18.若い脳筋の騎士らしいエピソード
私が意識を取り戻すと、見たこともない豪華な寝台に寝かされていた。
私の横では、ジュリアが私の手を握って泣いていた。
ジュリアの後ろには、フェリペ殿下とフランシスカ嬢が並んで立っている。
「ジュリ……ア……? 私は……」
「私が手刀で気絶させた」
どうやら、私はフェリペ殿下の手刀で首の後ろを叩かれ、気を失ったようだった。
「医師を呼んで」
フランシスカ嬢が指示をする。
私がぼんやりしていると、医師が部屋に入ってきて、ジュリアと場所を交代した。
「やはり古い文献にある『魅了』なるものの症状です。『竜人族の番の絆さえ断ち切ることもあった』という伝説さえある、非常に強く恐ろしいものであったと……」
「マルシオは、そんな童話に出てくる妖しい呪いにかかったというのか!?」
フェリペ殿下が声を荒げた。
「媚薬の類でしょう。強さの度合いを表すため、竜人族の伝説を使ったのではないかと……」
「テレサ嬢は、ステラミラの花がどうこうと言っているようだが」
「食堂に飾られていた花の名前です」
答えたのは、レナートだった。
「花を飾っただけで人を魅了することはできません。そんな効果のある花ならば、私たちも魅了されていたでしょう」
ロジェルが言っている。
「その通りです」
医師がうなずいた。
部屋の扉がノックされ、フランシスカ嬢が「お入りなさい」と命じた。
ルイーザ嬢が入ってきて、フェリペ殿下たちにカーテシーをした。
「生徒食堂の調理人の一人が、テレサ嬢に買収されておりました。マルシオ様の飲む水に、無色透明でキツい酒を混ぜたと言っています」
「酒……。酒だったのか……」
私はつぶやいた。あの気持ち悪さは……。前世で浴びるように飲んだ酒のためだったのか……。
「王立学園の生徒食堂で、王太子と同席する者の水に、酒を混入させたというのか。なるほどな」
フェリペ殿下が低い声で言った。
「王太子殿下の飲み物に毒を入れる前の予行練習。そういうことですわね」
フランシスカ嬢の声も、ひどく冷たい。
「ですから、私が酒だと言ったでしょう。私は最初から酔い覚ましの水を飲ませていました」
医師が不機嫌な声で言い、寝台の脇のサイドテーブルに置かれた水差しを手に取った。コップに水を注ぎ、私を起こして飲ませてくれる。
「マルシオ殿、酒だとわからなかったのでしょうが……。場合によっては水をかぶったり、走ったりして解決しようとするのは危険ですよ。まあ、そういうところが騎士らしいのでしょうがね……」
医師は苦笑して、空のコップをサイドテーブルに置いた。
遠回しに脳筋だと言われたことはわかった。
そういうことにしておこう……。
あれは絶対に、『酒のせい』などではなかったと思うけれど……。
あれは『魅了』だった、などと主張しても良いことはない。
妖しい呪いにかかったことのある男など、『いつ誰に操られるかわからない』と思われてしまうかもしれない。
わざわざ信用を落とす必要はない。
『学生時代に王太子殿下と生徒食堂で同席していて、水に酒を混ぜられたが気付かなかった』
この方が絶対に良い。
若い脳筋の騎士らしいエピソードだろう。




