第十七話『ダンジョンを目指して』
空飛ぶシャチのモンスター、マルシュを仲間にした私は、ひとまず街に戻ってその日の活動を終えた。
翌日、ベッドから起き上がると、一通のメールが届いていることに気が付く。
「サチからだ」
昨日も飲みに連れて行ってもらい、すっかり打ち解けてきたように思う。その際にこのゲームの進め方を相談してみたのだけど、このメールその返答だった。
初心者向けのアイテムは、どのくらい集めればいいのか判らない。目安が欲しい。
そう言った要求に応えてくれたようで、必要となる数を、毎朝メールで送ってくることになったという。
そのメールは朝の七時に送られてくることになったそうだから、届くまであと三十分ほど。我ながら早くに目が覚めたものだ。
「もっとゆっくり寝ていたいなぁ」
なんて願望を呟きながら、一階に降りて冷凍庫を開ける。キュウちゃんから、お土産としてピザを貰っていたのだ。
それを一切れごと分けて冷凍しておいたので、一切れ取り出してオーブントースターに入れて温める。
コーヒーを淹れて待っていれば、豊かな匂いが部屋中を埋め尽くす。
食事を堪能していればメールが届き、必要数を確認したら歯を磨いて――。
「行ってきます!」
玄関を出て、私は仕事場である草原へ向かった。
***
ノルマを完遂したら、メニュー画面から仲間にしたモンスター、マルシュを呼び出す。
背中に現れた一対の魔法陣。そこから伸びる光る粒子が集まったような翼。それ以外は普通のシャチ。
すり寄るその頭を優しく撫でてやると、嬉しそうに頭を上下に振った。
「今日は、空を飛んで色んなところに行ってみよう」
マルシュに跨って、背びれを背もたれ代わりにする。形状が平べったいから、あまり気持ちのよいものではなかったけれど。
「とりあえず、北!」
指示を出せば、その通りに飛んでくれる。
飛んでいると、様々なモンスターに乗ったプレイヤーとすれ違う。ドラゴンだったり、大きな鳥だったり。翼の生えた犬なんかは、人懐っこそうに尻尾を振って、私に対して顔を寄せてきていた。
「あ、ごめんなさい。この子、人懐っこくて」
「あ、大丈夫、です。あの、……可愛いです」
「ありがとう。あなたも可愛いよ」
モンスターに乗る女性に褒められて顔を赤くしながらも、私はこの島の北の果てに辿り着いた。変形した静岡県の形をしているから、大体の位置は想像してもらえるだろうか。
このゲームでは、少し渦を巻いている形になっていた。
「先端に、人が集まっている?」
気になって降下をしてみた。
そこにはピラミッドのようなものがあって、その周りには幾つかのテントが並んでいる。露店だろうか。食べ物も売られているようだった。
「寄っていって見ていってー。美味しいフランクフルトを売っているよー」
威勢の良い男性が、そう声を張り上げている。
「一本……あ、二本ください」
「あいよー。モンスター用かな? シャチエルはお肉、大好きだぞー」
それは良かった。お金を払って受け取ると、早速マルシュに与えてみる。串を残して綺麗に食べてくれた。頭を上下に振るのは、嬉しさの表れなのだろうか。
私も食べてみる。……マスタードやカラシは苦手だと思っていたけれど、これはなんか食べられる。むしろ、結構美味しい。
「マスタードなのに美味しい」
「肉汁と合うだろ? マリアージュってやつだ」
食べ物って、面白い。
「あの、此処ってなんなんです?」
フランクフルト屋の男性に訊いてみた。
「ダンジョンだよ。あのピラミッドの中がね。アンデッド系のモンスターがいて、迷路にもなっている。ま、初心者が乗り越えるべき一つの壁、だね」
「じゃあ、この島で一番難しいダンジョンなの?」
「そう。挑戦するなら、最低限灯りを用意しなくちゃな」
灯り、か。
マルシュはそういう事が出来るのだろうか。男性に訊いてみると、そういう魔法は使えるようだが、サイズが大きくてピラミッドには入られないらしい。
「サイズを変化させる魔法がないとな」
「依頼を受ければ覚えるのかな?」
「そういうこと。でも、依頼ってのは受けるための条件として一定のステータスが必要となる。この依頼だと、魔法のステータスが一定値必要だな。魔法、上げているか?」
……上げていない。弓を武器にしてからは、攻撃力と命中力ばかり上げていたから。
「その顔、上げていないな? それならこの辺でレベルを上げていくといい。経験値を多くもらえるモンスターが多いから、効率がいいぞ」
「私でも、勝てるかな?」
「シャチエルがいればどうとでもなるさ。魔法攻撃に強化魔法、回復に弱体。魔法と移動のスペシャリストだからな」
うちの子は、とっても凄いかもしれない! そう自慢したくなった私だった。




