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俺の彼女がヤンデレすぎて日常生活に支障をきたしている件  作者: 宵先誠


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第2話:武が余計なことをした件

第2話を読みに来ていただき、ありがとうございます


今回は「位置情報を偽装したらどうなるのか」という、絶対に試してはいけない実験から始まります


好奇心旺盛な友人と、嫌な予感しかしない主人公


そして、その予感を決して裏切らない彼女


前回よりも少しだけ日常寄り、でもやっぱり普通ではない二人のやり取りを楽しんでいただけたら嬉しいです


それでは、第2話をどうぞ。

「試しにやってみろよ」


放課後の図書館、窓際の席


武は声を潜めながら、スマホを俺に突きつけてきた


「白雪さんに黙って、位置情報を別の場所に偽装するんだ」


「嫌だ」


「なんで」


「死ぬから」


「大げさだろ」


「大げさじゃないから言ってる」


俺——神崎蓮、大学1年生——は、窓の外を見た。


曇り空


そのうち雨になるかもしれない


「聞けよ、蓮」


武が前のめりになる。


「科学的に考えようぜ。白雪さんはお前のことが好きすぎて、GPSで管理してる。じゃあ仮に、お前の位置情報が突然おかしくなったとしたら、どう反応するか確認する価値があるだろ」


「ない」


「なんで」


「確認した結果が怖いから」


「怖いことは確認しておいた方がいい。人類の進歩はそうやって生まれてきた」


「お前は今、俺を人柱にしようとしてる」


武はにやりと笑った


「まあな」


「正直だな!」


「いいから貸してみろ。俺がやる」


「待て、待て待て——」


止める間もなかった。


武は俺のスマホをひったくって、位置情報の偽装アプリを秒速でインストールしはじめた。


「偽装先はどこにしようかな。……スカイツリーがいいな」


「スカイツリー!? なんで!?」


「なんとなく」


「なんとなくで俺の命運を決めるな!!」


武はスマホを操作しながら、「ほい」と言って俺に返してきた。


「これで今の蓮の位置情報はスカイツリーになってる」


「……」


俺は自分のスマホを見た。


偽装アプリの画面には、地図が表示されていた。


赤いピンが、東京タワーに刺さっている。


「取り消してくれ」


「30分だけ様子を見よう。どんな反応が来るか観察するだけだから」


「観察してる場合じゃない俺の彼女が——」


そのとき、スマホが震えた。


姫子からのLINEだった。


---


姫子:蓮くん、今どこにいるの?


---


「来た」と武が言った。


俺は冷や汗をかきながら返信を打つ。


---


俺:図書館


姫子:近くに図書館はないよ


---


「やばい」


「面白い」


「やばいって言ってる!!」


俺が叫ぶと、図書館の司書さんが「お静かに」と睨んできた。


すみません。声を落とす。


---


俺:スマホの誤作動だと思う


姫子:ふうん


---


既読がついて、それきりLINEが止まった。


武が「どうなった」と覗き込んでくる。


「止まった」


「怒ってる?」


「わからん。それが一番怖い」


「テンプレだと次はどうなるの」


「知るか」


俺は溜め息をついて、スマホをポケットにしまった。


「位置情報、今すぐ戻してくれ」


「じゃあ元に戻す——あ」


武が固まった。


「なに」


「アプリがフリーズしてる」


「は」


「ちょっと待って、再起動したら——あ、消えた」


「消えたってなんが消えたんだ」


「アプリが。でも大丈夫、アンインストールして入れ直せば——」


「早くしてくれ!!」


「わかってる落ち着け……あ、位置情報サービスが全部オフになった」


「それはそれでやばい!!」


俺の位置情報が、完全に消えた。


---


夜、7時。


俺は自分のアパートに帰り着いて、深く溜め息をついた。


武とは1時間かけてなんとかスマホの設定を元に戻した。


位置情報も、今はちゃんと機能している。


大丈夫だ。


きっと大丈夫だ。


姫子からのLINEも、あれ以来来ていない。


「……寝よう」


シャワーを浴びて、布団に入った。


スマホを枕元に置いて目を閉じる。


静かだった。


静かすぎた


むしろその静けさが怖かった


姫子が怒ったとき、もしくは何かを考えているとき、彼女は決まって静かになる。


嵐の前の静けさ、というやつだ。


「……大丈夫」


自分に言い聞かせながら、俺は眠りについた。


---


翌朝、7時15分


アラームより先に目が覚めた。


原因は、わからない。


ただ、なんとなく


虫の知らせ、と言うのかもしれない


俺はのろのろと起き上がって、窓のカーテンを少し開けた。


外を見た。


「——」


アパートのエントランス前


姫子が立っていた


朝の光の中、黒い髪をゆるく編んで、ベージュのワンピースを着て


完璧な笑顔で


そしてその右手に、五徳(ごとく)が握られていた。


「……五徳」


俺は声に出して確認した。


コンロの上に乗せる、鉄製の、あの五徳だ


重さは、たぶん結構ある


なんで


なんで五徳


俺はそっとカーテンを閉じた


「逃げ場がない」


位置情報は今、正確に機能している


俺のいるこのアパートを、姫子のスマホは正確に指し示しているはずだ


もはや何もできない


俺は覚悟を決めて、着替えて、玄関のドアを開けた


---


エントランスまで降りていくと、姫子はすでにそこにいた。


近づいてくる


笑顔のまま。


「おはよう、蓮くん」


「……おはよう」


「五徳、見えてた?」


「見えてた」


「そっか」


姫子はさらりと五徳を脇に抱えた。


「近所のホームセンターで売ってたの。うちのコンロの、ちょうどいいサイズを探してて」


「朝7時に?」


「昨日の夜に買って、今朝持ってきたの」


「なんで俺の家に持ってくるんだ、自分の家に持ってけ」


「蓮くんちのコンロにもあった方が便利かなって」


姫子は五徳を俺に差し出してきた。


「はい、プレゼント」


「料理道具をプレゼントしてくれるな!!」


「料理上手くなるよ?」


「そういう問題じゃない!!」


俺は五徳を受け取りながら、姫子の顔を見た。


笑顔だった。


いつもの、完璧な笑顔。


「……姫子」


「なあに」


「昨日のこと、怒ってる?」


「怒ってないよ」


「でも」


「ただ——」


姫子は少しだけ首を傾げた。


「蓮くんの位置情報が急にスカイツリーになったり、消えたりしたから、心配しただけ」


「心配」


「死んだかと思った」


「大げさだろ!?」


「大げさじゃないよ」


姫子の声が、少しだけ低くなった。


「蓮くんの居場所がわからなくなったとき、私、本当に怖かった。3秒で外に出た」


「3秒!? 部屋着じゃなかったのか!?」


「着替えてから出た」


「どっちだ!!」


「心配だったの」


姫子はそれだけ言って、俺の袖をそっとつまんだ。


指先が冷たかった。


「蓮くん、どこにも行かないでよ」


「……どこも行かないけど」


「昨日、武くんに何かされたんでしょ」


「なんで武の名前が出てくるんだ」


「なんとなく」


「なんとなくで名指しするな」


「蓮くん単独であんな発想しないから」


「……正しいけど正しくない」


俺は深く息を吐いた。


「ごめん。怖がらせた」


「……うん」


「もうしない」


「……うん」


姫子は袖から手を離して、顔を上げた。


笑顔が戻っていた。


今度は、少しだけ柔らかい笑顔だった。


「朝ごはん、作ってきたよ。上で食べよ」


「合鍵で入るのはもう諦めた」


「諦めた?」


「受け入れた、と言い直す」


「素直でよろしい」


姫子は俺の横に並んで歩き始めた。


エントランスを抜けて、階段を上る。


その間、俺は手の中の五徳を見つめた。


鉄製の、ずっしりとした五徳。


正直、コンロには合うサイズかもしれない。


「姫子」


「なあに」


「これ、本当にうちのコンロ用に買ったのか」


「うん」


「昨日の夜に? 俺の位置情報が消えた後に?」


「そうだよ。落ち着くために買い物したの」


「落ち着くために五徳を買う人間が! 世界に何人いるんだ!!」


「私くらいかな」


「そうだよ! お前くらいだよ!!」


俺の叫びが、朝の廊下に響いた。


---


朝ごはんは、卵雑炊だった。


温かくて、出汁の味がしっかりして、体に染み込むような味だった。


「おいしい」


「よかった」


姫子は向かいに座って、自分の雑炊を食べながら微笑んだ。


「昨日、蓮くんの位置情報が消えたとき、夕飯も作ったんだけどな。食べてもらえなかった」


「すまん」


「肉じゃが、冷凍してあるから今夜食べてよ」


「食べる」


「約束だよ」


「約束する」


俺たちはしばらく無言で雑炊を食べた。


窓から朝の光が入ってきて、姫子の黒い髪が光って見えた。


「姫子」


「なあに」


「お前、俺のことが心配なのはわかった」


「うん」


「でも、GPSで管理したり、ポータルサイト覗いたり、合鍵で勝手に入ったりするのは——普通じゃないから」


「……」


「嫌とは言ってない。ただ、お前が心配してるのはわかるから、なんかあったときは俺から連絡する。だから、少しだけ」


姫子がじっと俺を見ていた。


「——少しだけ?」


「少しだけ、信用してくれ」


しばらくの沈黙があった。


姫子は箸を置いて、両手を膝の上に重ねて。


「……3割だけ」


「3割!?」


「蓮くんへの信用を、3割まで増やす」


「スタートラインが低い!! 今まで何割だったんだ!!」


「0.5割」


「俺への信用、ほぼゼロだったじゃないか!!」


「だって蓮くん、油断するとどこか行っちゃいそうで」


「行かない!! どこにも行かない!!」


「本当に?」


「本当に!」


姫子はじっと俺の目を見て、それからふわりと笑った。


「……じゃあ、5割にする」


「増えた!」


「頑張ったね、蓮くん」


「頑張ったのか俺は!?」


「頑張ったよ。えらい」


「なんか子ども扱いされてる気がするんだけど!!」


姫子はくすくすと笑いながら、また雑炊を食べ始めた。


俺も雑炊を食べた。


朝の光の中で、温かい飯を食べながら。


今日も俺の日常は、命がけで平和だった。


---


「で、昨日の件だけど」


昼休み。


食堂の隅で、武が焼きそばパンを持ったまま固まっていた。


「五徳、持ってきてたって言った?」


「持ってきてた」


「やばい」


「やばいな」


「逃げろ」


「逃げない」


「なんで」


俺は少し考えて、答えた。


「卵雑炊がおいしかったから」


武は盛大な溜め息をついた。


「お前は一生あの子に勝てない」


「知ってる」


「それでいいの?」


「まあ」


武は首を横に振って、焼きそばパンを一口かじった。


「ばか」


「そうかもな」


俺は食堂の入り口を見た。


今日は姫子はまだ来ていない。


でも5分もしたら来るだろう。


位置情報は今日もちゃんと動いている。


それが今は、少しだけ——


「蓮くん」


入り口から声がした。


姫子が立っていた。


今日も完璧な笑顔で。


両手に弁当を二つ、そして武の分のハンバーグ弁当。


「武くんの分もあるよ」


「ありがとうございます」


「昨日の話なんだけど」


姫子は俺の隣に座りながら、さらりと言った。


「位置情報のアプリ、削除されてたね」


「……知ってたの?」


「昨日の夜、確認した」


「いつの間に!?」


「3秒あれば十分」


「速い!!」


武が「ありがたくいただきます」と静かに弁当を受け取った。


姫子は俺の腕に自分の腕を絡ませて、嬉しそうに言った。


「今日はね、蓮くんへの信用を5割に上げたから、見守る時間を1日あたり30分だけ減らそうと思って」


「……今まで何時間見てたんだ」


「ひみつ」


「怖い」


「でも今日から30分は自由時間だよ。よかったね」


「よかったのか? これは?」俺は武に向いた。


「よかったじゃないの」武がハンバーグを食べながら言う。


「30分自由になった」


「30分って言ったけど!」


「人生は積み重ねだ。30分から100分にするのに、さらに半年かかるかもしれないけど」


「半年!?」


「それが蓮の彼女というものだ」


「達観するな!!」


姫子がくすくすと笑った。


その声が、また困ったことに、本当によくて。


俺は盛大に溜め息をついてから、弁当の蓋を開けた。


今日のおかずは唐揚げだった。


おいしかった。


こうして俺の、命がけで平和な青春は、今日も続く。


---


次回予告


「蓮くんのお母さんが会いたいって」


「ふーん」


「——私に、だって」


「は?」


俺の母親と姫子が接触した。


俺への信用が5割の彼女と、息子の彼女に妙に積極的な母親が繋がった結果、俺の人生に何が起きるのか。


生き延びられるかどうかは、俺次第だ。(たぶん無理)


---


第3話へ続く

第2話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました


今回は「GPSを偽装したら彼女はどう反応するのか」という、主人公にとっては迷惑極まりない実験回でした


武は今回も遠慮なく主人公を人柱にしてくれました。


こういう「絶対に余計なことをする友人」がいるからこそ、蓮の日常は毎回騒がしくなっています


そして次回は、ついに蓮のお母さんと姫子が接触します


息子の恋人を歓迎する母親と、ヤンデレな彼女


この組み合わせが平和に終わるはずもありません。


少しでも笑っていただけたり、続きが気になったと思っていただけたら、とても嬉しいです。


応援・コメント・レビュー・フォローは、今後の執筆の大きな励みになります。


それでは、第3話でまたお会いしましょう。

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