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『学園にいる間くらい自由にしていいだろう』と勘違いした愚かな男の末路を知っている  作者: 赤林檎


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15.テレサ・ヨークス男爵令嬢

 テレサ・ヨークス男爵令嬢は、特に怪しむべきところのない普通の令嬢であるらしかった。


 そんなに簡単に、なにか出てくるわけがなかった。

 テレサ嬢の経歴などにおかしなところがあったら、フェリペ殿下に近づいた時点で王家かフロース侯爵家が排除していたはずだ。


 王家による『王太子になるための試練』かなにかなのかとも思ったが、その可能性もないようだった。


 ヨークス男爵家は商店を営んでおり、王宮にカーテンや絨毯などを納めているらしい。その商品も、高級品ではなく、文官らの執務室用の品であるらしかった。

 王宮との長年の誠実な商取引が認められ、ヨークス家は男爵位を賜った。

 テレサ嬢の父も、兄も、変な欲を出すようなこともなく、扱う布製品の品質を保ちながら、堅実な商いを続けているとのことだ。

 あのテレサ嬢が、そんな家の娘だとは信じられなかった。


 どうやらテレサ嬢は、ある日、突然、変わってしまったらしい。

 王立学園に入学し、フェリペ殿下が王太子となられたと聞いて……。

「――ええっ、『ラブフリ』!? 学園に愛が降り積もる!?」

 と叫んで以来、人が変わったようになってしまったのだそうだ。


 テレサ嬢は、まずレナートに近づいた。二人は男爵家同士で、そこは特に問題なかった。


 レナートがフェリペ殿下の側近になったのは、テレサ嬢と親しくなった後だ。


 テレサ嬢はいきなりフェリペ殿下には近づかず、レナートを通じてロジェルと親しくなった。

 ロジェルの父は宰相をしているが、伯爵だ。男爵家と伯爵家、ギリギリまだなんとか縁を結べる身分差だった。一昔前ならば、許されなかっただろうがな……。


 しばらくは三人でデートをしたりしていて、そこにフェリペ殿下も加わるようになったらしい。


 フェリペ殿下は、テレサ嬢も側近にするつもりなのか……?

 そんなわけないな……。

 私の腕にまで抱きついてきた、恥知らずな令嬢だ。

 側近として使える要素など、きっとない……。


「どうかしたんですかぁ、マルシオ様ぁ」

 テレサ嬢が、斜め前の席から私を見ていた。

 生徒食堂で同席しているロジェルとレナート、フェリペ殿下も、こちらを向いている。


「すまない。少しぼんやりしてしまった」

 私は慌てて笑顔を作ると、フォークでニンジンのグラッセを突き刺した。


「わたくしのこと、ずっと見ているんですものぉ」

 テレサ嬢が、まわりにも聞こえるような声で言った。


「それは失礼した」

 私はトレーに視線を向ける。


「テレサはかわいいからな」

「そうそう、見ちゃうよな」

 ロジェルとレナートが、私に笑みを向けてくる。

 一緒にされたくないと思ったが、なんとか耐えた。


「素直になるといい。私は気にしないよ」

 フェリペ殿下が私の肩に手を載せてきた。

 まるで親しい間柄のような態度だ。


 私は、あの後も、生徒食堂で何度もテレサ嬢に話しかけ……。

 フェリペ殿下たちと昼食を共にし……。

 テレサ嬢の取り巻きの一員として、なんとか認められたようだった。


「いえ……、そういうわけでは……」

 私はニンジンのグラッセを口に運ぶ。

 自分で始めたことだが、このメンバーに混じるのは、かなり辛いものがある……。


「うーん、やっぱりぃ、好感度の問題かなぁ?」

 テレサ嬢が唇を突き出し、あごに指を一本当てて、首を傾げた。

 私には、まったく愛らしく見えない姿だが……。


「テレサは無邪気だな」

 フェリペ殿下……。

 ジュリアでないなら、誰でも同じだと思っているのだろうな……。


 横を見てみると、フェリペ殿下はテレサ嬢の滑稽にすら見える姿に、薄っすらと笑みを浮かべていた。


「まあ、いいけどぉ。攻略法は知ってるしぃー」

「おっ、出たぞ、テレサの攻略法発言」

「マルシオ、覚悟しておけよ」

 レナートとロジェルが、ニヤニヤ笑いながら自分の時のことを話し始める。


 レナートは、ある雨の日に子猫を拾い、通りかかったテレサと共に世話をしたのだそうだ。その子猫は、今もレナートの家にいるらしい。


 ロジェルは、テレサ嬢と一緒に音楽室に閉じ込められたのだそうだ。ロジェルはバイオリン、テレサ嬢はピアノを弾き、教師が通りかかるまで時間を潰したのだとか……。


「フェリペ殿下の時は、どうだったのですか?」

「私か……? 私は……」

 フェリペ殿下の目が、普段よりも昏くなった。


「かわいがっていた猫ちゃんが亡くなって泣いていたから、学園の中庭でダンスしたのよぉ。あれは、わたくしが一年生で……、夏前だったかしらぁ?」

 テレサ嬢が得意げに教えてくれた。

 その時期ならば、私がジュリアと正式に婚約した時期だ。


「ああ、そうなんだ……。あの時の無邪気な女生徒が、テレサ嬢だった」

 フェリペ殿下は、どこか切なげに笑った。


「あーん、その表情!」

 テレサ嬢は片目を閉じると、両手の親指と人差し指を横長の額縁のような形になるようにした。


「またスチルとかいうものか?」

 フェリペ殿下が苦笑する。


「そうよぉ! フェリペ殿下、最高!」

「うれしいな」

 フェリペ殿下が、やさしい口調で言った。


 ――私は間違っているのか?


 このままでは、いずれフェリペ殿下はフランシスカ嬢との婚約を解消することになってしまう。

 フェリペ殿下のためには、その方が良いのか……?


 ヨークス男爵家では、王太子殿下の後ろ盾としては弱すぎる。

 しかも、フロース侯爵家を敵に回すことになる。


 だが……。


 テレサ嬢と結ばれる方が、フェリペ殿下は幸せなのか……?

 私は余計なことをしているのだろうか……?

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