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そうだ、そうだ。
今までだって、ずっと勇者の血やら王家やらで近づいてきていた。
そうだ。
私に対する好意がどういうものかなんてのは私が一番理解している。
だからこそ、普通に過ごすためにここにいるんだ。
……そういえば、普通に恋をだのなんだのと言っといて、自分の好みのタイプも分からない。
対象は男性だろうけれど。
うーんと考えている内に事務所に着いたようで、中に入ると先ほどの面々が待っていてくれた。
「……皆様、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。
今回の件、少ないですが報酬を支払わせていただきます、どうぞお納めください。」
金貨数枚、命を守ってくれた人間に支払うには少なすぎるが、これからの自分のためには今ある分を大切にしないといけない。
申し訳ないと頭を下げる私に、皆が焦り始める。
「こ、この量は多いし、謝らないでちょうだい。そもそもあいつらが襲ってきたのが原因なのに。」
「そうですよ!皇太子妃であったシキ様を狙うなど本来なら万死に値します!」
「こんなには頂けませんわ。これからの貴方の旅のための資金でしょう?」
それはそうだが、守ってもらって当たり前にはしたくはない。
「少々よろしいですか?」
手を控えめに挙げたのはアストラだった。
「先ほどの愚人どもは、倉庫の方に放り込んでいます。
身元を確認したところ、雇われの身であることが分かりました。
ね、アンドレアさん。」
「そうね、全部で8人。
命が惜しくてすぐに雇い主を吐いてくれたわ。
その雇い主の名は。」
「——バイアン・チャスティティ侯爵。」
私がその名を口にすると、アンナ様とアストラを除いた全員が驚いた様子を見せる。
学園にいた時から、あのくそジジイからの嫌がらせはあった。
認めたくはないが、親衛隊に入っていた彼らなら知っていてもおかしくはない。
「本来なら婚約者候補を集い、決めるべき婚約者を勇者の血だとかで決めるのは間違いだというまっとうな思考を持った方です。
……別の方でした?」
「いいえ、合っている……けれど。
ディアーナ皇子妃はそれを存じていらっしゃるのかしら。」
「……いいえ、ディアーナ様は父親がした行為全ては存じていません。
一部のみ……私から報告して対応してもらったことだけです。」
あまりにも度が過ぎたもの、そしてピオ兄にバレてしまったものだけ報告してある。
信じられないという顔でアンドレア様がこちらを見ている。
気持ちは分かる、当時皇子妃だった私に対して、そんな行いをしたらどうなるかなんて分かっている。
が、医療関連で発達を遂げ、王都を支えたチャスティティ家を告発するとなると、ことが難航することなど想像に容易い。
「……娘はすでに皇子妃になったのに。」
「……勇者の血を絶やすことが目的では?」
「それはないわ。学園にいた頃、トモエ様には一切手を出されていませんもの。」
「トモエ様に手を出せば、すでに婚姻関係にある王家そしてトモエ様自身から罰を下されることを分かっていたのでしょう。
だから、まだ婚姻関係になく婚約者であるシキ様に目をつけた。」
「あの、不躾ながら………疑問なんですけど、そもそも勇者の血縁というだけで王家との婚姻とかなんやらになってるんですか?」
「それは……。」
「失礼ですよ。この世界を救った勇者様の尊い血が流れている、その理由だけで十分でしょう。」
アストラが庇うように前に出てくれる。
この疑問に答えることが私には出来ない。
言ってしまえば、私が目指すものは更に遠ざかってしまう。いや、二度と目指すことは出来なくなる。
なので、アストラが事情を分からずでも庇ってくれたことに安堵する。
「とりあえず、今後はどうするの?
宿の人がグルって聞いたわよ?」
「そ、そうでした。
この近くに宿はありますか?」
「逃げてる途中見たかもしれないけれど、この建物の近くには森しかないわよ。
…………うーん、困ってる子を放っておけないわ。歴史図書館には事務所からしか通れない宿舎があるの。
泊まっていきなさいな、私たちがいる限りは安全よ。」
攻撃魔法があれど、大多数に襲い掛かられればあっさり負ける私にその提案はまさに渡りに船だ。
でも、これ以上迷惑をかけられない。馬車を手配してもらって……、出来る限り早めに出ていかなければ。
「……お言葉に甘えさせていただきます。
先ほどの報酬はこの件も含めてということで、どうぞお納めください。
対価として多くても、私が出来る恩返しはこれしかないので。」
「いいえ、お代は結構よ。
代わりといってはなんだけど…………。」
「——それならぜひお手伝いさせていただきます。」




