12.格式高い領地名
隣の領地で実を吸っていた緑の者たちが私を蔑んだ言葉に、私は心を傷つけられてしまったの。
悲しみが止まらなくて、とても辛かったわ。
それをアンドリューについ話してしまったのだけれど、優しいアンドリューの温かい言葉で救われたわ。本当になんて思いやりがあって素晴らしいのかしら。
私のアンドリューが言ったわ。
「カメ子さん!ああ、なんてことだ。心優しいカメ子さんをそんな言葉で傷つけるなんて酷すぎる。僕は怒りと悲しみで胸が張り裂けそうです」
アンドリューーーッ!
私の優しいアンドリューに心配をかけてしまったわ。
でも汚い色の者だなんて……どうしてそんな風に言われてしまうのかしら?
私はあの者たちを『緑の者たち』と呼んでいたけれど、それは決して蔑んだり、馬鹿にしての言葉ではないのに。
うちの悪魔があの者たちのことを『あの緑の奴らが』などと言っていたからあの者たちのことを知っただけなのに。
でも私は『奴ら』だなんて!そんな下品な言葉で彼らのことを呼ぶことは出来なかったわ。
だって私は高貴なる者ですもの。
誰かをそんな風に貶めることなんてできないわ。
確かに、下品な羽音や声はあまり好きではないけれど。
「アンドリュー……私の背中の色は汚いと思う?私と同じ背中を持つアンドリューを見て汚いなんて思ったことは一度もないのだけれど。私どうしても悲しみが、高貴な悲しみが止まらないの!辛いわ。心配かけてごめんなさい」
私は少し泣いてしまったの。
悪魔がいないからちょっと油断しているのもあるけれど、この悲しみを忘れることは出来そうもなかったわ。
「カメ子さん!そんなはずはありません!あなたの背中はとても美しいですよ?高貴な輝きがはじけていますから」
「アンドリューーーーッ!高貴な輝きが?」
「そうですよ。本当に美しいと僕は思うんです。だって、」
「アンドリュー?」
アンドリューが恥ずかしそうに黙ってしまったの。
恥ずかしそうにしているアンドリューを見ているだけで、私は幸せなのだけれど。
私達の高貴な王子『オ・カメ』がそんな私の思いに気付いてしまったのかしら?
オ・カメはじっと私を見つめて恥ずかしそうに首を傾げたわ。
何も言わないオ・カメは照れ屋さんね。
いつも『……はあっ』と優しい息を吐くだけなの。
なんて高貴で可愛らしい王子なのかしら?
アンドリューはどうしたのかしら?
高貴な物忘れでもしたのかしら?
私は言ったわ。
「アンドリュー?アンドリューーーッ!どうしたの?どこか痛いところでも?」
「いいえ、違うんですカメ子さん。カメ子さんの背中のことですが……僕はこの間、悪魔の娘が話していることを聞いたんです」
「ええっ、またあの娘が何か言ったの?」
アンドリューは言ったわ。やっぱり恥ずかしそうにお話するの。なんて素敵で可愛らしいのかしら。
私のアンドリューは本当に素敵だわ。
「はい。あの娘が言ったんです。ちょっと下品で恐ろしい言葉だから、心を痛めないでくださいねカメ子さん」
「アンドリューーーッ!大丈夫よ、あの悪魔たちの下品な話し方には慣れているもの。だから大丈夫よ。高貴な心遣いが素敵だわ。それで、悪魔の娘は何と言ったのかしら?」
「はい、それならお話しますがあの娘が言ったんです」
―――『ねえあいつら最近見ないけどさ、カメ子の背中って、なんかウォールナットっぽい色だよね』
―――『ジャコビアン、て感じでもあるよね。家具のカタログに載っててさ』
―――『カメ子がウォールナットとかジャコビアンとかって!笑っちゃう!』
―――『意外と綺麗な色なんだよね、ウケる』
「……」
私は胸に響いてしまったの。
どうしてかわからないけど、悪魔の娘が話していたというその言葉が。
キラキラ、キラキラ
輝いてしまったの。
「カメ子さん、あの娘は母親と違って素敵な名前をよく知っているでしょう?ですからあの娘の話には耳を傾ける価値があると思うんです。きっとウォールナット・ジャコビアンというのは高貴な者たちなのではないでしょうか?その者たちと同じ色、ということだと僕は思ったんです」
アンドリューーーーーッ!
なんて、なんて耳がいいのかしら?
耳がいいということは、つまり、賢いと同じよ。
アンドリューーーーーッ!素晴らしい私のアンドリュー!
「アンドリュー、それはおそらく、気高い高貴な者のことを指す名前ではないかしら?」
「気高く高貴な……カメ子さん!それは、もしかしたら領地を指しているのではないでしょうか?」
「まあ!アンドリュー、素晴らしいわ。きっとそうね。だったら、」
「だったら……どうされましたか?カメ子さん?」
「これから、我々の領地に名前を付けましょうよ。私たちが名前をつけるのです」
ーーーアンドリュー・ウォールナット・ジャコビアン
ーーーこの領地を統べる者、それがウォールナット・ジャコビアン卿!
ーーーつまりアンドリュー、あなたがウォールナット・ジャコビアン卿よ。
「カメ子さん!カ、カ、カメコサンーーッ!素敵だ!僕たちの領地に素晴らしい王冠をかぶせたようなものではありませんか!ウォールナット・ジャコビアン卿とは。心がキラキラしてきました。まるでカメ子さんのように!」
「アンドリューーーッ!私達の素晴らしい領地に素敵なレクイエムを!」
「そうだねカメ子さん、またあのメロディーが聴こえてきたら耳を傾けましょう」
「……はあっ」
オ・カメはなにも言わないけれど、高貴な息遣いが聞こえてきたの。
サラサラ、キラキラ
ここにローズの香りのウォールナット・ジャコビアン領が誕生したの。
高貴な喜びが止まらないわ。
◇◇◇◇◇
うちのカメコ共を特別扱いしているわけではないですが、たしかにわりと上品な背中色だとワタクシも思うのです。奴らを調子づかせるのはアレですが……
さて、意地の悪い緑の者たち(ツヤアオカメムシ等)やうちのカメ子らはニオイも撒き散らすため嫌われてりますが、カメムシの中には人間らにとって有益な者たちもいるらしいですね。
ハナカメムシ類の『モンシロハナカメムシ』『ナミヒメハナカメムシ』の紹介記事がありましたが、農業害虫を捕食してくれるため、それら農業害虫の天敵としてカメムシを用いた害虫補助法が注目されているとか……
そのハナカメムシ類の二種の写真を見ましたが、悪魔のような姿です。
我らのカメ子やアンドリューのようなひょうきんさがなく、まるでハエのような姿をしているので、たとえ役に立つ虫であっても、畑や田んぼにうろうろブンブンしていたらちょっと恐ろしいです。
そういえば、緑の者たちもアレですが、ベージュの粉をまき散らす蛾が最近かなり増えているようです。
そして、道端で哀れな姿になっているところをよく見かけます。
いくら虫共とはいえ、踏みつぶされている様子を見ると不憫になりますよね。
ワタクシがクリアホルダーによる殺戮というか追放に特化した排除を行っているのは、奴らの哀れなその姿をみたくないからということもあります。
クリアホルダーで茂みの中に飛ばすことで、カメ子らも領地追放の悲しみにたえなければなりませんが、痛みを感じず飛び去ってくれればなによりです。
凍結殺生は最後の手段ですが、風圧がすごすぎて、カメ子のような軽めの者たちを上手く凍らすためには、奥に壁を作ってから吹きかける等の工夫も必要らしいですね。
虫が活気づく秋になります。心地良い虫の声を楽しみたいものです。
――――――――――――――――――
【今日のおすすめ情報】
コーヒー好きなのですが、提携農園のコーヒーハニー、今年買いましたが美味いんです!
ラミニータ農園とか書いちゃうと、提携カフェがどこだかわかってしまうので、まるでそのカフェの回し者みたいですが、こちらのコーヒーの花からとれたはちみつ。
わりとサラサラしているのですが、味がとてもいいんです。
時にははちみつ入りのコーヒーもなかなかいいですよ。おすすめです。
しょうもないことばかりですみません。
ではまた。
お読みくださりありがとうございます。
雨がすごいですね。今日は夜遅くに帰ったのですが、びしょぬれでワイシャツが肌に張り付いて非常にマッチョな感じになりました。力こぶ。
足が滑りそうにもなりますし、気を付けて過ごしたいものです。
ではまた。




