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死ぬほどしょうもない魔物使い  作者: 雨宮 弦


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14/24

第14話 無断で整理しましたね

 家の鍵が、鞄になかった。


 梶原恭次は玄関の石へしゃがみ、鞄の口を広げた。昨日まで外側の小袋にあったはずの物が、そこにはない。代わりに、同じ長さの紐がきれいに畳まれて入っていた。


「鍵を、見てないか」


 居間でハコのふたが開いた。


「整理しました」


 返事が早かったので、恭次もすぐ顔を上げた。


「鞄を?」


「はい。紙と金属が混ざっていたので」


 恭次は自分の膝へ鞄を置いた。朝、寝室で上着を取っている間に、玄関へ置いたままにしていた。今からギルドへ行き、午後には買い物も済ませるつもりだった。


「先に聞いてほしかった」


 ハコのふたが止まった。


「中の物は、なくしていません」


「なくしたとは、まだ言ってない。何がどこへ行ったか、俺に分からなくなったんだ」


 恭次は外側の袋を指した。鍵は戸を閉めた後に片手で戻し、帰ったらすぐ出す。そこに入っていると、鞄の奥へ手を入れなくてよかった。


 ハコは、硬い金属を外へ出したままにすると、雨のとき濡れると説明した。紙へ傷を付けるかもしれない。どれも物を守るための理由だった。


 恭次は答えかけ、いったん鞄を置いた。相手が雑に扱ったわけではない。それでも、勝手に整理されて困ったのは事実だった。


「今から出るから、まず鍵だけ、出せる?」


「保護袋です」


 ハコが言った。恭次は鞄の中に、口を紐で結んだ小袋を3つ見つけた。どれも同じ布で、外から中身は分からない。


 1つ目は硬貨。2つ目は留め金と針。3つ目には、鍵が入っていた。


 袋は鞄の奥、畳んだ布の下へ収まっていた。雨から守るにはよいが、家へ戻るたび、布を全部持ち上げる必要がある。


「ここなら、安全です」


「うん。鍵は無事だ。でも、毎回これを開けるのか」


 恭次は3つの紐のうち、ほどいた分をもう一度結び直した。ハコはそれを見ていた。


 今日は少し早く出るつもりだったので、まだ時間はあった。恭次は鞄を持って居間へ戻り、食卓に空いた場所を作った。


「何を、どう分けたか教えてくれ。次からは、やる前に聞いてほしい」


 ハコは短く了承した。ふたが大きく開いたので、スミが横の小箱から、開ける前に声をかけていただけると、と言った。


 ハコは一度閉じ、今から開けますと告げた。恭次は鍵を手元へ残し、ほかの物を順に出していった。


 鞄から、空の小さな包みが出た。昨日、配達の帰りに食べた焼き物の包みだった。恭次は捨てようとして手を止めた。紙の片隅に、次の配達先の目印を書いてある。


「これは、まだ要るんだ」


 ハコは新しい伝票と重ねようとしたが、恭次が端を押さえた。


「要るけど、きれいな紙と一緒だと油が付く」


 恭次は必要な所だけ仕事の紙へ写した。包みは捨てる物へ、書き写した方は使う物へ分ける。ハコは両方を見てから、これまでは恭次が捨てるのを忘れた品も持ち続けていた、と言った。


 鞄の底から、同じような包みがもう1枚出た。こちらには何も書いていない。


「これは、俺が忘れてた」


 恭次はすぐ捨てる方へ入れた。片づけないまま持ち歩いて、困った時だけ誰かに探してもらうのも違う。ハコに同意なく並べ替えてほしくはないが、何でも元のままがよいわけでもなかった。


「帰った時、要らなくなった物は出すよ。それで、整理を頼みたい時は俺から言う」


 ハコは残った紙の束をそろえた。勝手に手を付けてよいという意味ではない、と恭次が付け足す前に、そちらは承知しています、と答えた。


 * * *


 紙、金属、布、食品。


 ハコの分け方は明瞭だった。使い終わった包み紙も、新しい伝票も、紙の区画へ入っている。恭次が急いで拾った小さな石は、金属ではないという理由で、どの袋にも入らず底へ置かれていた。


「これは、何に使う物ですか」


「包みの端を押さえる重し。外で紙を書くときに」


「石です」


「そうだけど、使うのは紙の近くだ」


 恭次はペンと伝票を並べ、その横へ石を置いた。材質が違っても、一緒に取り出すことが多い。ハコはしばらくその並びを見た。


 次に水筒と布を出す。布は全部同じ区画へ畳まれていたが、飲み口を拭く物と泥を拭く物では使い道が違う。スミが体を伸ばし、そこは分けるべきですと強く賛成した。


「じゃあ、布を全部1つにするのは違うだろう」


 恭次が言うと、ハコはうなずいた。


「汚れの種類を追加します」


「区分を増やす前に、何を先に使うか、見てくれないか」


 恭次は玄関へ戻り、外出するところを実際にやって見せた。戸を閉める。鍵をかける。鍵を鞄へしまう。その後に紙とペンを使い、歩いて喉が渇いたら水筒を出す。


 鍵を出すたび、片手で布を持ち上げ、紐をほどかなければならなかった。ハコは鞄の口の横から、その手順を見た。


 ハコは短い脚で恭次の横へ来た。鞄を肩にかけたとき、外側の袋が手の位置へちょうど来ることを確かめる。


「使う順ですか」


「それと、よく使うかどうか。雨を避けるのも要るけど、毎回、同じほど厳重にしまわなくていい」


 恭次は鞄を肩へ戻した。今度は下ろさず、鍵だけ取り出してみせる。


「鞄は、収納用具ではないのですか」


「収納用具だよ。でも、取り出すためにも持ってる」


 ハコは返事をせず、ふたを少しだけ開けた。中で薄紙を分ける舌の音がする。恭次の言葉を聞いて、自分の区画にも思い当たることがあったのかもしれない。


 ベルグが通りかかり、買い物なら代金を先に取り出せるようにしておく方がよいと付け加えた。恭次は硬貨の袋を一番奥に置かないよう頼む。


「盗まれにくい場所ではありますが」


「全部を外へ出す話じゃない。内側で、手の届く所」


 恭次は鞄の内側の浅い袋を示した。ハコはそこへ硬貨袋を置き、上へ布を重ねなかった。


 恭次はそのまま、朝の荷物も持ってみた。片手に配達の包み、もう片方で鞄の口を開ける。包みを抱えたままでは、鞄の底まで覗き込めなかった。


 鍵の小袋へ指を入れると、紐の切れ端が触れた。先ほど同じ場所へ入っていた予備の紐だ。


「これを分けてくれたのは、助かる。ほどけて鍵へ巻きついていたことがあった」


 恭次が言うと、ハコのふたが少し上がった。


 ただ、同じ形の袋へ分けるなら、触っただけで違いを分かる印がある方がよい。恭次は硬貨の袋の紐だけ短く結び、鍵は結び目を作らず包むことにした。ハコはその違いを見て、ラベル以外の目印も使えると答えた。


 * * *


 並べ方を変えて、もう一度使ってみた。


 鍵は外側の小袋へ、折った乾いた布と一緒に入れる。雨が降れば布で包む。水筒は重いので底に近い位置だが、口が上へ向き、取るために伝票を出さなくて済むようにした。


 仕事の紙とペンと小さな石は、1つの薄い包みへまとめた。食べる物は、汚れのついた布から離す。ハコもこの区別には賛成した。


 恭次が鞄を持ち、鍵を出して戸を開ける。次にペンだけ取り出し、また戻す。さっきより、食卓へ並べ直す物が少なかった。


「これなら、分かる」


「分類の名前が、ありません」


 ハコが言った。材料別ではなくなったので、ラベルを書きにくいらしい。


「鍵の所は、鍵。紙の所は、仕事の紙。それでいいんじゃないか」


 恭次が答えると、ハコは小さな札を出した。人間の文字を書くのは恭次が手伝い、ハコが紙の大きさと結ぶ場所をそろえる。


 余った細かい物の置き場所で、作業が止まった。


 恭次は短い紐の切れ端を指した。すぐ使うかもしれないが、大事な物ではない。専用の保護袋まで作らなくてよかった。


「そういうのは、適当にここへ」


 ハコのふたが閉まった。


 恭次は言い直そうとしたが、ハコはすぐ開けた。小さな紙の札を差し出す。


「区画名を、お願いします」


「今の言い方を、名前にするのか」


「他に基準がなければ」


 恭次は、適当にここ、と書いた。ハコは不満そうに少しふたを動かしたが、札の角はきちんとそろえ、鞄の内側へ結んだ。


 出発するとき、恭次はハコへ、今度は先に声をかけてくれと改めて言った。ハコは了承し、代わりに、使った後どこへ戻したか教えてほしいと頼んだ。


「全部を覚えてもらう約束は、まだできないぞ」


「では、分からなくなったときだけ」


 恭次はうなずいた。玄関の戸へ鍵をかけてから、門へ向かった。外側の袋へすぐ戻せたので、今度はそこで立ち止まらず歩き出せた。


 ハコは居間の端から、それを見送っていた。

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