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『学園にいる間くらい自由にしていいだろう』と勘違いした愚かな男の末路を知っている  作者: 赤林檎


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7.今日のマルシオは変ね

 翌日、私が王立学園に登校すると、ジュリアが昇降口で待っていてくれた。

「おはよう、マルシオ」

 ジュリアが私を眩しそうに見上げてくる。


 それだけで、ありがたいと思う。


 かつて当たり前だったこの日常が、どれほど貴重なものだったのか、今ならばわかる。

 前世の私は、ジュリアと挨拶することすらできない関係になってしまったからな……。


「おはよう、ジュリア。今日も綺麗だ」

 私は心からジュリアを褒めた。

 ジュリアより綺麗な女なんていない。

 貴族にも、平民にも、一人としていない。

 同じ茶色の髪と瞳でも、ジュリアとはまったく違う。


「まあ、マルシオったら、急にどうしたの?」

 ジュリアが頬を染めてうつむいた。


「私からの婚約の申し込みは、ちゃんと届いた?」

 私は遠慮がちに訊いてみた。


 すでにフェリペとの話が進んでいるだろうか……。

 ジュリアは、いつフェリペと親しくなり、婚約までいってしまったのだろう……。

 私には、まったくわからなかった。


「届いたわ。それより、次期領主はエンリケに譲って、バルバット騎士団の騎士になってくれるって……」

「だめかな……? 騎士の妻なんて、子爵夫人より条件が悪くなってしまう」

 前世のジュリアは、王弟であるフェリペと結婚して、公爵夫人になった。

 ただの貴族の領地を守る騎士の妻とは、いろいろレベルが違いすぎる。


「騎士科に転科するのよね?」

 ジュリアが私の頭を見た。

 私は昨日のうちに自ら領地の街にいる散髪師の元を訪ねて、髪を騎士風の短髪に切ってもらっていた。


「ああ。昨日のうちに両親から学園に連絡してもらった。今日から騎士科に通うよ」

 私は自分のプラチナブロンドの髪に触れた。貴族らしい髪の色。瞳もアイスブルーだ。

 前世の私は……、こんなものを誇ってどうするつもりだったのだろう。なんの意味もなかった。


「その髪型も似合っているわ」

 ジュリアは本当にやさしくて良い子だ。こんな私を褒めてくれる……。


「ありがとう」

 私は心からお礼を言った。


「両親からケルタ子爵ご夫妻に連絡が行っていると思うけれど、次の土曜日に婚約誓約書を交わすことになりそうよ」

「その日はサーカスに行く約束だったじゃないか。日曜日にしてもらえないか?」

 私はもう約束を違えたりしない。婚約誓約書を交わすことも大事だが、その日は先約がある。


 ――裏切り者は、また裏切る。


 私の心に、そんな言葉が浮かんだ。


 これからは、ジュリアにも、他の者にも、信用してもらえる行動をとるのだ。

 すでに私は崖っぷちにいる。いつジュリアを失ってもおかしくない。

 私は、もう誰も裏切ることはできない。


「マルシオ、そんなにサーカスに行きたいの?」

「ああ、行きたい。ジュリアと一緒に行きたい。約束しただろう?」

「ええ、そうね。わたくしも行きたいわ。楽しみにしていたの」

 ジュリアの耳が真っ赤に染まる。


「そうか……。楽しみにしていてくれたのか」

 私は心の中で、前世のジュリアのことを思った。

 サーカスに行くのなんて、私にとってはどうでもいい約束だった。

 サーカス自体にたいして興味がなかった。

 実際、取り巻きの女生徒たちとサーカスを見に行ったが、退屈なだけだった。


 ――だが、ジュリアにとっては違った。


 こんな私と一緒にサーカスに行くことを、心から楽しみにしていてくれたのだ。


「すまなかった……」

 私は思わず言ってしまった。


「急に正式な婚約をするつもりになったこと? それはいいのよ。わたくしもマルシオと婚約したかったもの」


「そうか。良かった……。ジュリア、ありがとう」

 もうこのままジュリアを連れて帰宅して、正式に婚約したい……。授業があるから、そうもいかないが……。


 ジュリアは、フェリペとはどうなっているのだろう?

 ジュリアとフェリペが婚約したのは、サーカスより後だったはずだ。


「そろそろ行かないと授業が始まるわね。またね、マルシオ」

 ジュリアは胸の前で小さく手をふった。


「ああ、またな、ジュリア」

 私もジュリアの真似をして、小さく手をふる。

 ジュリアは、なにが面白いのか笑顔になった。


「今日のマルシオは変ね」

「そうかな?」

 ジュリアは笑顔のまま、私に背を向けて廊下を歩いていった。

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― 新着の感想 ―
今のところ順調。ジュリアが幸せそうで良かった! けど、ジュリア的に前回と比べてどちらが幸せなんだろう。。。
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