第十九話『迷彩猫』
棚からぼた餅、なんて言葉があると思うけど、例え棚からぼた餅が降ってきたとしても、棚を上げなければ、棚のある場所へ行かなければ、そもそもその恩恵を受けることはないと思う。
何気ない恩恵は、何気ない行動によって齎されることもある。私は、それを身をもって知った。
レベルを上げて、ステータスポイントを増やして、私は魔法のステータスをある程度まで上げた。
そうして街に戻れば、私が取得を目指していた、仲間モンスターのサイズを変更できるようになる魔法、を使用できるようになるための依頼を受けることができるのだ。
「ただいま!」
「はい、おかえりー。どこまで行ったの?」
「先端のピラミッドを見てきた」
「あぁ、あそこ」
街の出入り口にある案内所で働くサチと雑談をして、私は広場に向かって掲示板の下へ。
そこで依頼を受けると、どうやら四つのアイテムを集めることでクリアとなるらしい。
それぞれ、『木』『鉄』『漆』『貝』。どこにでもあるものではなくて、しっかりと指定された場所で入手しなくてはならないらしい。
木は北部。鉄は東部。漆は西部。貝は南部。指定された場所は四方に散らばっているため、必然的にこの島のすべてを巡ることになるのではないか、とも感じてしまう。
「マップを埋めるついでに、集めてみるのもいいかも」
そう呟いて、私はそのまま街を出た。
手を振るサチに見送られて、しばらく歩いた後、メニュー画面を操作してマルシュを呼び出す。
この手の依頼は、難しいものではないと聞く。
目的の場所へ向かい、僅かに発光しているオブジェクト、つまりフィールドにあるものを調べると、アイテムを獲得できる。
それは普段アイテムを獲得するのと、何ら変わらない。
目的地に着いてしまえば、直ぐに終わることだから……。ついでに、モンスターの観察でもしていこうと、私は考えていた。
マルシュの背に乗って、その背中の撫でて感触を楽しむ。本物のシャチに触れたことがないから断言はできないが、おそらくこの感触は、リアルのものとは違うだろう。
しっとりと吸い付くようであり、ぷにぷにと弾力がある。それでいてスベスベとしていて、ひんやりとした心地よい冷たさを感じる。
全身でその背中を抱え込んで、ちょっとウトウト。
すれ違う人の挨拶でその都度覚醒しながら、私はまず西へ向かった。
目的の漆は、簡単に入手が出来た。森の中に映える特定の木だから、多少は迷うかもしれないと不安に思っていたのだけど……。
「ねぇ、どうして此処には人が多いんです?」
そう質問したくなるくらいには人が多くて、漆を探していると聞けば案内してくれる人が山程いるくらい。
目的の場所まで案内をしてくれた女性に、その理由を聞いてみた。
「此処にね、可愛い猫のモンスターが出るのよ。迷彩猫と言って、ちょっとぽっちゃりした迷彩柄の毛足の長い可愛らしい猫ちゃんで、その性質から、基本的に自力で見つけることが不可能なの」
可愛い、猫ちゃん。私の心もトキメイた。
「どうやって見つけるの?」
「モンスターを引き寄せるスプレーが街で売っているんだけど、それにマタタビを合成して猫寄せスプレーを作って、身体に掛ける。そうして出現エリアを歩き回っていれば、向こうから寄ってくる……はず」
「絶対じゃないんだ」
「そう。そこが難しいのよねぇ。すべては猫ちゃんの気分次第。入って直ぐに現れた人もいれば、三日経っても出会えない人もいる」
しばらく森でキャンプかなぁ。そう呟く女性と別れて、私は急いで残りのアイテムの収集に向かった。
ダンジョンに挑戦するという思い出を、どうせなら二匹のモンスターと共に迎えたかった。その残る一匹をどうしようかと悩んでいたのだけど……。
「ぽっちゃりな毛足の長い可愛らしい猫ちゃん」
呪文のように呟くと、それがなんだかしっくりくるような気がして。抱きかかえられるモンスターという、私が求めていたものとぴったり合っている気がして。
私は居てもたってもいられなかった。
海で貝を拾い、鉱山で鉄を採取して、北の森で木を入手する。そうして街に戻って依頼を達成し、仲間モンスターのサイズを変更できるようになる魔法、を使用できるようになる小槌を入手。
試しに呼び出したマルシュを手のひらサイズにし、傍に侍らせたら街の入口へ。
「お、サイズ変換の魔法、使えるようになったんだ。頑張ってるねぇ」
「サチ、マタタビってどこで手に入るの?」
「ん? そこら辺の森で手に入るよ。森に入って、光るオブジェクトを手当たり次第に調べていけば、いつかは手に入ると思う」
「モンスター寄せのスプレーは?」
「店で売ってる。あ、迷彩猫かぁ。あれは今、良いタイミングかもね。幸運のステータスを上げると、気休めになるかもよ」
「ありがとう!」
それなら、モンスターを倒してレベルを上げつつ、マタタビを入手してから迷彩猫の出る森へ突撃。そんな流れがいいだろう。
先ずはスプレーを入手して、街を出たら近くの森へ。この森に訪れるメリットと言えば、初心者の腕ならし程度のものらしく、人の気配はあまりない。
のんびりと、散策気分でマタタビを探せるかも。
「マルシュ!新しい仲間を迎えに行くよっ!」
なんだかピクニック気分になってきて、自然と笑みがこぼれてくる。
その裏で、私の心は闘志に満ちる。森でキャンプをすることになったとしても、必ず仲間にしてみせるっ!
「にゃあ」
近くにあった森に入ったら、猫ちゃんがお出迎えしてくれました。




