第十六話『モンスタードラフト』
海岸線を臨みながら、ゴツゴツとした岩場を歩いていく私とキュウちゃん。目的であった空飛ぶシャチも、今は私たちの存在が気になるようで、一定の距離を置きながら着いてきているようだった。
見た目は普通のシャチなのだが、背中のあたりに二つの魔法陣があり、そこから淡く光る粒子のようなものが集まり形作った、綺麗な翼が一対伸びている。
触れ合おうとすると距離を取られてしまうから、時々振り返って様子を見るばかり。
シャチは海のギャングと呼ばれている。でも見た目は可愛らしい。
マスターがそのような事を熱く語っていたから、気になっていた。その姿は確かに、可愛らしかった。
「実際問題、どんなモンスターを仲間にするのがいいとかってあるの?」
第一希望になりそうな存在を背後に置きながら、私はキュウちゃんに問い掛けた。
「どんな状況にも対応できる。っていうのが理想だね。それを意識して温存している人や、入れ替え前提で仲間にする人もいる」
「入れ替えって、今いるモンスターは捨てちゃうの?」
「あー、そう表現するとちょっと複雑な感じだね。実際は野に放つって表現なんだけど……抵抗がある人は、枠を温存しているよ」
では私も――と思うのだけど、早くから仲間にしておいたほうが、恩恵も強まる要素があるらしい。
「でもねぇ。一緒にいる時間が長いほど、信頼度が高くなってパワーアップするんだよ。モンスターがね」
「私とプレイヤーの関係みたい」
「うん。そんな感じ。アンティの場合は、恩恵を受けるのは私たちだけどね」
そうなってくると、一緒にいる時間が必然的に長くなるだろう私は、より早くから仲間にした方がその恩恵を受けやすくなる。
「例えば――海とか湖を泳がずに進みたい場合もあったりするわけ。そんな時に空を飛べたら嬉しいし、もしかしたら水中に何かがあるかもしれない」
「海のなかに連れて行ってくれるモンスターが嬉しい?」
「そう。だから、後ろの子はその二つを賄えるから人気」
なるほど。
「戦闘に自信がないなら、人型で強いモンスターを仲間にするのも手だね。というか、人型は汎用性が高い。罠の解除を得意とするものもいるから、ダンジョンで役に立つ」
「マップを埋めるのにも役に立つの?」
「立つね。ダンジョンの制覇もマップを埋めるのには必須だから」
つまり、移動能力、戦闘能力、サポート能力。それらを上手く二つに纏めるのが理想。
「キュウちゃんはどんなモンスターを仲間にしているの?」
「私は絶賛温存中。優柔不断なんだよねぇ。第一候補はドラゴンなんだけど、この島に出るドラゴンは小型で蛇っぽい感じのが多くて」
ドラゴン、か。確かに憧れはあるのだけれど、あんまり大きいと、なんだか怖い印象を持ってしまいそう。
できれば抱きしめられるサイズ感が理想なのだけど、それが戦闘と、サポートをこなせるのならありがたい。
「ドラゴンは強い? 小さい子もいる?」
「いるけど、小さい子は戦闘に特化しちゃって、移動用には使えないかなぁ。三つの要素を賄えるドラゴンもいるらしいけど、それもなかなか大きいみたいだし」
「そっか……」
「でも、そうすると狭いダンジョンには連れていけないでしょ? そんな時に便利なのが、仲間モンスターのサイズを調整する魔法」
「そんな便利なものがあるの!?」
それなら、先ほどであった大きなオオサンショウウオも、可愛らしいサイズに!
それに、後ろのシャチも……。
「それなら、あの子を仲間にしてもいいかな?」
「シャチエル? 良いと思うよー」
シャチエルって名前だのか。それすらも知らなかったけれど、そういうことは付き合いの中で知っていけばいい。
だから、私は振り向いて……。
「メニュー画面からモンスターのタブを開いて、仲間にするコマンドを選択」
キュウの指示通りに進めていくと、画面に〈交渉中……〉という文字が表示される。
それと同時に、シャチエルがゆっくりと近寄ってきた。そうして、その距離はどんどんと詰められていく。
このまま攻撃されたりしないのだろうか。少し不安になりかけた頃――。
その可愛らしい顔が、懐くかのようにすり寄ってきた。
「成功したみたいだね。失敗すると逃げ出しちゃうから。ひとまず……名前でも付けてみたら?」
「名前? 名前……名前か」
初めての経験だから、どんなふうに付けていいか悩んでしまう。どうすれば良いかとキュウちゃんに問い掛ける。
「アンティって名前は、どうやって付けられたの?」
「えっと、すべての源になるように、とか。アンティークのようにいつまでも愛されるように、って」
「うんうん。名前ってのはね。そういった想いを込めるものなんだよ」
想いを、込める。
その言葉を噛み締めながら、大きな頭を撫でながら。私はしばらく考える。
「決めた。この子は今日から、マルシュと呼ぶ!」
二人だけの行進曲。これからもう一人増えるだろうけど、歩調を合わせて、のんびりと進んでいこう。




