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英雄を狩る少女  作者: ジャクロの精霊


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走らなくて済んだ朝

刹那が目覚めて最初に感じたのは温かさだった。


閉め切った部屋の息苦しい熱さではない。


熱による熱でもない。


もっとずっと単純なものだった。


誰かが彼女の手を握っていた。


彼女はゆっくりと目を開けた。


夜明けの光が小さな部屋のカーテン越しに差し込んでいた。暖炉は夜の間に消えていたが、まだいくつかの残り火がかすかに光っていた。


ミラはベッドの横に座り、マットレスに頭を預けて眠っていた。


彼女の指は刹那の指と絡まっていた。


反対側では、レナが毛布にくるまって椅子で眠っていた。


彼女の口は少し開いていた。


刹那は二人を見つめた。


数秒間、なぜ二人がまだここにいるのか理解できなかった。


そして、思い出した。


鎖。


病院。


黒服の男たち。


そのシンボル。


そして、あの白い部屋。


彼女の表情が変わった。


彼女はゆっくりと手を引っ込めた。


ミラはかすかに身じろぎしたが、目を覚まさなかった。


刹那は起き上がった。


鈍い痛みが肩を駆け巡った。手首と首には、昨日の対決の痕跡が残っていた。


彼女は嫌悪感を込めてそれらを見つめた。


痛みのためではない。


それらが象徴するもののためだ。


彼らは私を捕らえた。


彼女は歯を食いしばった。


そして、彼らは私を救わなければならなかった。


彼女は再びミラとレナを見た。


この感覚が嫌だった。


彼女は何年も、ある単純なルールを守って生きてきた。


誰にも頼らない。


誰にも自分の弱みを見せない。


そして、敵の前では決して恐怖を見せない。


しかし、あの二人はもっと恐ろしいものを見ていた。


彼らは彼女が泣くのを見た。


震えるのを見た。


懇願する。


刹那は毛布を跳ね返した。


足が地面に着いた。


立ち上がろうとした。


少なくとも、そうしようとした。


右足に鋭い痛みが走った。


壁にもたれかからなければならなかった。


「ちっ…」


痛みが治まるのを待った。


それから、武器が置いてあるテーブルへと歩み寄った。


短剣を手に取った。


指の間でそれをひねった。


一回。


二回。


三度目にひねった時、刃が滑った。


カチャリ。


刹那は凍りついた。


自分の手を見た。


震えていた。


手を閉じようとした。


震えは止まらなかった。


「くそっ…」


刹那は短剣を拾い上げるためにかがんだ。


「刹那様。」


ミラの声に、彼女はすぐに振り返った。


彼女は別の武器に手を伸ばした。


ミラは目を開けた。


セツナも目を開けた。


二人はしばらく沈黙した。


やがて、セツナはベルトから手を離した。


「驚いたわ」


ミラは床に落ちている短剣を見た。


それから自分の手首を見た。


「何をしているの?」


「準備よ」


「何のために?」


「仕事よ」


ミラはゆっくりと起き上がった。


「まだ回復していないのに」


「大丈夫よ」


ミラは震える自分の手を見つめた。


セツナはそれを背中に隠した。


「そんな目で私を見ないで」


「どんな目で?」


「まるで私が壊れそうに見えるから」


ミラは黙ったままだった。


それから彼女はかがみ込み、短剣を拾い上げ、テーブルの上に置いた。


「壊れないと思うわ。」


刹那は眉をひそめた。


「じゃあ…」


「休んだ方がいいと思うわ。」


「時間がないの。」


「ベッドから出たからといって、敵が消えるわけじゃないわよ。」


刹那は口を開いた。


そして口を閉じた。


イライラした。


特に、ミラが正しかったから。


「ずいぶん大胆になってるわね。」


ミラは微笑んだ。


「刹那様から教わったんです。」


刹那はため息をついた。


「心配だわ。」


椅子から眠そうな声が聞こえた。


「本当に…」


二人は顔を向けた。


レナはまだ目を閉じていた。


「特に命令し始めると…」


刹那は片方の眉を上げた。


「起きてたの?」


「だめ…」


「レナ。」


「あと5分…」


ミラは小さく笑った。


セツナは二人の様子を見ていた。


そして、無意識のうちに、かすかに微笑んだ。


ほんの一瞬だけ。


それから窓の方を見た。


まだ一日が始まったばかりだった。


そして、久しぶりに…


彼をどうしたらいいのか分からなかった。


いつもとは違う朝食

30分後、4人はテーブルを囲んでいた。


レナの友人が見張りから戻り、家の近くに不審な動きはなかったことを確認した。


ミラは卵、温かいスープ、そしてパンを用意していた。


たくさんのパン。


セツナは自分の皿の前に座った。


食欲がなかった。


昨夜の光景が、目を閉じるたびにまだ目に焼き付いていた。


「食べなさい」とレナが言った。


セツナは顔を上げた。


「お腹空いてないわ。」


レナは信じられないといった表情で彼女を見つめた。


「あなたが?」


「どういう意味?」


「いつも真っ先に食料の補充をチェックするってことよ。」


「それは計画性っていうの。」


「そうね。」


レナはパンを一斤手に取った。


「じゃあ、これを食べる計画を立てて。」


彼女はそれをセツナの前に置いた。


セツナはパンを見つめた。


焼きたてのパンの香りが鼻をくすぐった。


そして、記憶が蘇った。


「お腹空いてるの?」


男。


白い手袋。


紙袋。


「毎日食事ができる場所を知ってるよ。」


セツナは胃が締め付けられるような感覚を覚えた。


彼女は皿を押しやった。


ミラはすぐにそれに気づいた。


「セツナ様?」


「嫌よ。」


レナは笑顔を消した。


「具合が悪いの?」


「行きたくないって言ったでしょ。」


彼女の声は思ったよりも荒々しく出てしまった。


テーブルに沈黙が訪れた。


刹那は仲間たちの表情を観察した。


レナは言葉を詰まらせたレナは驚いた表情を浮かべた。


ミラは心配そうな顔をした。


4人目の少女はそっと視線を落とした。


セツナは目を閉じた。


再び。


まるで部下が何の疑問も抱かずに従うべきだと言わんばかりに、彼女は口を開いた。


再び目を開けると、声は低くなっていた。


「ごめんなさい。」


レナは瞬きをした。


「何?」


「あんな言い方をするべきじゃなかった。」


レナはミラを見た。


ミラも驚いた様子だった。


セツナは眉をひそめた。


「どうして私を見ているの?」


「何でもないわ」とレナはすぐに答えた。「ただ…」


彼女は微笑んだ。


「あなたがそんなに簡単に謝るとは思わなかったから。」


「謝ったことは撤回するわ。」


「いいえ、いいえ!受け入れます!」


ミラは笑い声を上げた。


セツナはパンに視線を戻した。


「私が小さかった頃…」


他の者たちは黙っていた。


刹那は数秒間沈黙した後、言葉を続けた。


「誰かが私に食べ物をくれたの。」


ミラはカップをテーブルに置いた。


「白い手袋をした男の人?」


刹那はうなずいた。


「もう二度と飢えることはないって言ってくれたの。」


彼女は肩にかけたままの毛布を握りしめた。


「私は彼を信じたの。」


レナは胸が締め付けられるような思いだった。


刹那はパンを見つめた。


「長い間、彼に感謝すべきだと思っていたの。」


「刹那…」レナは呟いた。


「彼が私たちを罰し始めた時でさえ。」


彼女の声は途切れ、ほとんど聞こえなくなった。


「私が十分に言うことを聞けば、彼はまた私に優しくしてくれると思っていたの。」


誰も何も言わなかった。


ミラはゆっくりと皿を近づけた。


刹那は身をこわばらせた。


しかし、ミラは無理やり食べさせようとはしなかった。


ただ、小さなパンを一切れ切り取り、彼女のカップの横に置いた。


「後で食べていいわよ」


セツナは顔を上げた。


「え?」


「今食べなくてもいいのよ」


ミラは優しく微笑んだ。


「それに、誰もあなたから奪ったりしないわ」


セツナは微動だにしなかった。


その言葉は、彼女の心の奥底を突き刺すようだった。


彼女はパンを見つめた。


それからミラを見た。


そしてついに、彼女はそれを手に取った。


彼女は食べなかった。


彼女はそれを小さなナプキンに丁寧に包んだ。


レナは彼女を見ていたが、何も言わなかった。


そして初めて、セツナはなぜ食べ物を取っておくのかを説明する必要性を感じなかった。


勇者と処刑人

ルシアンは正午少し前に到着した。


彼は薬、清潔な包帯、そして数枚の書類が入った袋を持っていた。


部屋に入ると、セツナが窓辺に座って地図を眺めていた。


「おはよう」


セツナは顔を上げなかった。


「遅いわね」


ルシアンは時計を見た。


「11時だ」


「ちょうどね」


「時間なんて約束してないわ」


「それは君の問題だ」


ルシアンは微笑んだ。


「具合が良くなったようだね」


セツナは顔を上げた。


「私をからかいに来たの?」


「違う。怪我の様子を見に来たんだ」


「大丈夫よ」


ルシアンは彼女の手首の包帯を見た。


「もちろん」


彼は袋をテーブルに置いた。


「それなら、拘束魔法の刻印を調べる必要もないでしょう。」


セツナは黙っていた。


ルシアンは待った。


ついに、彼女は手を差し出した。


「手短に。」


勇者は彼女の向かいに座った。


彼の指先に金色の光が宿った。


彼は彼女の手首を注意深く調べた。


「彼らが使った魔法は、君を拘束するためだけのものではなかった。」


セツナは顔を上げた。


「分かっています。」


「筋肉の反応を阻害し、特定の神経反応を増幅させたのです。」


ルシアンは眉をひそめた。


「高度に特殊化された捕獲装置だった。」


セツナは視線を逸らした。


「私のために作られたんです。」


ルシアンはすぐには答えなかった。


そして、手を下ろした。


「可能性はある。」


セツナは彼を見つめた。


「可能性?」


「まだ証明できないことを言うつもりはありません。」


彼女は黙っていた。


ルシアンは薬を片付けた。


「では、一つ質問させてください。」


「どうぞ。」


「なぜ英雄狩りを始めたのですか?」


セツナは答えなかった。


ルシアンは続けた。


「ヴァルドとガレスが何をしたかは知っています。正義が果たされなかった犠牲者がいることも知っています。」


彼は彼女をまっすぐ見つめた。


「しかし、だからといって、なぜあなたが彼の処刑人になろうと決めたのかは説明できません。」


セツナは地図を閉じた。


「あなたには私にそんなことを聞く権利はありません。」


「おそらく。」


ルシアンは椅子に深く腰掛けた。


「しかし、理解したいのです。」


「私を止めたいのですか?」


「止めるべきかどうかを知るために。」


セツナは彼をじっと見つめた。


数秒間、緊張した空気が漂った。


そして彼女は口を開いた。


「なぜ昨日、私を捕まえなかったの?」


ルシアンは驚いた様子を見せなかった。


「君は無防備だったからだ。」


「私は指名手配中の暗殺者だ。」


「知っている。」


「私は英雄を殺してきた。」


「それも知っている。」


「私を警察に突き出すこともできたはずだ。」


ルシアンは頷いた。


「ああ。」


セツナは彼に身を乗り出した。


「では、なぜ?」


ルシアンはしばらく沈黙した。


「あの男たちが君にどう接していたか、私は見ていたからだ。」


セツナの表情が険しくなった。


「同情などいらない。」


「同情などしていない。」


ルシアンは自分の手首の印を指さした。


「奴らは君を番号で呼んでいた。君を脅す言葉を知っていた。君を捕らえるために特別に武器を用意していた。」


彼の表情は真剣なものになった。


「あれは兵士同士の衝突には見えなかった」


刹那はわずかに視線を落とした。


「自分たちのものだと考えている何かを取り戻そうとしていたように見えた」とルシアンは言い終えた。


部屋は静まり返った。


刹那は寒気を感じた。


ルシアンは続けたあるいは:


「もし私が調査もせずに君を引き渡していたら、君にあんなことをした連中の元へ返していたかもしれない。」


セツナは拳を握りしめた。


「私は彼らの所有物じゃない。」


「分かっている。」


「私は誰のものでもない。」


「それも分かっている。」


ルシアンは冷静に彼女を見つめた。


「だからこそ、君を引き渡さなかったんだ。」


セツナは微動だにしなかった。


長年、彼女は英雄たちが義務、権威、正義といった言葉で自らの行動を正当化するのを聞いてきた。


ルシアンは彼女を捕らえる絶好の機会を得ていた。


そして彼はそれを拒否した。


それはセツナが思い描いていた英雄像とはかけ離れていた。


「あなたは変な人ね」と彼女は呟いた。


ルシアンは微笑んだ。


「よく言われるよ。」


「それに、うざい。」


「それもそうだ。」


セツナは視線を逸らした。


しかし、彼女は思わず微笑んだ。


提案

ルシアンが傷の診察を終えると、ミラとレナが入ってきた。


彼は持ってきた書類をテーブルに置いた。


「バッジに関係するものを見つけた。」


セツナはすぐに起き上がった。


「見せて。」


ルシアンは手を上げた。


「まず、条件を決めなければならない。」


セツナは目を細めた。


「あなたには条件を課す立場ではない。」


「それに、あなたは短剣を握るだけでも手が震えているじゃない。」


沈黙。


レナはミラを見た。


ミラはレナを見た。


二人とも口を挟もうとはしなかった。


セツナは危険な笑みを浮かべた。


「確認してみる?」


ルシアンはため息をついた。


「まさにそれこそ、私が避けたいことだ。」


彼はファイルをテーブルに置いた。


「もし君が一人で彼らと対峙するつもりなら、私は彼らを追跡する手助けはしない。」


刹那は眉をひそめた。


「あなたに頼む必要はないわ…」


「いや。」


突然の遮りに彼女は驚いた。


ルシアンは続けた。


「君には助けが必要だ。」


刹那は口を開いた。


「断る前に、昨日のことを思い出してくれ。」


刹那は沈黙した。


ルシアンの表情が和らいだ。


「君に能力がないと言っているわけではない。」


間を置いて。


「彼らは君自身が覚えていないことを知っていると言っているのだ。」


それは聞くのがずっと辛かった。


刹那は視線を自分の手に落とした。


ミラが口を挟んだ。


「刹那様、私たちは受け入れるべきだと思います。」


刹那は顔を上げた。


「ミラ。」


「ルシアンを完全に信用しているわけではないんです。」


英雄は眉を上げた。


「それは心強いな。」


ミラは彼を無視した。


「でも、彼女は英雄の魔法を知っているし、文書にもアクセスできる。私たちが発見したものを理解する手助けをしてくれるはずです。」


レナは頷いた。


「それに、私たちはチームです。」


セツナは彼女を見た。


「それで?」


レナは近づいた。


「すべてを一人で決める必要はないんです。」


セツナは黙ったままだった。


レナは続けた。


「ガレスに捕まった時、あなたは私たちを助けてくれました。


私たちが戦い方を知らなかった時、あなたは教えてくれました。


私たちが怖かった時、あなたは生き延びるように言ってくれました。」


若い女性は微笑んだ。


「今度は私たちがあなたを助ける番です。」


セツナはミラを見た。


次にレナを見た。


最後にルシアンを見た。


「あなたを信用できないわ」と彼女は勇者に言った。


「そうだろうと思ったよ」


「もしあなたが仲間を危険に晒すような何かを隠していると分かったら…」


ルシアンは手を上げた。


「分かってる。殺されるだろうな」


セツナは彼を見つめた。


「必ずしもそうとは限らない」


ルシアンは瞬きをした。


「え、そうかい?」


「まずは、君に話させよう」


レナはため息をついた。


「セツナ…」


ルシアンはくすりと笑った。


「よし。進歩と言えるだろう」


セツナは手を差し出した。


「そのファイル」


ルシアンはそれを彼女に手渡した。


白い手袋をした男の名前が記されていた。


書類は古びていた。


紙は黄ばんでいた。


冒険者ギルドの公式印章と教会の許可証が押されていた。


セツナはすぐにそのシンボルを認識した。


円。


三本の線。


彼女は胃が締め付けられるのを感じた。


ミラが椅子を引き寄せた。


「読んであげようか?」


セツナは首を横に振った。


「自分で読むわ。」


彼女は最初の数行に目を走らせた。



特別被験者選抜プログラム。


実験ユニットVII。


ステータス:転属許可。


セツナは立ち止まった。


あるイメージが彼女の脳裏に浮かんだ。


白い廊下。


鉄の扉。


泣いている少女。


彼女は軽く首を横に振った。


ルシアンはそれに気づいた。


「全部読まなくてもいいよ。」


「続けて。」セツナは答えた。


ヒーローはある箇所を指さした。


「この文書は不完全です。何人の子供が参加したのか、プログラムの正確な目的は何だったのか、分かりません。」


レナはその紙を調べた。 「彼らは英雄になるための訓練を受けていたのですか?」


ルシアンはゆっくりと首を横に振った。


「確かなことは言えません。」


ミラはギルドの紋章を指差した。


「でも、誰かが譲渡を承認したはずです。」


「その通りです。」


セツナは読み続けた。


そして最後の行にたどり着いた。


指導・評価責任者:


その下に署名があった。


インクは一部薄れていた。


しかし、名前はまだ判読できた。


エドリック・ヴァルサー。


セツナは一瞬息を止めた。


ミラが近づいた。


「セツナ様?」


若い女性はその名前をじっと見つめた。


エドリック。


ヴァルサー。


彼女は心の中で繰り返した。


一度。


二度。


そして……


声が返ってきた。


「ナンバーセブン。」


白い手袋をはめた男。


「短剣を上げろ。」


白い部屋。


「泣かないで。」


手が彼女の顔を包み込んだ。


「名前は、その価値を証明した者に与えられるものだ。」


刹那は頭に手を当てた。


「だめ…」


ミラはすぐにひざまずいた。


「刹那様。」


刹那は目を閉じた。


記憶は薄れていったそれは起こった。


しかし今回は、彼女はなんとか現実にとどまることができた。


彼女はゆっくりと呼吸をした。


一度。


もう一度。


ルシアンは待った。


彼女が再び顔を上げた時、その目は涙で潤んでいた。


「彼だったのね。」


誰も何も言わなかった。


セツナは名前を指さした。


「路上で私を見つけた人。」


彼女の声はかすかに震えていた。


「パンをくれた人。」


レナは口元を手で覆った。


セツナは続けた。


「毎日寝床と食事を用意してくれると言ってくれた人。」


彼女は書類を握りしめた。


「私をナンバーセブンにしてくれた人。」


ミラは彼女の肩に手を置いた。


セツナはそれを動かさなかった。


ルシアンは真剣な表情を崩さなかった。


「エドリック・ヴァルサーは15年ほど前、英雄の教官だった。」


セツナは顔を上げた。


「だったの?」


ルシアンは頷いた。


「公記録によると、彼は退職している。」


「彼はどこにいるの?」


「知らない。」


セツナは歯を食いしばった。


ルシアンは続けた。


「だが、他にもある。」


彼は2枚目の紙を取り出した。


それは役職一覧だった。


「ヴァルサーはただの教官ではなかった。」


彼は以前の役職を指さした。


「英雄候補生選抜監督官。」


レナは眉をひそめた。


「どういう意味?」


ルシアンは答えた。


「つまり、彼は特別訓練を受ける者の選抜に関わっていたということだ。」


ミラは書類を見た。


「つまり…」


ルシアンはゆっくりと頷いた。


「セツナが関わっていたプログラムは、英雄訓練と何らかの関係があった可能性がある。」


部屋は完全に静まり返った。


セツナはその名前をじっと見つめた。


彼女は何年もの間、自らを英雄と名乗る男たちを追い詰めてきた。


彼らの罪を追及し、


彼らの特権を奪い去ってきた。


そして今…


彼女を暗殺者に仕立て上げた男が、彼女たちを訓練した組織と繋がりがあるらしい。


セツナはゆっくりと書類を手放した。


「エドリック・ヴァルサー…」


彼女の声はかろうじて聞き取れるほどの囁きだった。


ミラは彼女を見つめた。


「これからどうするの?」


セツナは自分の手を見つめた。


まだかすかに震えていた。


そして彼女は顔を上げた。


「彼を見つけたい。」


レナは深く息を吸い込んだ。


「なら、私たちが見つけましょう。」


セツナは彼女を見た。


「簡単じゃないわ。」


ミラは微笑んだ。


「いつもそうよ。」


ルシアンは書類をまとめた。


「まず、誰がまだ彼を庇っているのかを突き止めなければならない。」


刹那は考え込んだ。


そして、ミラに手を差し伸べた。


ミラは瞬きをした。


「刹那様?」


「起こして。」


ミラは優しく微笑んだ。


「もちろん。」


彼は刹那を立たせた。


刹那はまだ足がふらついていた。


しかし、今回はそれを隠そうとはしなかった。


彼女はレナを見た。


次にミラを見た。


最後にルシアンを見た。


「私は一人では行かない。」


その言葉は皆を驚かせた。


特にミラを。


刹那は深く息を吸い込んだ。


「でも、あの男に他の子供たちに同じことをさせるわけにはいかない。」


ルシアンは頷いた。


「では、まず証拠を集めよう。」


刹那は紙に書かれた名前を見た。


エドリック・ヴァルサー。記憶を取り戻して以来初めて、彼女は恐怖以外の感情を抱いた。


それは単なる怒りではなかった。


何が起こったのかを知りたいという切実な思いだった。


他の子供たちはどうなったのか。


そして、なぜ誰かが彼らを武器に変えようとしたのか。


しかし、彼女がさらに質問をする前に、玄関のドアを3回ノックする音が聞こえた。


全員が凍りついた。


グループの4人目が上の階から慌てて現れた。


「外に誰かいる!」


セツナは本能的に短剣に手を伸ばした。


ミラが彼女の前に立ちはだかった。


ルシアンは杖を構えた。


レナが窓に近づいた。


「何人?」


「一人だ。」


セツナは眉をひそめた。


外から男の声が聞こえた。


「ルシアン・ヴァレル。」


英雄は凍りついた。


声は続いた。


「ナンバーセブンが君と一緒なのは分かっている。」


刹那は背筋に寒気を感じた。


ミラは短剣を抜いた。


しかし、見知らぬ男は入ろうとはしなかった。


ただ、ドアの前に何かを置いた。


「彼女が探していたものを見つけたと伝えてくれ。」


足音が遠ざかった。


ルシアンは数秒待ってからドアを開けた。


床には小さな木箱が置いてあった。


彼はそれを中に運び入れた。


刹那はゆっくりと近づいた。


「開けて。」


ルシアンは蓋を開けた。


中にはナプキンに包まれたパン一切れが入っていた。


そして小さな金属製のプレート。


V。


ナンバーファイブ。


その下にメモが置いてあった。


刹那はそれを拾い上げた。


そこにはたった一文だけが書かれていた。


「セブン、全員が脱出できたわけじゃない。」


刹那は身動き一つしなかった。そして、何年もぶりに…


彼女は笑顔を思い出した。


一緒に食事をした少年の笑顔を。


彼女はメモを握りしめた。


「5…」


ミラは彼女を見つめた。


「彼を知っているの?」


セツナはゆっくりと頷いた。


「ええ。」


一筋の涙が彼女の頬を伝った。


しかし、今度は彼女はそれを隠そうとはしなかった。


「彼は私の友達だったの。」

この章を楽しんでいただけたなら、ぜひご感想をお聞かせください。


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読んでいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
 脆さだけでなく、自分の隙や非、同行者などとある程度向き合ったうえで謝罪などを口にするなど、序盤での徹底とは別種の強さを見せ始めましたか。セツナさん、何かが変わりつつありますね。  そして、三本線の…
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