28.不穏な気配
「……どう? ブルストムの奴……大丈夫そう?」
「……息はあります……単純に私の回復じゃ治りきらなかっただけです……」
「……エレノーラが気にすることじゃないわ。それよりもパーツの回収を済ませちゃいましょ」
「……さすがにひどすぎない? それ……」
ユカリのあんまりな提案をソラは窘める。
エレノーラは変わらず表情を曇らせている。
陰鬱な空気が辺りに立ち込める。
しかし、そんな空気などお構いなしにやって来る者達がいた――シュウとシイナである。
二人はラプターの背に跨ったままこちらに向かってくる。
「お~い……みんな~……置いてかないでくれよ~」
近くまで来るとシュウはぼやく様に呟いた。
ラプターも「クエッ!」と短く鳴いた。
シイナはシュウの胸の前でブルストムの方を無言で見つめていた。
「あん? そちらさんはどなた? 見ない顔だけど……」
「彼はブルストム・ハルバード、連邦の犬よ。気にしなくて良いわ」
「……そちらさんとユカリちゃん……何かあったの?」
シュウの方もブルストムに気が付いたのか言及する。
その疑問に対してユカリは至極淡々と、冷徹なまでに短く答える。
それを聞いてシュウの方は質問先をソラに変えた。
「……ブルストムはメトロポリスで俺たちと一緒にシイナを守ってた……でも途中でシイナを危険視する連邦にシイナを殺すよう命令されて……で、こいつはそれを受け入れたんだ」
「信じられないわよ。全く」
庇うようにソラは説明する。
ユカリは横で腕を組みながら忌々し気にその説明を聞いていたが、我慢できないといった様子で口を挟む。
シュウはソラの説明とユカリの態度で、ブルストムという人間が彼らにとってどういう存在なのか察したようで、納得したように頷くとすぐさま話題を変えた。
「……それはそうとパーツの方はどう? 入手できた?」
「まだこれからよ。武器も一緒に回収しなくちゃね」
ユカリが短く答える。
それを聞いてシュウはソラに対して耳打ちをする。
「……ユカリちゃんって案外根に持つタイプなんだな……」
それに対してソラは沈黙以外の答えを出せなかった。
「......ブルストム君の治療にはもう少しかかりそうです……どこかゆっくりと体を休められる所があれば……」
「それなら近くにエルフの村があるよ。まぁ守護者ならあの偏屈野郎共も受け入れてくれんだろ」
エレノーラの言葉にシュウが返す。
その口ぶりは嫌悪感を前面に出したものだった。
「……その口ぶり……何か問題でもあるのか? エルフの村に……」
「あそこの連中は地球人を露骨に差別するんだよ……余所者~って感じでさ」
「……帝国は今でも五大種族を奴隷にしている……エルダーフも前の戦争では、大勢のエルフが奴隷として連れ去られ、そして帝国は地球人が主体となって作られた国家……確かにあまりいい顔をされないのも納得ね」
ソラがシュウの口調に疑問を投げかけると、シュウも苦虫を嚙み潰したように答える。
その回答を聞いてユカリが補足するように口を挟んだ。
ユカリの説明とシュウの態度から一同は、エルフの村が地球人に向ける感情を想像する。
各々、細かいところに差異はあったがそれが快いものでない事だけは一致していた。
「……宇宙船のパーツは俺が取って来るよ……みんなはブルストムを連れてエルフの村へ行ってくれ。俺も後で合流する」
「あっ! おい! 逃げんなよ!」
ソラの提案にシュウが食って掛かる。
しかし、その争いもユカリの声によって止められた。
「はいはい、そこまで。ソラ、シュウ、あなた達はパーツと私達の武器を回収して。私とエレノーラ、あとシイナで、ブルストムをエルフの村まで連れていくわ。シュウ、村の場所だけ教えて」
そう言われるとシュウは渋々といった感じでユカリにエルフの村までの道のりを教えた。
それが終わると一行は二手に分かれて歩き出した。
◇
ソラ達が二手に分かれたのと同じ頃、それとは別の場所、エルダーフの森の奥深くにて帝国の魔導士、ネクロ・ネビニラルはその目つきを鋭くして佇んでいた。
「――蘇生」
彼がそう口にして左手の指をパチンと鳴らす。
すると、彼の目の前に沼のように泥が溢れだし、その泥に電流が走る。
泥は次第に盛り上がって人の背丈と同じぐらいの高さになった。
そうして盛り上がった泥は一瞬の間をおいて弾け飛び、中からソラの攻撃で胴に穴が開いたはずのキャンサーが、その体に開いているはずの穴が塞がった状態で現れた。
「……おはよう、キャンサー……気分はどうだい?」
キャンサーはネクロの発言を聞いて暫し考え込む。
しかし自身に起こった状況を理解すると、すぐさま膝をつき、彼に謝罪の言葉を放った。
「――申し訳ありません!! ネクロ様!! このキャンサー、一生の不覚です!!」
「……まぁいいよ……それにしてもお前を倒すだなんて……相当強いんだねぇ……彼」
「まさにその通り……正直言ってもう一度挑んだところで、私には勝てる光景が見えませぬ……」
「……安心しなよ……それを考えるのは俺の仕事さ……その為に戦った側の視点で彼について教えてくれない?」
ネクロがそう言うと、キャンサーの方も自身から見た異形と化したソラの戦闘力について一つ一つ口にしていく。
ネクロはその言葉を受けて、うんうんと頷きながら思案を巡らせていた。
「……攻撃は効かない……向こうの攻撃は二~三発食らったらアウト……おまけに音速で空も飛べる……頭痛くなってくるね……」
「……やはりネクロ様でも対抗策は思いつきませんか……?」
「……そうだねぇ……とりあえず現状だと思いつかないかな……まぁ安心しなよ……可能性まで無いって訳じゃないからさ……」
そう口にするとネクロはキャンサーに今後の指示を出す。
深い森林の奥深くで張り巡らされる陰謀。
それがもたらす影響を案じるかのように、周りの木々はざわざわと風に揺れていた。
◇
ソラとシュウの二人はユカリ達と分かれて、再び墜落した宇宙船の中を探査していた。
目的は勿論、パーツの確保だ。
「……どう? 大丈夫そう?」
シュウが不安げにソラに声をかける。
一方でソラの方は、機械の中に体を潜り込ませて何やらごそごそと作業をしている。
シュウに声をかけられた後もしばらくはそのままだったが、やがて機械から抜け出してニヤリと笑ってこう言った。
「ばっちり! 無事ペダルはゲットできたぜ!」
そう言う彼の手には、宇宙船を動かす際に踏みつけるペダルが、むき出しの姿で握られていた。
「……って事は、あと必要なのは……操縦桿とスロットルか……」
シュウが考え込んで言う。
それを聞いてソラの方も事も無げに言い放つ。
「操縦桿もスロットルも破損とかは無いみたいだし、このまま二つとも外してさっさとエルフの村まで急ごうぜ」
それを聞いてシュウは浮かない顔をする。
その様子を見てソラの方も思わず尋ねた。
「……なんか浮かない顔だね。村と何かあったの……?」
それを聞いてシュウは大きくため息を吐きながら、ゆっくりと答えだした。
「……あそこの村はさ、エルフには寛容だけど他の種族には露骨に差別するんだよ……特に俺みたいな地球人にはさ……」
「……そんなひどいの……?」
「あぁそうさ、猿だの下等種族だのは挨拶みたいなもんさ。他には汚れた血、とかね。二十年前の戦争当時、生まれてもない俺に言われても知るかってーの」
忌々しいとでも言いたげな顔でシュウは口に出す。
ソラはそんな彼の表情を見て、思わず口を噤んだ。
そんな彼の様子にもお構いなしにシュウは続ける。
「……村で泥棒だの、火事だの、事件が起きるたびに『お前がやったんだろ』とか『村から出ていけ』ってさ、村の子供も大人もみ~んな『あいつには関わるな』って言ってたよ。だから俺、十歳くらいの時に村を出たんだ」
「……庇ってくれる人とかはいなかったの? 両親とか……」
「……地球人は俺一人だよ。親は……知らね……物心ついた時にはもういなかったからな……」
そう言うとシュウはソラの方から顔を背けて明後日の方向を見る。
ソラはそんな彼の行動を見て、この話題はこれから触れないほうがよさそうだ、と思った。
そこで急遽、話題を変えて場の空気を変えようと試みた。
「……そうなんだ……大変だね……ところでさ、ユカリ達はもうブルストムを村まで送り届けたのかな? さっさと合流して次の星に向かいたいな~」
その口調、声色は素人が見ても話題を変えたいのがばればれな程、白々しいものだった。
それを見てシュウは呆れるようにこう言った。
「……話の切り替え下手すぎ……まぁいいや……あんたの言う通りとっととこんな星おさらばと行こうぜ」
その言葉にソラも大げさなまでに同意して操縦桿とスロットルのパーツを外しに行く。
作業は滞りなく進み、無事に二人は「操縦桿」、「ペダル」、「スロットル」を入手した。
「そういえばユカリちゃん達の使ってる武器もあるんだろ? どれの事?」
「……ええと確か……あぁ、あったあった。この槍と盾がユカリの武器で、こっちのメイスがエレノーラの武器」
機体後方部分に取り残されていた二人の武器をソラが見つける。
そのままソラが持ち上げようとするがびくともしない。
その後も様々な方法で二人の武器を持ち上げようとするが、その試みは徒労に終わった。
肩で息をしながらソラは切り出した。
「……これ動かすのに何か良い手は無い?」
「月並みだけど二人掛かりで持っていくしかないんじゃない?」
そう答えるとシュウもソラが持ち上げようとした武器を一緒に持とうとする。
しかし、二人掛かりで持ち上げようとしても微動だにしない。
全く動かない武器を見てシュウはこう口に出した。
「……もうこれ置いてこうぜ」
「……いや……もうちょっと頑張ろうよ……」
その後も二人は悪戦苦闘しながら何とかユカリ達の武器を、機体の外に運び出すのだった。




