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26.連邦対帝国


 ソラ達が交流を深めている間に、先に墜落現場にたどり着いた者たちがいた。

 ブルストム達だ。

 彼らは無残な姿になった宇宙船を見て、警戒を強める。

 目標としているソラ達はもちろん、シイナを狙っている帝国とも戦いになる可能性があるためだ。

 特にメトロポリスで帝国の刺客であるスコーピオンと交戦したブルストムは他の二人よりも周囲に対する警戒心が高くなっていた。

 心臓の鼓動が速まり、木々が風に揺れる音でさえも敵が起こしたものに見えてしまう。

 アルフォンスとフリーレンの二人もそんなブルストムの様子に気が付いたのか、彼に気を遣わせまいと率先して前に出ている。


「……ブルストム、今しがた見てきたが帝国の連中も、殺害対象の子供もここにはまだ来ていない」


 フリーレンが口にする。

 ブルストムはその報告を聞いてもそうかと答えるだけだった。

 何か考え込んでいる様子のブルストムにアルフォンスが話しかける。


「……ブルストム……そう深刻に考えるなって。対象がこの近くにいるのは確かなんだ。俺らはのんびりここで待っていれば良い」


 アルフォンスの口調は場を和ませようと少しおどけた調子だった。

 しかし、ブルストムにとって今そのような口調で話しかけられる事は非常に腹立たしいものだった。

 重く、低い声で黙れと凄む。

 そんなブルストムの様子にアルフォンスもフリーレンも委縮してしまっている。

 重苦しい静寂が辺りを支配する。

 しかし、その静寂もそう長くは続かなかった。


 始まりは突然だった。

 ヒュルルと何かが風を切る音がする。

 音は遠くから山なりにこちらに向かって飛んでくるように聞こえた。

 ブルストム達が音に気が付くと同時にその正体に気づく。

 砲撃、この音は砲弾が空気を切り裂きながら地面目がけて落ちていく音だ。

 その事に気が付くと彼らは思いっきり地面を蹴り、倒れこみながらうつ伏せの態勢になる。

 直後、地面が爆発を起こし土埃が舞う。

 その向こうから緑の装甲に身を包んだ、鎧武者のような存在が現れる。

 ――――キャンサーだ。


「……ん? なんだお前ら。連邦の連中か? こんなところに何しに来たんだ? え?」


 キャンサーはブルストム達に脅しつけるように凄んで見せた。

 しかし、ブルストムはそのような脅しに屈することなく啖呵を切る。


「帝国の連中か……!! アルフォンス!! フリーレン!! 戦闘用意!!」


 そう叫ぶとブルストム達も立ち上がり、武器を取る。

 ブルストムは細く尖ったレイピア。

 アルフォンスは持ち手も含めると二メートルはあろうかという巨大な槌を。

 フリーレンは折り畳み式の巨大な銃を小脇に抱えるようにして展開する。


「……はっ!! 連邦のごみ共が……『黄道部隊(ゾディアック)』の一人であるこの俺に敵うものか!!」

 

 そう叫びキャンサーも腰に下げた二本の刀を引き抜く。

 そしてそのまま刀を構えて、ブルストム達の方へ突撃する。

 フリーレンは構えた銃を一発、そして二発を続けて発射する。

 小手調べに撃ったものだが、狙いは大変正確で放たれた弾丸は真っすぐキャンサーの胴を捉えた。

 しかし、銃弾はキャンサーの装甲に阻まれ地に落ちる。

 それを見てフリーレンが叫ぶ。


「―――くそ!! 二人とも!! 回避しろ!!」


 それを聞いて彼らはキャンサーの攻撃に当たらないよう距離を取る。

 三人とも地面を蹴り、遠ざかるようにして攻撃を回避して見せた。


 攻撃を避けられたキャンサー。

 しかし、彼の攻撃はとどまることを知らなかった。

 最初の突撃を回避された後もキャンサーは二本の刀を振るい、三人を追いつめていく。

 切り、払い、突く。

 情け容赦のない波状攻撃が三人を襲う。

 そして、キャンサーの一撃は強く、そして重いものだった。

 直撃をすれば間違いなく胴体が真っ二つになるだろう。

 そう思わせるだけの威力が、キャンサーの斬撃にはあった。

 それゆえに彼らは反撃に移ることができずに、地面を蹴って避ける以外できなかった。


(くそ! 何なんだこいつ!? めちゃくちゃ強えじゃねぇか!?)


 あまりの攻撃の威力と速度にアルフォンスは心中で毒づく。

 それに対してブルストムは冷静に状況を見定めていた。


(……攻撃の威力自体はすごいけど……足の速さ自体はそうでもない……!)


 そう思いながらブルストムは走り、キャンサーの背後に回り込む。

 そして思いっきり踏み込みながら持っていたレイピアで突き刺した。


「――はあぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 狙いは鎧の隙間、そこにレイピアを滑り込ませるように突き刺した。

 しかし、キャンサーはブルストムが叫ぶよりも早く彼の接近に気が付いた。

 姿勢を半歩ほどずらす。

 ブルストムの攻撃は見事に鎧に阻まれてしまった。

 失敗を感じ取るやいなや、彼は瞬時に後方へと退避する。

 援護のためフリーレンが弾丸を撃つ。

 弾丸は彼の片手に当たり、その衝撃でキャンサーは短い方の刀を落としてしまった。

 それに気を取られたのかブルストムはキャンサーに反撃されることなく退避に成功した。


(……装甲が硬いな……俺じゃ分が悪い……アルフォンスの攻撃ならどうだ……?)


 そう考えるとブルストムはアルフォンスの方を見やる。

 すると彼の方も視線をブルストムの方へと投げかけていた。

 すぐさまブルストムは動作だけでアルフォンスに攻撃を命じると、自身は先ほどと同じようにキャンサーの背後に回り込み、また先ほどのような突きを放とうとする。


 しかしキャンサーは先ほどよりも早くブルストムの方へと向き直る。

 そして長い方の刀を振るい、ブルストムを薙ぐように切った。

 とっさにブルストムはレイピアを縦に構え、攻撃を受けようとする。

 しかし刃の重さが違う。

 キャンサーの斬撃はブルストムのレイピアで受け止める事ができなかった。

 ボキンと刀身がへし折れて、ブルストム自身も攻撃の余波で吹き飛んだ。

 彼自身の胴が真っ二つになっていないのは、レイピアで受け止めた際に何とか攻撃をいなしたからだろうか。


(……だが……これで問題ない……!!)


 訓練兵の時代から使ってきた愛剣がへし折られようとも、そんな事は気にも留めずに彼はキャンサーの方を見る。


 するとそこにはキャンサーの背後に立ち、その大槌を彼の頭部に当てようと振りかぶるアルフォンスの姿があった。

 軌道は一直線に、キャンサーの頭部目がけてアルフォンスは大槌を振り下ろす。


(――――行け!!)


 ブルストムは心中でそう呟く。 

 しかしアルフォンスの一撃に対して、キャンサーが避けることはなかった。

 アルフォンスの一撃はキャンサーの頭部を直撃する。

 巨大な金属音が鳴り響き、三人は勝利を確信する。

 しかし、キャンサーはそんな一撃などまるで無かったかのように、無言で刀を横に振るう。

 そしてその一撃はそのままアルフォンスの胴体を真っ二つに切り落とす。


(((…………は?)))


 突然のことに三人の脳が停止する。

 切られたアルフォンスも自分の身に何が起こったのか理解できずに呆然としている。

 そんな事は気にも留めずにキャンサーは肩の砲をフリーレンの方に向ける。

 大きな音を立てて、二発の砲弾が飛んでいく。


「――やばっ!!」


 慌ててフリーレンは砲弾を避けようとする。

 しかし気づくのが一瞬遅かった。

 避けきれずに片方の砲弾がフリーレンに直撃する。

 砲弾が直撃したフリーレンは頭部が粉々に吹き飛び、残された胴体も一拍置いて地面に倒れ伏す。


 こうしてキャンサーの目の前に残されたのはブルストムただ一人になってしまった。


(…………何だ………これは……)


 現状に思わず呆然とするブルストム。

 そんな彼にキャンサーは再度砲撃を敢行する。

 恐怖で足がすくんでブルストムは動けなかった。

 それが幸いしたのか、砲撃はブルストムの顔のすぐ横を通り過ぎて行った。

 背後で爆発音が響く。

 しかし、そんな状況でもブルストムは恐怖で動くことができなかった。


「……ふんっ!! 運の良い奴だ…………良いだろう……貴様はこの剣で直接葬り去ってやる……」


 そんな彼を嘲るようにキャンサーは刀を向けてゆっくりと近づいてくる。

 そしてブルストムの前まで来るとそのまま刀を頭上に構え振り下ろした。


「――――終わりだ!」


 その光景はさながら切腹を命じられた武士とその介錯人の様であった。

 恐怖からブルストムは思わず目を閉じる。

 振り下ろされる刀はあと数瞬もすればブルストムの首を刎ねるだろう。

 しかしブルストムの首が落ちる事は無かった。


「――――――ぐはっ!!!?」


 燃え盛る炎に身を包み、イグニスの力を解放したソラ・リュウセイが

 文字通り流星の様にキャンサーを吹き飛ばした。




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