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「まさかあの後、部屋に敵襲が来るとは思いませんでしたね。
おそらく宿の者はグルでしょう、受付で時間がかかっていたでしょう?」
まさにその通りなのだが、いつからこいつは私を見ていたのだろう。
こいつの涙の主張を聞いている最中に、ドアが蹴破られ、知らない男どもが入ってきた。
慌てて荷物を手に取った私を素早く抱え、窓から脱出してみせたのはアストラだった。
この男の判断力には感謝しかないが、よく三階の窓から飛び降りてよく無事で走れるなとは思う。
それも私を抱えて。
「アストラ様、抱えて逃げてくれたことには感謝しますが、逃げるあてはあるのですか?」
「名前を呼んでくださったのは初めてですね、呼び捨てで構いません。呼んでいただけるだけで至極恐悦の極みでございます。
逃げるあてについてですが、私の職場が一番良いかと、事情を説明すれば必ず匿ってくれます。」
「……なにからなにまでありがたいですが、あの人たちが押しかけたら困るのはそちらでは?」
「なんとかなります。」
どれだけ人数がいるか把握できないので、今回は利用させてもらおう。
報酬も支払わなくちゃいけないなぁ、と抱えて走ってくれているアストラと職場の方への報酬額を考えていると、森を抜けて建物が見えてくる。
あれは……、王都立歴史図書館。
「貴方ああ見えて結構優秀なのですね。」
「お褒めいただきありがとうございます。
ですが、今褒められるとお召し物を濡らしてしまいます。」
「黙りますね。」
後ろにいる男たちはまだ追ってきているが、少し距離が空いた気がする。
だが道のりに行けば、やがてはここに辿り着くだろう。
早めに避難した方が良さそうだ。
「アンドレアさん!この方を事務所に匿ってください。」
「……はいはぁい、これはまたとても可愛らしい子ね。」
女性らしい装いをした……恐らく男性が近づいてきた。
「突然の訪問申し訳ございません。
見知らぬ男に襲われかけた所をアストラ様に助けていただきました。
もしよろしければ、こちらに匿ってい」
「やぁだ!不埒な男どもねっ!
さっ、こっちにおいで。」
「私は外の集団を足止めしてきます。」
アストラは外へ出て行き、私はアンドレア様に図書館内の事務所へと案内された。
事務所へ入ると、従業員の方が休憩されていて、皆驚いた様子でこちらに視線が向けている。
「勇者様の……。」
「シキ様っ!」
「え、なんか特別行事ありましたっけ。」
口々に喋り始めるが、ここでも勇者の関係者だとは把握されているようだった。
……歴史図書館だからそれもそうか。
「不埒な輩に追われているみたいなの、ここに避難させてるから。アンナは一緒にいてあげて。
ミルソンとカーンは、図書館内に侵入された時のための見張をしていて、他の従業員にも伝えてくれる?
私とアストラは外の野郎どもを処理してくるわ。」
休憩中だったのに申し訳ない。
アンナと呼ばれた女の子に手でソファに招かれる。
拒否する理由がないので、座る。
「シキ様ですね。
私、学園にいた際に同級生だったアンナ・ソルジアです。」
「……あっ!アンナ様!
卒業パーティー以来ですね、まさかこちらにいらっしゃったなんて。」
「ええ、まさかここでお会いするなんて思ってもいませんでしたわ。
お茶をどうぞ。」
アンナ様は魔法でお茶を淹れてから、目の前に置いてくれる。
さすが成績上位者なだけはある。
あの時もよくアンナ様と比較されて、落ち込むことも多かったなぁと思い出す。
誰にでも分け隔てなく接してくれるアンナ様は貴重な友人だった。
「ピオリス皇子殿下と婚約破棄をされたとお伺いしましたわ、こちらにはその件で……?」
「いいえ、違いますわ。
婚約破棄は全て私と殿下のもと手続きも終わり、そしてこちらには……その……。
旅をする身支度をするために、寄りましたの。」
「……旅、ですか?」
「お恥ずかしいのですが、普通の人生を歩みたいと考えてて……。」
「恥ずかしいだなんて…。
夢を叶えるための旅なのでしょう。とても素敵ですわ。」
「……アンナ様はいつも肯定してくださるのですね。
私、貴方の友人でいられたことが幸せでしたわ。」
「まぁ、そんな……親衛隊にも入っているほどシキ様のことが大好きでしたから、当然ですわ。
これからも友人として、接していただけますか。」
「ふふ、ええ。
……お待ちください、親衛隊とは?」
聞き捨てならない言葉が聞こえた。
主席の親衛隊もいたし、ピオ兄の親衛隊もいた、存在は知っている。
私の親衛隊は聞いたことも了承した覚えもない。
「シキ様親衛隊ですわ。
外で応戦しているアストラも一員ですのよ。」
あるのなら、入っているだろうなとは思う。
会ったばかりだけど、もはや信仰に近いなにかをこちらに向けているから。
アンナ様まで入っているなんて。
遠い目をしている私をにこにこと見つめてくるアンナ様。
もうすぎた話だからいいけれども、ぶり返す必要もないけれども。
そう考えていると、ドンッと思いきりドアが開く。




