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03.接近


 「そういえば、自己紹介してなかったよな。俺、ソラ・リュウセイ。よろしくな」


 「守護者(ガーディアン)本部第3小隊所属、ユカリ・イズミよ。よろしく」


 二人が短く、互いに自己紹介を済ませる。するとユカリの方からこう問いかけた。

 

 「そういえばさっきの魔法だけど、もしかして貴方――魔導士(ウィザード)?」


 「あぁ、そうだよ。スゲーだろ?」


 「確かに、魔導士(ウィザード)なんて実際に会ったのはあなたが初めてよ」


 自慢げに答えたソラに対してユカリも素直に肯定する。


 『魔導士(ウィザード)』とは高次元物質『エーテル』を自在に操れる者のことである。


 この物語の舞台、ガラクシア銀河には通常では観測することのできない物質、エーテルが満ちている。

 このエーテルという物質は、人間の精神とだけ反応する特異な性質を持っており、その人間がどのような事を考えたかによって性質がガラリと変化するのだ。


 例えばとある魔導士(ウィザード)が「水が欲しい」と考えたとしよう。

 エーテルはこの「水が欲しい」という思考と反応する。

 その際、エーテルはこの「水が欲しい」という思考に対応した性質をとる。水を構成する水素分子や酸素分子に変化したり、あるいは石や砂といったほかの物質を水そのものに変化させたりといった具合にだ。

 そしてこの変化は単に水などの普遍的な物質を生成するだけに留まらない。

 魔導士(ウィザード)の気質によっては水を金に変えたり、未来を見通したり、離れたところにある物体を手も触れずに動かしたりもできてしまう。


 このようにエーテルを自由自在に操って、通常では考えられない不思議な事象を起こせる者を、この宇宙の人々は魔導士(ウィザード)と呼んでいた。


 この魔導士(ウィザード)という人間はとても少ない。まずエーテルに干渉できる人間ですら惑星にもよるが千人に一人いるかいないかという数である。

 そして自分の意志でエーテルをコントロールできる人間ともなると十万人に一人から二人といった具合である。


 ソラが自慢げに話すのも当然だろうとユカリは思ったし、事実魔導士(ウィザード)であるということを聞いて、ユカリ自身一番最初に思ったことが「――凄い」という捻りも何も無いものだった。


 しかしその上でユカリにはまだソラに対して疑念があった。それは先ほどソラからも自分に向けて放たれた問い、すなわち「何故あの場所にいたのか?」という疑念である。


 確かに惑星メトロポリスの最下層区は人がほとんどいない。昼でも真夜中のように暗く、行政のサービスや住人向けの飲食店なども無い。

 それに加えて上層区で出たゴミを捨てるための廃棄物処理場という側面もある為、今もユカリとシイナ、ソラの三人で歩いている横にも大量のゴミの山が幾つもそびえ立っている。

 はっきり言って今となってはここは人が住むには適さない土地なのだ。


 それでもここに住む人間は少なからずいる。身寄りも財産も一切持たないホームレスに逃走、潜伏中の犯罪者といった真っ当な場所では暮らしていけないような人たちである。

 他にも人気のなさを利用して犯罪組織が非合法な活動をするために訪れることもある。


 そういった事情もあり、守護者(ガーディアン)はこのエリアを定期的にパトロールしているし、ユカリ自身が今日この場所にいる理由もパトロールの為だ。


 しかし目の前のこの人間は違う。まず間違っても守護者(ガーディアン)の人間ではない。

 ユカリは守護者(ガーディアン)に入ってまだ一年もたってはいないが、こんな人間は本部では見たことがない。魔導士(ウィザード)ともなれば噂くらいは入ってきそうなものだが、それすらも覚えがなかった。

 

 ともすれば次に考え付くのがホームレスなどの貧困者かとも思ったがそれもすぐに否定された。

 魔導士(ウィザード)はとても希少だ。なれれば使い切れないだけの大金が連邦政府から支給されるし、各種免税特権すら与えられる。仕事も向こうの方から頭を下げて、「どうかお願いします。」と頼み込まれる立場だ。

 つまり魔導士(ウィザード)ならどうやっても金に困って、こんな場所に身を潜めて暮らす理由が無いのだ。


 となれば残る理由はただ一つ、――犯罪者である。

 ユカリからすればわけのわからない話だが、犯罪組織にも魔導士(ウィザード)はいる。

 理由は様々で、その中でも多いのは政府に縛られたくないといった信条的なものやこっちの方が儲かるといった金銭的なものだ。


 どんな理由であれ、犯罪者であるならばユカリとしては見逃すわけにはいかない。

 職務上の都合というだけではなく、この男がシイナによからぬことを企んでいるのならば自分が彼女を守らねばならない。そんな個人的な感情もない交ぜになっていた。

 そういった事を考えながら、ユカリはソラの一挙手一投足を観察していた。当の本人はそんなことには気づいていないようで、むしろシイナやユカリのことを気遣いながら歩いていた。


 一体なぜあの場所にいたのか?自分もソラに対して問いかけようとした――その時だった。

 

 暗闇の向こうから謎の影に襲撃を受けたのは。 



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