表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『学園にいる間くらい自由にしていいだろう』と勘違いした愚かな男の末路を知っている  作者: 赤林檎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/24

10.騎士になるために生まれてきたような熱い男

 私は騎士科に移ると、どの授業も真面目に受けるようになった。


 前世の私は、一学年では普通科、二学年では領地経営科を選んだ。


 令嬢たちの多くは、普通科から淑女科へと進む。前世のジュリアも、二学年では淑女科を選んでいた。


 今世のジュリアは、私が騎士になるため、二学年では文官科か商科を選ぶつもりだと言ってくれた。

 私が怪我をするなどして騎士を引退しても、生活していかれるように、と考えてくれたのだろう。

 そんなジュリアの気持ちに応えるためにも、私はどの授業も手を抜くわけにはいかないと思った。


 ジュリアを大切にしたい……。

 私はその一念で、勉強にも、剣技にも、体術にも、乗馬にも打ち込んだ。

 肉体を鍛えることにだって、手を抜いたりはしなかった。

 早朝に走り込みをすることも、地道に鉄の棒を持ち上げたりして筋肉を増やすことも、どれもみんなジュリアとの未来につながる大事なことだと思えた。


 それでも、平凡な男である私は、学年で一番になったりはできなかった。


 一学年上のフェリペは、勉強でも、剣技でも、領地経営学でも、いつもトップだったが……。


 私はというと、勉強も、剣技も、乗馬も、騎士心得も、どれも中の上程度だ。

 以前の成績が中の下だったことを考えると、これでも良い方だった。


「軽い男だと聞いていたが、なかなかやるな」

 などと、剣技の授業の後、同級生から言われる程度にはなれた。


「いや、まだまだだ……」

 私の答えは、いつも同じだった。

 私には、もう後がないのだ。


「そんなことはないと思うが……。急にどうしてそこまで努力できるようになったのだ?」

 今日は、他の生徒たちも集まってきた。


「私には……、誠実であることと、ジュリアへの愛しかないからな」

 もう誰も裏切りたくない。

 ――裏切り者は、また裏切る。

 私の心の奥で、前世の私が、今世の私を嘲笑うのだ。

 だから、私は同級生たちに対しても、正直に答えた。


 まるで格好をつけているような、キザったらしいセリフだった。

 前世の私なら、誰かがそんなことを大真面目に言っていたら、きっと笑っただろう。


「ああ、お前は噂と違って、そんな男だよな」

 同級生から背中を叩かれた。

 誰も私を笑ったりしなかった。

 前世の私だったら、今の私を笑ったと思うのに……。


「騎士というものは、お前のようであらねばな」

 と言って、うなずく者までいた。


「ありがとう……」

 私は同級生の言葉がうれしくて、片手で顔をおおって泣いてしまった。

 どれも、こんな私が、かけてもらえるような言葉ではない……。


「熱い男だな」

「ああ、まったくだ」

 同級生たちは、勝手に納得していた。


 私は、いつの間にか『騎士になるために生まれてきたような熱い男』などと言われるようになっていた。

 私など、そんな素晴らしい男ではないと思うが……。

 そんな風に評価してくれる人たちのことも、決して裏切りたくなかった。


 ○


 二学年になると、ジュリアは商科に進んだ。

 私が騎士としてバルバット騎士団に所属したら、インベル伯爵領の商会か商店に勤めるつもりらしい。

 ジュリアは伯爵令嬢だというのに、平民に交じって、商会や職人の元で計算の仕事をするのだと説明してくれた。

 売上がどうとか、人件費やら材料費やらがどうとか、帳簿に書き込むらしい。

 商科では、その書き方のルールやら計算方法を勉強するのだと言っていた。


「マルシオに負けないよう、わたくしも頑張るわ」

 だなんて……、ジュリアは笑ってくれた。

 私が騎士になるせいで、しなくても良い苦労をさせてしまうというのに……。


「ありがとう……」

 私はまた泣いてしまった。


「本当に熱い男になってしまったのね」

 ジュリアが少し困ったような声を出した。


「こんな私は……、嫌だろうか……?」

 今世の私は、泣きたくなくても、すぐ泣いてしまうのだ。

 みんなのやさしさがうれしくて、ありがたくて……。

 いろいろな気持ちがあふれて、涙となって流れ出す。


「そんなことないわ」

 ジュリアが背中をさすってくれた。


「ありがとう……」

「そんなマルシオも素敵よ」

 ジュリアは、こんな情けない私を抱きしめてくれた。

 まるで聖母のようではないか……。

 私は声を上げて泣いて、ジュリアを困らせてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ