語りたがらない声
エルナール村に午後がゆっくりと降りてきた。
灰色の空は重くなり、まるで雲そのものが動きをためらっているかのようだった。木造家屋の間に影が長く伸び、土の道を低い、どこか不穏な音を立てて風が吹き始めた。
宿屋の中も、雰囲気は変わらなかった。
人影はまばら。
言葉もほとんどない。
静寂があまりにも重かった。
セツナはテーブルに座り、目の前には手つかずのカップの水が置かれていた。姿勢はリラックスしていたが、視線はそうではなかった。
彼女は見つめていた。
ミラは、セツナの少し後ろに、まるでふさわしいかのように立っていた。両手を前で組み、視線は伏せられていたが、注意深く見守っていた。
「始めましょう」とセツナは静かに言った。
「はい、セツナ様」
主人公は立ち上がった。
「まるで面倒事でも起こそうとしているかのように質問しないで」 「分からないふりをして聞いてみなさい。」
「分かりました、せつな様。」
二人は宿を出た。
村は以前よりずっと静かだった。人々は早く家に帰ってしまったようだ。家々の明かりがかすかに灯り始めていた。
これはいつものことではなかった。
「夜が怖いんだな」とせつなは呟いた。
「はい、せつな様。」
二人は中央の井戸へと向かった。
そこで二人は、先ほどと同じ女性が、ちょうどバケツに水を汲み終えたところだった。彼女の動きは速く、緊張していて、まるで一刻も早く立ち去りたいかのようだった。
せつなは、威圧的にならないように彼女に近づいた。
「すみません。」
女性は少し身をすくめた。
「はい…?」
せつなは軽く頭を下げ、落ち着いた口調になった。
「今日、到着しました。」
「村の様子が…違いますね。」
女性はためらった。
彼女は周囲を見回した。
近くに誰もいない。
それでも彼女は声を潜めた。
「そんなことを聞いてはいけません。」
刹那の表情は変わらなかった。
「ただ、理解したいだけなんです。」
沈黙。
女はキューブをきつく締めた。
「ここは長居する場所ではありません。」
刹那はもう一歩近づいた。
「それはもう聞きました。」
女は唾を飲み込んだ。
彼女の後ろにいたミラが、小さく一歩前に出た。
「お願いです…」彼女はより柔らかく、人間らしい声で言った。「私たちはただ、面倒なことに巻き込まれたくないだけなんです。」
女はミラを見た。
初めて。
そして、彼女の表情に何かが変わった。
ミラはもはや遠い存在には見えなかった。高貴な女性にも見えなかった。危険な人物にも見えなかった。
彼女は…近くに感じられた。
首輪の調整が効いたのだ。
女はためらった。
それから、かろうじて聞き取れるほどの声で言った。
「あの英雄は…」
セツナは口を挟まなかった。
「最初は私たちを助けてくれたの」と女は続けた。「獣を退治してくれた。盗賊を追い払ってくれた。食料が不足している時には持ってきてくれた。」
ミラは黙って聞いていた。
セツナも。
「それから…」女の声はかすかに震えた。「彼は物を要求するようになったの。」
「何を?」セツナは尋ねた。
「何でも。」
女は視線を落とした。
「穀物。」
「家畜。」
「労働。」
沈黙。
「そして、もう誰も何も与えられなくなった時…」
女は言葉を最後まで言わなかった。
必要なかった。
セツナは低い声でそれを続けた。
「彼は彼らを罰したの。」
女はかろうじて頷いた。
「村のためだって言ってるの…」彼女はささやいた。「秩序を保たなければ、すべてが崩壊してしまうって。」
ミラは優しく言った。
「あなたは彼の言うことを信じるの?」
女性はすぐには答えなかった。
そして、ようやく口を開いたが、その声はほとんど聞き取れなかった。
「私たちはあなたを信じるしかないの。」
沈黙。
セツナは数秒間、彼女を見つめた。
「彼は今どこにいるの?」
女性は緊張した。
彼女は母屋の方を見た。
「近づかない方がいいわ。」
「そんなことは聞いてない。」
女性はためらった。
「彼はあそこにいる…」彼女はついに言った。「外出しない時は、いつもそこにいるの。」
セツナは頷いた。
そして最後に一つだけ尋ねた。
「彼は夜に出かけるの?」
女性はバケツをぎゅっと握りしめた。
「時々ね。」
それで十分だった。
刹那は一歩下がった。
「ありがとうございます。」
女は何も答えなかった。
彼女はほとんど逃げるように去っていった。
二人は数メートル、黙って歩いた。
ミラは静かに言った。
「パターンが確定しました、刹那様。」
「ああ。」
「段階的支配。」
「依存。」「選択的懲罰。」
刹那は頷いた。
「そして、構造化された恐怖。」
ミラは頭を下げた。
「はい、刹那様。」
二人は人目のつかない場所へと歩き続けた。
そこで、家の外に座り、地面を見つめている老人を見つけた。
刹那は老人の前に立ち止まった。
「こんにちは。」
老人は顔を上げた。
彼の目は疲れていた。
ひどく疲れていた。
「疲れていない」と彼は答えた。
刹那は彼を見つめた。
「なぜ?」
男は乾いた笑いを漏らした。
「ここにはもう、穏やかな午後などないからだ。」
沈黙。
ミラは一歩前に出た。
「いつから?」と彼女は尋ねた。
老人は彼女を見た。
「救世主が現れてからだ。」
その言葉には苦々しさがにじみ出ていた。
「誰も何もしてくれないの?」とセツナは尋ねた。
男は首を横に振った。
「英雄に対して?」
その答えが全てを物語っていた。
セツナは腕を組んだ。
「つまり、あなたは待っているのね。」
「ああ。」
「何を?」
老人は彼女をじっと見つめた。
「誰かが彼を殺してくれるのを。」
二人の間に風が吹き抜けた。
ミラは動かなかった。
セツナも動かなかった。
しかし、一つだけはっきりしていた。
忠誠心はなかった。
尊敬もなかった。
希望もなかった。
ただ恐怖だけ…そして、それが終わってほしいという願いだけ。
刹那は顔を背けた。
「もう十分だ。」
「はい、刹那様。」
二人は宿屋へと戻った。
村は依然として静まり返っていた。
しかし、その静寂には形があった。
物語があった。
犠牲者がいた。
そして、明確な犯人がいた。
部屋に着くと、刹那は扉を閉めた。
彼女は数秒間、そこに立ち尽くした。
そして、彼が口を開いた。
――それは
今夜は彼と対峙しない。
ミラは頷いた。
「最後の確認です、セツナ様。」
「ああ。」
セツナは窓に近づいた。
勇者の家はまだそこにあった。
静かだ。
手出し無用だ。
今のところは。
「でも、もう疑いの余地はないわ」と彼女は言った。
ミラは絶対的な平静さで答えた。
「いいえ、セツナ様。」
セツナは窓枠に手を置いた。
「前回と同じだ。」
「ああ。」
セツナは軽く首を振った。
「違う。」
沈黙。
「今回はもっとひどい。」
ミラは視線を落とした。
「はい、セツナ様。」
セツナはかすかに微笑んだ。
冷たい笑みだった。
「だからこそ、なおさら面白い。」
外はすっかり夜になっていた。
村の灯りは薄れ、
通りにはほとんど人影がなかった。
そして村の中心には…
英雄の家がまだ建っていた。
まだ知る由もないが…
今度こそ、誰も助けを求めてやって来ないだろうということを。
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