第23話 誰のためのお土産か
風鈴を3つ並べてもらったところで、恭次は選べなくなった。
左は細工が細かい。真ん中は澄んだ音が長く続く。右は小さく、値段も手頃だった。どれも悪くない。
朝市の店主は、客が迷うのを待ってくれていた。後ろを人が通るたび、ハコは短い脚を動かし、通り道を空ける。ガンは広い通りの端で待ち、恭次の持つスミの籠は店の台へ触れないようにした。
「どんな場所へ吊るすんです?」
店主に聞かれ、恭次は水車小屋の入口を思い浮かべた。
「外から来た人が、気づく所です。挨拶の合図に」
「それなら、大きな音の物もありますよ」
奥から出された物は、手のひらより大きかった。店主が鳴らすと、通りがかった人が1人振り向いた。
恭次は礼を言って、もう一度3つを見た。
「驚かせたいわけじゃないんだよな」
小声で言うと、ベルグが台の下から頷いた。
「姿を見てほしいのだったな」
あのゴーストは、洗濯物の向こうから何度も顔を出していた。
恭次は小さな風鈴を指した。
「これを、軽く触って鳴らせますか」
店主は吊り下げたまま、下の小片を指で押した。かすかな音が1つした。
恭次も断ってから触ってみた。長く押さえなくても、指が離れたあと少し揺れた。
「触れるの、短い時間だけだったな」
恭次が言うと、ベルグはもう一度頷いた。
大きな物も、音の長い物も、今回は戻してもらった。小さな風鈴なら、挨拶をする高さへ吊るして、本人がその横に出られる。
店主は、選んだ風鈴を台の端へ寄せた。
包む前に、恭次は吊るす紐の長さも聞いた。少し短くすれば、入口の人の顔へぶつからずに済む。風がない日にも手の届く位置へ付けられるよう、結ぶ輪は小さすぎない方がよかった。
店主は長い方の紐を付け、余りを切らずに残した。使う所で合わせればよいという。恭次は礼を言った。
ベルグが台の下から、値段の高い方は買わないのかと尋ねた。
「これの方が、あの人に使いやすそうだ」
「うむ。先ほどから、その1つばかり鳴らしていたからな」
恭次は指の腹を見た。確かめるうちに、何度も小片へ触れていた。今度は触れてすぐ離し、残る音を聞いた。
その横で、スミが籠の縁へ寄った。
「持って帰る間に、ずっと鳴りませんか」
店主は小片も布へ包み込むところを見せた。揺らしても大きな音はしない。スミはそれを確かめてから、元へ戻った。
恭次は旅の帰り道を思い浮かべた。ハコの中で半日鳴り続けたら、贈る前に自分たちがその音を嫌いになりそうだった。包み方まで見せてもらってから、ようやく金を出した。恭次がハコへ声をかける。ハコは蓋を開け、包みを受け取ると、他の荷物に押されない区画へ入れた。
「小さな金属の鳴り物です」
「うん。渡す時、すぐ分かるようにしておいて」
ハコは包みを一度持ち上げた。それから端の紐を、輪に結び直した。
次の店では、棒が売られていた。
木工の端材で作った遊び道具が、籠に何本も立ててある。太くて丈夫な物を選ぶと、フェンリルの口にも十分収まりそうだった。
恭次が持ち上げる前に、ケルベロスのヒダリが鼻を寄せた。
「それ、重そう」
「丈夫だろう?」
「持つのは、向こうの子だよ」
恭次は棒の真ん中を握った。フェンリルへ渡す場面だけ考えていた。地面に置いたあと、もう一度投げるのは子供だ。
店主に用途を説明すると、細く、角を丸めた棒が出てきた。恭次の手にもなじむ。だが端の削り残しがわずかに指へ触れたので、そこを撫でながら聞いた。
「ここ、もう少し滑らかにできますか」
店主は道具で軽く削り、布で拭いた。恭次は確かめ、ヒダリにも見せた。噛ませるわけではなく、手の中で回して重さを比べる。
「投げたあと、返してもらう方だよね」
「そう。持って帰る分は、家にある」
店主が2本組なら安くなると言ったが、恭次は1本にした。遊ぶ前から、両方抱える場面が目に浮かんだ。
ハコは長い区画を開けた。そこには、次に買う予定の紐も入れられそうだった。恭次は棒を渡し、風鈴の包みとは別に、短い布で巻いてもらった。
朝市の奥へ進むと、人が増えた。ケルベロスを見て脇へ寄る人もいたので、恭次は通りの真ん中を避けた。ベルグが翼を閉じて歩く幅を見ながら、ガンのいる広場へ一度戻る。
ホルテに借りた水を、皆で少し飲んだ。スミは籠の布へ落ちそうな水滴を見ていた。恭次が水筒を遠ざけると、体が元の高さへ戻った。
「残りは紐と、家の分。まだ余裕はあるけど、使い切らなくていいな」
ガンが隣の石細工の台を見ていた。小さな動物の形が並んでいる。
「見てくるか」
恭次が尋ねると、ガンは頷いた。腰を屈めて1つずつ眺めた。店主に触ってよいと言われ、鳥の形を大きな指で慎重に持ち上げる。
恭次は少し離れて待った。
ガンは鳥を戻し、軽く頭を下げて戻ってきた。
「羽、薄い」
「うん。細かかったな」
ガンは両手を空にしたまま、歩き始めた。
巨大グモに頼まれた紐は、荷物を縛る太い物ではなく、端をまとめやすい細い物を選んだ。糸の通路そのものを作り直す品ではない。本人が巣の外で使う目印を、吊るしておくための物だった。
恭次は手の中に収まる長さだけ買い、使い方をもう一度思い出した。もし余るなら家で使える、と考えかけ、相手の頼みの長さへ戻す。
ハコが包みを受け取った時、恭次は内側を覗かなかった。蓋の前へ手を伸ばす前に、一言尋ねた。
「渡す時の順にしてもらえるか。風鈴、棒、紐」
ハコは少し待ち、3つの包みを並べた。材質の近い物が並んでいるのではなかった。風鈴には輪の紐。棒には短い結び。細い紐の包みには、端を1本長く残してある。
「すでに分けています。水車小屋、棒の方、糸の方です」
恭次は3つを順に見た。
「それなら、俺が間違えなくて済む」
ハコは蓋を閉じかけ、もう一度開いた。
「菓子は、どなたの分にしますか」
まだ買っていないのに、皆の顔が上がった。
家で食べる分に、焼き菓子を少し買った。甘い物だけでは好みが合わないので、塩味も混ぜてもらう。どちらも同じ値段で、予算を越えなかった。
ハコは包みを受け取り、また同じ質問をした。
「家の皆の分」
恭次が言うと、ナカが前へ出た。
「中央で分けるとよい」
ヒダリが隣の顔を見た。
「食べる時に分ける。包みの時から中央にしなくていい」
スミは菓子の粉が布へ落ちない場所を望み、ベルグは大きな菓子でなくてもよいが割れた物ばかりにしないよう言った。
ハコは包みを、どの相手の区画にも入れずに蓋の近くへ置いた。
「帰宅後、開封する物です」
恭次はそこで頷いた。
宿へ戻り、残した荷物を受け取った。ホルテに借りた布は広げて汚れを見てもらい、腰掛けを元の場所へ戻す。恭次が礼を言うと、ホルテは次に来る時には納屋を先に空けておく、と答えた。
帰る前に、ヒダリが最初に道の希望を言った。
空は曇っていたが、雨雲はなかった。丘の道は乾いていると、門の番人も教えてくれた。買った物は軽く、ハコにも歩く余裕がある。途中の見晴らしのよい所で休むなら、暗くなる前に家へ着ける。
行きには進む方を向いて右だった丘へ、帰りは左へ曲がった。
坂ではハコに合わせて歩いた。ガンも急がず、恭次は途中から籠を預け、水筒を1本受け取った。上まで着くと、メルカの屋根が広く見えた。ヒダリが風へ鼻を上げる。ベルグは周りを見てから翼を伸ばし、少しだけ地面を離れて、元の場所へ降りた。
水路沿いほど平らではなかった。ミギは下りの小石を避けて歩いた。ナカは思ったより時間がかかったと言ったが、丘の上で戻ろうとは言わなかった。
夕方、リネの近くまで来た頃、スミが籠の縁へ伸びた。
「菓子は、まだ家の区画ですか」
ハコが歩きながら答えた。
「家は、まだ先です」
恭次も、空いた片手を包みから離した。




