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『学園にいる間くらい自由にしていいだろう』と勘違いした愚かな男の末路を知っている  作者: 赤林檎


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16.顔だけのチャラ男が生意気なのよ

 冷静になって考えてみると、フェリペ殿下も、ロジェルも、レナートも、私も、すでに婚約者がいる男たちだ。

 テレサ嬢には婚約者がいないが……。

 婚約者のいる男を四人も侍らせているのは、やはりおかしい……。

 まともな令嬢のやることではない。


 ちゃんとわかっていたのに……。

 愚か者というのは、そう簡単には治らないのか……。


 ――その日、フェリペ殿下たちと共に食事をした後。

 私は熱っぽい上にダルくて耐えられず、保健室に行った。

 養護教諭のクレーベル先生も、他の生徒も、いなかった。

 私は一人で寝台に横たわった。


「やられた……」

 私は片腕で顔を覆った。

 なにか薬でも盛られたのだろう。

 胸の奥がざわめき、なんだか身体が熱い気がする。

 普段とは明らかに違う。


 まさか媚薬なのか……?

 媚薬などというものが、現実に存在するのか?

 これがテレサ嬢の攻略法とやらなのだとすると……。

 フェリペ殿下たちも同じ薬を盛られたのか?


 では、フェリペ殿下たちは、テレサ嬢と関係を持っているのか?

 三人で同じ女生徒と……?

 そんなことをしている男が、この国の国王陛下になるというのか……?


 いや、決めつけるのは、まだ早い……。


 レナートは『テレサ嬢と一緒に拾った子猫の世話をした』と言っていたではないか。

 ロジェルは音楽室で楽器の演奏をし、フェリペ殿下は中庭でダンスをした。

 三人とも、まだテレサ嬢とは清い関係かもしれない。

 しかし、私は……、このままでは……。


 私は寝台から起き上がった。

 テレサ嬢が来る前に、保健室に鍵をかけなければ……。

 薬のせいなのか、ひどい吐き気がする。

 私はふらつきながらも、なんとか寝台から立ち上がった。


「マルシオ、調子はどうかしらぁ?」

 テレサ嬢が、保健室の扉を開けて立っていた。

 間に合わなかったか……。


「すごく体調が悪いよ……。早退するつもりだ……。クレーベル先生は……、どこに行ったのかな? 悪いが……、呼んできてくれないか?」

 私は片手を額に当て、うつむいた。

 心臓がバクバクと、すごい音をたてている。

 私はどうしてしまったのだ……。

 なにかがおかしい……。


「うーん、やっぱりぃ、ステラミラの花のおかげでぇ、一気に好感度を上げたからぁ?」

 テレサ嬢がなにを言っているのかわからないが……。

 花……。

 生徒食堂のテーブルの隅に、コップに活けられた一輪の花があった。

 あの見慣れない花のことか……。


『マルシオ、見てぇ。かわいいお花ぁ』

『ああ、不思議な花だな』


 私はしばらく花を見ていた。

 あの星型の花は、中央が薄いピンク色で、外に行くに従い薄紫色になっていた。

 あんな花、それもたった一輪で、こんな風になるものなのか?

 それはもう劇物だろう……。危険すぎる……。

 王族も通う貴族の学園に、簡単に持ち込めるような代物ではないはずだ……。


「チャラ男に重課金しちゃったけどぉ、顔が良いからぁ」

「どういう意味だ……」

 なんだか頭が痛くなってきた……。

 テレサ嬢の言っていることが、まるでわからない……。


「レナートはぁ、実家が大商会でしょお? レナートに頼んでぇ、ステラミラの花を取り寄せてもらったのよぉ。何度も違う花が出てきてぇ、ガチャきっつーい、ってなったわぁ」


 花の入手経路を教えてくれているようだということはわかった。

 だが、訛り……? テレサ嬢は訛っているのか……?

 意味のわからない言葉が多い……。

 これで淑女科……? 下位貴族クラスだからか……? ジュリアたちとは違いすぎる……。


「このゲームがユルくて良かったぁ。とにかくイベントを起こせばぁ、簡単に好感度が上がるんだものぉ」

 どういう意味だ……?

 テレサ嬢は、なにを言っている……?


 私はよろよろと寝台に座った。


 テレサ嬢は同じ国の言葉を話しているはずなのに……。

 言っていることが、まったく理解できない……。


「攻略対象の五人の中ではぁ、マルシオの顔が一番好きなのぉ」

「五人……?」

「フェリペでしょぉ、ロジェル、レナート、マルシオ、それからぁ、クレーベル先生」

 なぜクレーベル先生が出てくる……?

 養護教諭の先生が、生徒に手を出しているというのか……?


「おっかしーわよねー。最高難易度のはずのフェリペが即落ちでぇ、チュートリアルかっていうチャラ男がぁ、まったく落ちないんだものぉ」

 テレサ嬢が近づいてくる。

 私は必死で頭をふった。


「魅了の花が出るまでぇ、ガチャを回すことになっちゃってぇー」

 テレサ嬢が私の前に立った。

 目が回る。頭がグラグラする。

 魅了とはなんだ……?


「顔だけのチャラ男が生意気なのよ」

 テレサ嬢が私のあごをつかみ、顔を上げさせた。


「やめろ……」

 言いながらも、私はテレサ嬢の手をふり払えなかった。

 テレサ嬢の愛らしい顔に、満足げな笑みが浮かぶ。


「アホの子系キャラもけっこう好きよ」

 テレサ嬢の顔が近づいてくる。

 私は急いで自分の口を手で覆い、テレサ嬢から顔を背けた。


 魅了の花だかなんだか知らないが……。

 私が好きなのはジュリアだ。

 ジュリアを裏切るようなことは、もう絶対にするものか!

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