜王や魔王の軍勢だけではなく、大陸そのものを巻き込んだ地割れが発生していただろう。
竜王は改めて理解する。
この男にとって、戦闘の巻き添えなどというものは眼球にないし、配慮することもないのだ。
戦いにしか興味がない。いっそ、戦い以外の一切に興味がないのかもしれない。いつかの祭りでの暴飲暴食も、ひょっとしたら『食事の真似事』をしていただけではないだろうか。そもそも、あの量を食べて平然としているのはやはりおかしいのだし。
まあ、関係ないが。どうあっても、この男は今日、ここで殺す。絶対に殺さなくてはならない。魔女は対処できないほど危険ではあるが、対応できないほど有害ではない。だが、この魔王は対処できる程度には危険だが、対応したくないほど有害だ。
ならば、ここで殺さなくてはならない。一切の信念もなく、一切の覚悟もなく、ただ悪意のままに破壊をばらまくような怪物の存在を、竜王が許すわけにはいかないのだ。
「《水流太刀・因果逆転》!」
「《土石龍返し》!」
青水竜王と黄土竜王が同時にとっておきの一撃を放つ。
青水竜王の技は、照準を合わせた的へ放つ『水の大砲』。その様はさながら洪水。国一つ沈める質量の膨大な量の水が一個の生命に向けられる。
黄土竜王の技は、星の意思に働きかけて発動する『超重力』。本来ならば、この技によって与えられる重圧だけで如何なる敵も滅ぼすことができるが、今回は動きを封じるために放った。星一つの重圧だ。耐えられる可能性も零に近いが、この重圧の中で動けるはずがない。それこそ、二大竜神であろうと数秒ならば完全に止められる自信がある。魔王と竜王と鬼神の因子があろうと、抗えるはずがない。
超重力をかけられた上で喰らう水の大砲。それだけでも十分なはずだが、青水竜王は念を入れて、ダメ押しする。
「全員、一斉砲撃!」
青水竜王の号令によって、この場に集まった竜の眷属たちは、自らが相手する物さえ無視して、必殺のドラゴンブレスを放つ。
「「「「「「《激竜葬》!」」」」」」
夜空に輝く星空もかくやという勢いで、かつて人間だった何かに向けて、攻撃がぶつけられた。その勢いはすぐには衰えず、攻撃の余波が衝撃波となって周囲の景観を破壊する。この状態が一分ほど続いただろうか。
どちらの眷属ということも関係なく、全ての生命が動きを止めた。大気が安定せず、気配を読めないため、魔王の死を確認できない。それは同時に、生を確認できないことも意味していた。誰もが状況を見守った。
全身全霊をかけた一撃を使用後ということもあって、大きく息を切らす青水竜王が呟いた。
「やったか……?」
倒したはずだ。倒せていけなければならないはずだ。こちらの全てを懸けた全撃だったのだ。これで倒せていないというのならば、こちらの負けが確定してしまう。無論、相手の肢体が無事でなければ、問題はない。
だが、何故だ。どうして、こうも冷や汗が止まらない!
「あれだけの攻撃を受けたんだ。無事なはずがない……」
「それはフラグだろうぜ」
しかし、魔王は生きていた。
■
「さて、問答の時間だ」
「これより話すことは即ち、人間という概念に関してだ」
「ある哲学者は『人間は考える葦である』と説いた。だが、本当にそうだろうか? いや、葦であることに大した反対意見はない。人間は本当に、『考えている』のだろうか」
「そも、思考とは何だろう?」
「思考という行為をした人間はどれくらいいるのだろうか?」
「この世界には馬鹿ばかりだが、果たして、馬鹿なりに考えているのだろうか。馬鹿なりに考えている奴はどれだけいるのだろうか。己が愚者であることを自覚している賢者は、人類の内、何パーセントなんだろうか」
「あの英雄もどきもそうだ」
「彼は英雄に憧れていた。だから、英雄になった。いや、正確には、英雄っぽい行動をしていたら、周囲も彼を英雄だと認識したというところか」
「さて、ここで論点となるのは、『白騎士は英雄になることの代償を理解していたかどうか』ということだ」
「だが、答えは簡単だ。とてもシンプル。『考えていなかった』だ。そも、彼が欲したものは名声ではない。正しくは、名声から発生するであろう憧れや羨望、実も蓋もない言い方をすれば『あらゆるプラスの感情』だな。端的に言えば、『愛』だ」
「うん。これは間違いない。だからこそ、彼は失ってしまった訳だ。『愛』が欲しいなら、あのような生き方をするべきではなかった」
「人間が英雄に与えるのは名誉でも愛でもない。いつだって悪意と死だよ」
「何故ならば、『人間』と『英雄』は全く別の生き物だからだ。『怪物』と『人間』が違うように、『人間』と『英雄』は全く違う。いっそ、『英雄』は『怪物』の方に近い。『人間』が『怪物』に対してどんな感情を向けるかなど語るまでもないだろう。そうであるならば、『怪物』に近い『英雄』にも同じような感情が向けられて然るべきだ」
「ようは、『英雄』は愛されないのだよ」
「『人間』からも『怪物』からも愛されない、絶対的に孤独かつ孤高の存在。それが『英雄』というものだ」
「愛こそを求めていた少年は、『英雄』になどなるべきではなかった」
「哀れを通り越して、笑えてくるな。実に滑稽だ。だからこそ、彼は幸福になるべきだな。我々を倒した後で、今度こそ誰かを結ばれてくれることを祈ろう。まあ、我々を倒せたらの話ではあるが」
「では、論点を変えて、次は剣聖について語ろうか」
「まあ、彼は何だ。最初から悲しみも哀れみもないな。ただうざいだけだ。ガキのワガママを振りまいているだけ。純粋に愛を欲している英雄の方がまだマシだ」
「目指すものも欲したものも忘れて、彼はどこに行くのだろうな」
「いや、あんな状態になっても己の技だけは忘れていない所を見ると、非常に泣けてくるのかな。もう技など捨てた方が強いだろうに」
「こだわり? いや、もっと根深いものだろうな、あれは。あるいは、薄っぺらいのかもしれないが。まあ、関係ないか」
「剣聖に関してはこれくらいか? いや、あれはそも、剣聖と呼んでいいのか分からないけどな。もう完全に魔王か鬼神であろうよ。であれば、くっつけて『魔神』と呼ぶべきなのかもな」
「次は……、ああ、魔女か」
「彼女に関してはよく分からんな。いや、マジで」
「捉えようがないというか、捉えてもしょうがないというか。はっきり言って、関わりたくないというか」
「先に挙げた英雄は愛玩動物で、魔神が害獣なら、魔女は天災だな。最早、話の次元が変わってくる。動物と天候を比較できるか。規模が違うわ」
「だが、正直欲しいとは思う」
「怖いもの見たさとは少し違うな。あの狂気と恐怖を差し引いても、彼女はかなり魅力的だ。彼女の魂は誰よりも純粋だ。何より美しい」
「あの身体を貪りたい。血や涙はさぞ美味いだろう。あの精神を砕きたい。悲鳴はさぞ心地よいだろう。あの魂を屈服させることの愉悦は、世界を破壊することより勝るやもしれない」
「そうであれば、是非とも俺の仔を産み落として欲しいものだ」
「では、お次は龍神に関してか」
「前時代の遺物。ただそれだけだ」
「奴に関してはもう何の興味もない。欠片も関心がない。欲望などもっての他。俺の興味は英雄の未来であり、関心は魔神の破滅であり、欲望は魔女の陵辱だ」
「本当に、それだけ」
「最後に、我々のことに関して考察しようか。特に意味などないが、やらない訳にはいかないよな」
「論題は、そうだな。第一に、我々は何故人間を殺すのか。第二に、我々の終着点はどこにあるのか。第三に、我々は何なのか」
「第一の論題だが、これは簡単だ。とてもシンプル。ん? さっきもこの台詞は使ったかな。まあ、いいか。とにかく、答えは『人間を愛しているからだ』」
「先代の四大逆魔はこの論題に関する思考をやめたようだが、俺は違う。というか、考えるまでもないことではあるな」
「俺達には他にないんだ。人間や他の生命や世界に対して、どうやってコミュニケーションを取ればいいのか。どうやって愛情を表現すればいいのか。その答えが、『悪意』でしかないんだ」
「第二の論題だが、これまた簡単だ。『世界を滅ぼす』だ。悪意が愛情表現だとは先程語ったばかりだが、世界の破壊とは究極の悪意だと思う。だからこそ、世界を滅ぼそうとするのだよ、俺達は」
「第三の論題だが、これは、まあ、これまで以上にシンプルだ」
「我々は逆魔だ。それ以上もそれ以下でもそれ以外でもない。ひょっとしたら、それ以上かそれ以下かそれ以外なのかもしれないが、そうであっても問題はないし、興味もない。どっちでも同じことだ。何でも等しいことだ」
「さて、自問自答はこの辺りでいいだろう」
「我らが愛し、我らが殺すことを定められた人間を」
「愛するが故に殺すとしよう」
申し訳ないんですが、次回更新の目処はついていません。
しばらく書いてないから設定とか世界観を忘れて一から読み直しています。




