15.オ・カメの独り言
お母さんときたら、なんであんなにいつも幸せでいられるんだろう?
ウォールナット・ジャコビアン領で優雅に過ごせる時間はなくなってしまったのに。
なぜだろう?
苦しみの日々が戻って来たと言いながら、お父さんの言葉ひとつで元気になるなんて。
どうしてなんだろうね、僕はあんなふうに、明るくやるのは無理だよ。
変な歌を歌いだした時は、お母さんが怖くなったよ僕は。
―――ブブブブーブブブーブブッ、ブッ、アナヒロゲ
―――ブブブブーブブブーブブッ、ブッ、アナヒロゲ
って、いったいなんなんだって思う。
だいたい、幸せのおまじだいだとか、花の香りがするだとか、お母さんときたら、もうね。
何が何だかわけがわからなくなるんだ、僕は。
高貴な物忘れ。
これもね、些細なことはどうでもよくなる高貴さとか言ってるし。
ただ忘れただけじゃないの?
高貴な聞こえ耳。
悪魔の娘がよく音が聞こえるってことでしょ?
その話をしていたのに、いきなり変な歌を歌いだして恐ろしいよ僕は。
何にでも『高貴』を付けたがって、お母さんはとにかく明るいんだ。
お母さんはお父さんと仲良しなのはいいけど、あの叫び声も僕には恐怖なんだ。
いきなり「アンドリューッ!」って叫ばれると、なぜだかわからないけど辛くってしまう。
お父さんまで最近は「カメ子サンンンーーッ!」とか言い出すし「悪魔ガーーッ!」と言ってみたりしているから悲しい。
お父さんはそのままでとても素敵なのに「お母さんのように高貴にならないといけない」って言うんだ。
だから色々真似しているみたい。
正直言ってやめてほしい
僕はお父さんはそのままのほうがいいと思うって言ったんだけど、お父さんは「ありがとう、優しい子だね」としか言わない。
確かにこんなに優しいお父さんなら、お母さんがあんなに好きになるのは仕方ないかもね。
この前なんて、隣の領地の『実のなる領地』で過ごしている緑の者たちが、お母さんのことを馬鹿にしてた。
僕はそれを聞いて辛かった。
いくらお母さんがちょっと、アレでも、お母さんは僕の大切なお母さんだからね。
いつも優しいし、ただ、ちょっとアレなだけ。
緑の者たちはお母さんを馬鹿にしていたけど、僕はお母さんには少し呆れることもあるけど、お母さんは馬鹿なんかじゃない。
ただ、思い込みが激しいだけなんだと思う。
僕たちを守ろうとするお母さんはなかなかカッコいい。
自分はどうなってもいいから、僕とお父さんを守ろうとするんだ。
そういうところがね、そこは僕はお母さんのカッコいいところだと思う。
僕のほうこそ、お母さんとお父さんを守りたいのに。
ただ、僕の名前がちょっと……辛いかも。
悪魔の娘は「カメオのブローチが素敵だ」と言ったんなら、素敵なのはブローチな訳だからね。
僕はブローチって名前が良かったよ。
カメオをひっくり返してオ・カメにしたのは高貴だからだそうだけど、
そういう考え方はやめてもらいたいよ。
あと「やっぱり高貴な喜びと幸せが止まらないわ!」って叫ぶのもちょっと控えてほしいんだけどね。
僕は隣の領地の悪魔が持っている『凍結』という冷たい風のことが心配でたまらないんだ。
これからどんどん寒くなるのに、そんな時にあの冷たい風を当てられたらお母さんもお父さんも命の引き際を迎えてしまう。
僕が守ってあげないといけないから。
新しい隠れ場所を見つけたことを早く伝えたいのだけど、お母さんはウォールナット・ジャコビアン領で今もフカフカしているし、お父さんは昼寝で隠れているしね。
凍結から逃げる方法を考えないと僕たち家族が危ないんだ。
もし僕のところの悪魔が『凍結』で冷たい風をおこしたら大変なことになってしまうから。
◇◇◇◇◇
最近カメ子たちは室外機の下を別荘にしているようです。
ワタクシの室外機の下には、カメ子らが潜んでいることがよくあります。
多分、寒くなってきたらここを棲家にして生き延びるのだと思います。
私が水遣りを擦るために窓を開けた時、よく慌ててササササッと室外機の下に潜り込むので賢い子だなと思いました。
放っておくと、また卵でも産みつけられそうなので網戸をチェックしていますが、今のところ網戸は無事みたいです。
もし室外機の下に産み付けていたらとんでもないことになりそうなので悩み中です。
それではまた。
お読みくださりありがとうございます。




