9.私は変わるのだ
翌週の月曜日、私は取り巻きの女生徒たちに集まってもらい、ジュリアと正式に婚約したことを伝えた。
「これまで私と共に楽しく過ごしてくれて、ありがとうございました。これからは、婚約者となったジュリアを大切にしていきたいと考えています。身勝手で申し訳ありません」
私は中庭で取り巻きの女生徒たちに向かってひざまずき、心から詫びた。
彼女たちにも、前世では私のせいで迷惑をかけてしまった。
私は『学園にいる間くらい自由にしていいだろう』などと愚かなことを考えて、彼女たちと共に過ごすことを選んでしまった。
すべて……、私が間違っていたのだ。
「やっぱりジュリア嬢が好きだったんじゃないの」
「わかってはいたけどね」
などと、彼女たちは笑ってくれた。
男女の間にも友情はあるだろう。
だが……。
前世の私は調子にのり、女性たちに騒がれることに優越感を覚えて、ジュリアを深く傷つけてしまった。
そのせいで、ここにいる彼女たちの人生まで狂わせてしまった。
前世の私は、本当に最悪な男だ……。
「騎士科に転科したのよね?」
「すごいわ! 思い切ったわね!」
「訓練や試合を見に行くくらい、いいでしょう?」
彼女たちは、いつもの調子で明るく言ってくれた。
「もう私には近づかない方がいい。自分の婚約者や、これから婚約する相手を大切にするんだ」
自分でも驚くほど、厳しい声が出てしまった。
私は顔を上げて、彼女たちを見まわした。
「……わかったわ」
「なにか困ったら、いつでも言ってね」
「助けるわ」
「そうよ、マルシオ」
彼女たちは顔を見合わせて、少し困ったように笑い合い、中庭から去っていった。
『助けるわ』
本心からの言葉なのだということが伝わってきた。
だが、相手は王の弟であり、一代限りとはいえ公爵となる男だった。
その男には、インベル伯爵が後ろ盾としてついた。王都や近隣の領地にも水を供給する、バルバット湖を押さえている方だ。
今はまだ学園に通っている身の令嬢では、睨まれたらひとたまりもない。
彼女たちは、私から離れた方が良いのだ。
私は、今世では、できる限り誰のことも不幸にしたくなかった。
彼女たちの姿がすっかり見えなくなると、近くの木の陰からジュリアが現れた。
ジュリアには、隠れて一部始終を見ていてもらったのだ。
私はゆっくりと立ち上がって、ジュリアに笑いかけた。
今の私は、こうしてジュリアの姿を見られるだけで幸せだった。
「マルシオ……、わたくし、彼女たちが訓練や試合を見に来るくらい、気にしないのに……」
ジュリアは遠慮がちに言ってくれた。
ずっと嫌な思いをしてきたはずなのに……。
私は……、こんなに人を気遣える心やさしい女性を傷つけてしまった。
きっとジュリアは、前世でケルタ子爵領の領民たちが、インベル伯爵家からの水の供給が止まって苦しんでいることに、平然としてはいられなかっただろう。
私への怒りと、領民たちの心配で、揺れ動いて、辛かったはずだ。
ジュリアは、自分がどうしたらいいのか、自分でもわからなくなっていたのかもしれない。
私はジュリアに向かってひざまずいた。
「これでいいんだ。私は、もうジュリアを悲しませたくない……」
私の幸せは、ジュリアのそばにしかないとわかっている。
私は必ず騎士となる。
そして、守りたいものを守るんだ。
ジュリア。
ケルタ子爵家とインベル伯爵家との絆。
バルバット湖。
前世では苦しめてしまったケルタ子爵領の領民たちのためにも、私は変わるのだ。
もうバルバット湖の水を止められたりするようなまねはしない。
――ふと、私の心に疑問が浮かんだ。
インベル伯爵家が率いる、バルバット騎士団の団長をしている叔父……?
前世では、そんな方いただろうか……?
それに、先ほどの女性たちの中には、テレサ嬢がいなかった。
ピンクブロンドなどという珍しい髪色の、あの女生徒……。
弟、叔父、取り巻きの女生徒……。
時が戻ったせいで、私は彼らを忘れてしまったのか……?




