10.騎士になるために生まれてきたような熱い男
私は騎士科に移ると、どの授業も真面目に受けるようになった。
前世の私は、一学年では普通科、二学年では領地経営科を選んだ。
令嬢たちの多くは、普通科から淑女科へと進む。前世のジュリアも、二学年では淑女科を選んでいた。
今世のジュリアは、私が騎士になるため、二学年では文官科か商科を選ぶつもりだと言ってくれた。
私が怪我をするなどして騎士を引退しても、生活していかれるように、と考えてくれたのだろう。
そんなジュリアの気持ちに応えるためにも、私はどの授業も手を抜くわけにはいかないと思った。
ジュリアを大切にしたい……。
私はその一念で、勉強にも、剣技にも、体術にも、乗馬にも打ち込んだ。
肉体を鍛えることにだって、手を抜いたりはしなかった。
早朝に走り込みをすることも、地道に鉄の棒を持ち上げたりして筋肉を増やすことも、どれもみんなジュリアとの未来につながる大事なことだと思えた。
それでも、平凡な男である私は、学年で一番になったりはできなかった。
一学年上のフェリペは、勉強でも、剣技でも、領地経営学でも、いつもトップだったが……。
私はというと、勉強も、剣技も、乗馬も、騎士心得も、どれも中の上程度だ。
以前の成績が中の下だったことを考えると、これでも良い方だった。
「軽い男だと聞いていたが、なかなかやるな」
などと、剣技の授業の後、同級生から言われる程度にはなれた。
「いや、まだまだだ……」
私の答えは、いつも同じだった。
私には、もう後がないのだ。
「そんなことはないと思うが……。急にどうしてそこまで努力できるようになったのだ?」
今日は、他の生徒たちも集まってきた。
「私には……、誠実であることと、ジュリアへの愛しかないからな」
もう誰も裏切りたくない。
――裏切り者は、また裏切る。
私の心の奥で、前世の私が、今世の私を嘲笑うのだ。
だから、私は同級生たちに対しても、正直に答えた。
まるで格好をつけているような、キザったらしいセリフだった。
前世の私なら、誰かがそんなことを大真面目に言っていたら、きっと笑っただろう。
「ああ、お前は噂と違って、そんな男だよな」
同級生から背中を叩かれた。
誰も私を笑ったりしなかった。
前世の私だったら、今の私を笑ったと思うのに……。
「騎士というものは、お前のようであらねばな」
と言って、うなずく者までいた。
「ありがとう……」
私は同級生の言葉がうれしくて、片手で顔をおおって泣いてしまった。
どれも、こんな私が、かけてもらえるような言葉ではない……。
「熱い男だな」
「ああ、まったくだ」
同級生たちは、勝手に納得していた。
私は、いつの間にか『騎士になるために生まれてきたような熱い男』などと言われるようになっていた。
私など、そんな素晴らしい男ではないと思うが……。
そんな風に評価してくれる人たちのことも、決して裏切りたくなかった。
○
二学年になると、ジュリアは商科に進んだ。
私が騎士としてバルバット騎士団に所属したら、インベル伯爵領の商会か商店に勤めるつもりらしい。
ジュリアは伯爵令嬢だというのに、平民に交じって、商会や職人の元で計算の仕事をするのだと説明してくれた。
売上がどうとか、人件費やら材料費やらがどうとか、帳簿に書き込むらしい。
商科では、その書き方のルールやら計算方法を勉強するのだと言っていた。
「マルシオに負けないよう、わたくしも頑張るわ」
だなんて……、ジュリアは笑ってくれた。
私が騎士になるせいで、しなくても良い苦労をさせてしまうというのに……。
「ありがとう……」
私はまた泣いてしまった。
「本当に熱い男になってしまったのね」
ジュリアが少し困ったような声を出した。
「こんな私は……、嫌だろうか……?」
今世の私は、泣きたくなくても、すぐ泣いてしまうのだ。
みんなのやさしさがうれしくて、ありがたくて……。
いろいろな気持ちがあふれて、涙となって流れ出す。
「そんなことないわ」
ジュリアが背中をさすってくれた。
「ありがとう……」
「そんなマルシオも素敵よ」
ジュリアは、こんな情けない私を抱きしめてくれた。
まるで聖母のようではないか……。
私は声を上げて泣いて、ジュリアを困らせてしまった。




