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『学園にいる間くらい自由にしていいだろう』と勘違いした愚かな男の末路を知っている  作者: 赤林檎


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3.許すわけがない

 わたくしはフェリペ殿下とお会いした日を境に、マルシオとは距離を置いた。


「サーカスに行けなくなったんだ」

 前日になってやっと、マルシオからニヤニヤしながら伝えられた。


 場所は、学園の廊下。

 わたくしはマルシオとすれ違う時に呼び止められたの。


 マルシオは、わたくしにギリギリまで期待を持たせておく。

 なにもかもが、これまでと同じだった。


「そうなのね。わかったわ」

 わたくしは静かに答えた。もう、怒りも、悲しみも、なにもなかった。


「ジュリアとは、いつでも一緒に行けるもんな」

 マルシオは、あの中庭にいた時と同じように笑った。わたくしの様子がいつもと違うことになんて、気づいていないようだった。


「ええ、そうだったわね」

 わたくしはマルシオに笑いかけた。


 ――これからは違うわ。もう二度と、どこにも一緒に行くつもりはないもの。


「じゃ、そういうことで」

 マルシオの背中が遠ざかっていく。


 わたくしとマルシオが話をしたのは、この時が最後だった。


 ●


 わたくしはフランシスカとルイーザに誘われるまま、フェリペ殿下と四人で何度もお茶会をした。


 場所はフランシスカの家か、王宮だった。


 お茶会の後には、フェリペ殿下と一緒に庭園を見ながら歩いた。


 わたくしはフェリペ殿下と過ごすうちに、自分が王族とも婚姻できる伯爵家の娘であるということを、徐々に思い出していった。


 伯爵家の娘が、子爵令息に笑いものにされていたことがおかしかったのよ。

 マルシオは、ただ隣の領地に住んでいるだけで、わたくしの婚約者ですらなかった。

 たとえ婚約者だったとしても、子爵令息が伯爵家の娘を愚弄して良いわけがない。


 身分が同じであったり、わたくしの方が身分が下だったとしても、マルシオのあの態度は許せなかっただろう。


 我がインベル伯爵領は兄が継ぎ、わたくしは相応しい相手に嫁ぐ。

 わたくしがほんの一時期、隣の領地の子爵令息に入れ込んでしまったことなど、小さな瑕疵にすぎない。わたくしは純潔を失ったわけではないのですもの。


 ――フェリペ殿下は約束を守り、わたくしに婚約の申し込みをしてくれた。


 王家としても、『水源伯爵』の娘は、複雑なお立場にある王の末弟の相手として、ちょうど良かったのだろう。


 わたくしとフェリペ殿下は婚約し、王立学園の卒業と同時に結婚して、二人で領地を守っていくことが決まった。


 それと同時に、我がインベル伯爵領からケルタ子爵領への水の提供が終わった。


 マルシオの両親は自分たちの非を認め、水の提供が終わることに納得してくれた。


 嫡男が王立学園で、伯爵家の娘を愚弄していたのよ。ただ水を止められただけで済んで良かった、とでも思っていたはずだわ。


 彼らは、我がインベル伯爵領から水を提供される前だって、それなりにやっていたでしょうからね。その頃に戻るだけのことですもの。


 ――子爵夫妻はそれで良くても、領民たちは違ったわ。


 領主の跡継ぎが『水源伯爵』を怒らせたせいで、領民たちは水路の整備に駆り出されることになった。しかも、その水路ときたら、インベル伯爵領から水を提供される前の時代のもの。傷み具合は、かなりのものだったはずよ。


 領民たちは、長期間にわたって水路の整備に駆り出されたら、元々やっていた仕事に影響が出る。工事中は、領主から賃金が貰えるから良いかもしれないけれど……。工事が終わった後には、収入が減る可能性の高い者も多かった。そんなこと、領民たちは嫌に決まっているわ。


 領民たちはケルタ子爵家の領地館を取り囲み、愚かな嫡男を廃して、なんとか『水源伯爵』の許しを得るよう迫った。


 ――許すわけがない。


 父や兄は、ケルタ子爵家に対し、マルシオの取り巻きの女生徒たちに助けてもらうよう促しただけだった。


 マルシオの取り巻きだった女生徒たちは、すでにマルシオに寄り付きもしなくなっていた。だけど、もう遅いわ。彼女たちは、わたくし――王弟殿下の婚約者にすっかり嫌われていたもの。ある者は婚約を破棄され、ある者は決まりかけていた婚約が破談になり、ある者は家の領地経営が上手くいかなくなった。

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