08.安息
「――久しぶりだな、イズミ」
「――誰だっけ、あなた?」
アルバートと別れてからユカリ、ソラ、シイナの三人は守護者本部の待合室に集まっていた。
三人はそこで体を休めつつ、増援としてくるはずの二人の守護者隊員を待っていた。
他愛も無い話をしながら三人が過ごしていると、増援として呼ばれた守護者の隊員が遂にやって来た。
部屋に入ってきたのはユカリと同じような守護者の制服に身を包んだ金髪碧眼の少年だった。
背丈はユカリよりも頭一つ分高く、短く整えられた髪型に色白な肌、彫りが深く整った顔立ち、年の割には鍛え上げられて筋肉質な体つきの美少年だった。
違う点としてはユカリの制服が白地に赤い刺繍だったのに対して、少年の制服は白地に青の刺繍だという点。
そして腰に携えた武器がレイピアやエストックのような細く尖った剣だという事だ。
そんな部屋に入ってきた金髪の少年に対してユカリはあまりにも不適切な返答をした。
室内を重苦しい静寂が包んでいった。
「――――訓練生時代、お前と主席を争ったブルストム・ハルバードだ!!」
静寂を破るように金髪の青年、ブルストムは力強い声でそう言った。
その声には側で聞いているだけのソラにもわかるほどの怒気がこもっていた。
「――あぁ、ブルストム。懐かしいわね」
一方でこの状況を作り出した張本人、ユカリの方は気づいてないのか特に気にした様子もなく相槌を打っていた。
その返事が気に障ったのか定かではないがブルストムの方は目つきをさらに鋭くさせ、額には青筋が浮かんでいた。
「二人ともそこまで! 喧嘩はだめですよ~」
ブルストムの後ろから更にもう一人、金髪のロングヘア―に緑色の大きな瞳を持った少女が入ってきた。
顔つきはユカリのような綺麗さを感じるタイプではなく、どちらかといえば垂れ目で可愛らしさと愛らしさを感じるタイプであった。
背丈はユカリと同じくらいかやや低く、ユカリやブルストムと同じく守護者の制服を身にまとっているがその刺繍は緑色だった。
背中には彼女の背丈と同じくらいの大きさのメイスを背負っており、そのメイスも白と緑の塗装が施されていた。
少女は部屋の中に入るとソラに向かってこう言った。
「初めまして~、私、ユカリちゃんと同期の~エレノーラ・グリーングラスって言います~。よろしくお願いします~」
甘ったるい声で、間延びしたのんびりとした口調で、エレノーラはそう言ってのけた。
何もない普通の場面であれば癒し系だとか、のんびり屋さんだとか色々と褒める言葉があるだろう。
しかし、今この場面においてはとてつもなく場違いな人物であった。少なくともソラはそう感じた。
事実、彼女が自己紹介をしてから後ろに立っているブルストムの額には先ほどよりも青筋が一本増えていた。
心なしか眉間のしわも、より深い彫りを刻んでいた。今にも爆発してしまいそうだとソラは思った。
「これで自己紹介は済んだわね。二人とも、私達三人が警備を担当するから休んでいても構わないわ」
ソラとシイナに対してユカリはそう口にした。
ソラは内心で名前忘れていたくせに、と思ったが口にはしなかった。
口にするとブルストムの額に青筋がさらにもう一本増えるような気がした。
ユカリ、ブルストム、エレノーラの三人は待合室の外に出ると、ドアのすぐ前でユカリが他の二人に対して話しかけた。
「あの二人がソラとシイナよ。ソラの方は中々腕の立つ魔導士、いざというときには頼りにしても問題ないわ」
「あの若さで魔導士ね、いまいち信じられないが」
「すごいですね~。私、魔導士なんて初めて会いました~」
ユカリの説明にブルストムとエレノーラが反応する。それを受けてユカリは説明を続ける。
「襲われているのはシイナ。襲撃犯はおそらく帝国の人間。見たことのないパワードスーツをまとっていて、かなり強い。私たち三人だけじゃなくソラも含めて戦うことになるでしょうね」
「本当に帝国の人間なのか?だとしたら何で連邦の惑星で少女追いかけまわすなんて事やってるんだ?」
「わからないわ。それを突き止めるためにもあの襲撃犯は捕縛しないと」
ブルストムの疑問にユカリは率直に答えた。
「……了解」
「了解です♪」
ユカリの発言に対してブルストムは忌々しげに、エレノーラは楽しげに返事をした。
◇
「~♪」
「……楽しそうだねぇ」
ユカリ達が話し合いをしている頃、ソラとシイナの二人は待合室にあるソファに座りながらくつろいでいた。
ソラの方は色々な事が立て続けに起こったので正直くつろぐというほど気楽な心情ではなかったが、シイナの方はソファに座りながら足をぱたぱたと動かし、にこにこと笑みを浮かべていた。
その姿を見てソラは思わず、ぼやくようにして声に出した。
それを聞いてシイナは不思議そうにしながらソラを見ている。
「……え~とさ、単純にさ……その……狙われてるのにさ……怖くないの?」
「……?」
シイナに対してソラは歯切れの悪い言葉で尋ねる。
しかし、それを聞いてもシイナの方は尚も不思議そうな顔で首を傾げるばかりだった。
「……いや、あの襲撃犯……強いし、何考えてるかわかんないし、そんな奴が自分のこと狙ってるって……怖くないの?」
ソラの疑問を聞いてシイナも暫し考え込む。しばらくして顔を上げたシイナはソラに目を合わせると首を横に振った。
「……君、結構たくましいんだね。すごいよ、ほんと」
シイナを見据えて思わずといった感じでソラは呟く。
ソラは目の前の少女をか弱く、非力な存在と見なしていた自身に気づかされた。
だが、それは間違いだった。
目の前の少女は過酷な状況に置かれながらも決して挫けてはいない。
確かに華奢な体や、病弱そうな肌、気弱そうに怯える姿は誰かに守られなければ、簡単に消えてしまいそうな弱者の様に映るかもしれない。
しかし、その体の内に秘めた心は決して弱くはない。
むしろ、吹きすさぶ嵐のような過酷な状況にあっても折れずに立ち続ける大木のような力強さをソラは感じた。
そうしているとシイナはソラの方に体をくっつけるようにして寄せてきた。
そしてソラの腕を掴み、自身の腕と体で挟むようにして横に座った。
今、ソラとシイナは家族や恋人のように腕を組んでソファに並んで座っている。
その事にソラはどうしようもない気恥ずかしさを感じた。
腕を解こうとするがシイナが華奢な体にも関わらず、思いっきり力を込めて体を引っ張るように座っているので思うように腕を振りほどく事が出来なかった。
ソラの腕にシイナの体温を感じる。
華奢な体に青白い肌、痛々しい痣に怯えた表情、雪のように白い髪に血のような赤い瞳。
そうしたシイナの外見からソラは無機質で冷たい、作り物めいた印象を抱いていた。
しかし、今のシイナから受ける印象は違った。
触れ合う肌からは体温を感じ、心臓の鼓動を感じ、そして息遣いまで感じられた。
そして何よりもシイナから自分に対する寄り添おう、元気づけようという心を感じた。
不安がるソラを安心させようという思いやり。自分は大丈夫だからソラも安心して。
言葉にはできないがソラにはそう言っているように感じられた。
これらの感覚がソラに「作り物なんかじゃない、この子も一人の生きた人間なんだ」という当たり前のことを再認識させた。
そしてそのことがより一層、シイナを守りたいという思いをソラに抱かせた。
並んで座る二人はそのまま目を閉じて、微睡みの中に沈んでいった。




