23.親睦会
「――あんた……一体……何なんだ……?」
目の前の少年に対してシュウは恐る恐る声をかける。
シュウの目の前に現れた少年は先ほどまでの異形の姿とは違い、ハンサムな整った顔立ちをしていた。
赤い髪を短くそろえ、瞳は青く宝石の様に輝いて見える。
背丈は百八十センチくらいだろうか、少なくともシュウよりも頭一つ分くらい高い。
服装は赤いベストを着て、外套として青いローブを羽織っていた。
シュウの問いかけに少年は答える。
「ん? あぁ俺はソラ・リュウセイっていうんだ。君は?」
「……お……俺はシュウ・サヴィスだ……この星で狩人をしてる」
「――OK、シュウだな。で、俺が何なのかだったな……そうだな……話すと長くなるんだが……」
「……悪いけど手短に頼むわ……俺……長い話は嫌いなんだ」
「まじか…………」
困惑しながらもソラはメトロポリスでの一件をシュウに話した。
シイナの事、帝国と連邦から逃げている事、惑星エルダーフに向けて逃げている途中に襲撃されここに墜落した事。
ソラの話を聞いてシュウは最初こそ驚愕の表情を浮かべていたが、次第に呆れ混じりの表情になっていき終いにはこう言い放った。
「…………馬鹿じゃねぇの?」
「やっぱりそう思う?」
「俺より馬鹿だわ、あんた等」
シュウの罵倒にソラは心当たりが大いにあったので否定することができなかった。
段々と小さくなっていくソラにシュウはほんの少し罪悪感を覚えたのか最後にこう言った。
「……まぁ幸いにもここがあんた等が目指してるっていう惑星エルダーフだ。何もねぇ星だけどな」
「――本当か!? そいつは良かった……未開の惑星でサバイバルとかにならなくて本当に良かった………」
安堵の表情を浮かべるソラにシュウはおずおずと提案した。
「…………あんた………行くところ無いなら家、来るか? 匿ってやってもいいぜ」
「本当に!? 君、良い奴だなぁ………」
「ま、その代わりと言っちゃなんだが都会の話、もっと聞かせてくんない? 俺、いつか都会に出てみたいって思ってたんだ」
「良いよ良いよ! そのくらい! いくらでも話すよ!」
はしゃぐソラをシュウは呆れ混じりに見る。
自分より一つか二つほどは年上だろう少年、銀河を二分する巨大勢力を敵に回した存在。
しかし、シュウの目に映る彼の姿はとてもそんな凶行に手を染めるような人間には見えなかった。
自分が世間知らずの田舎者だから騙されているのだろうか、そんな事を思いながらシュウはソラの話を聞いていた。
その途中でふと気になった事があったのでシュウは何の気もなしに尋ねてみた。
「そういえばあそこにいる守護者の女の子たち、意識失ってるみたいだけど大丈夫なの?」
「――――あ」
慌ててそちらに向かうソラをシュウは今日、何度目かもわからない呆れ混じりの視線をぶつけた。
◇
一方その頃、ソラの手によって吹き飛ばされた鎧武者だったが、彼は驚くべきことに生きていた。
彼らから見えなくなるほど遠く、エルダーフの森の奥深くで、彼は木陰に身を潜めながら傷を癒していた。
「――――くそ!! あいつ等………一体何なんだあの力は………」
怒り交じりに彼はぼやく。
そんな彼の背後に一人の男が近づいてきた。
黒いローブに身を包み、フードを目深に被った陰気な男。
顔は覆面で隠し、さらにその上から黒いフェイスベールまで被って顔を徹底的に隠す不審な男。
そのせいで顔が露わになっている部分は目元しか無く、その目元も鋭く冷たい威圧的な目が赤く光るため、どこか近寄りがたい雰囲気を纏っている。
男の衣服は頭のてっぺんから爪先まで黒で統一されており、赤い目が覗く目元以外は徹底的に素肌の露出を避けている。
そんな不審な男が鎧武者に、重く低く、威圧的な声でこう言った。
「――何をモタモタしている、キャンサー」
「――――ネ、ネクロ様! こ、これは気づかずに申し訳ありません!」
キャンサーと呼ばれた鎧武者は平身低頭で不審な男に謝罪する。
この不審な男はネクロ・ネビニラルという男でシイナを狙うムルシエラ銀河帝国の宰相を務める男である。
「最凶最悪の魔導士」とも呼ばれており、その悪名は銀河中に轟いていた。
「当初の予定通り、エルダーフに不時着させたんだから傷が癒えたらとっとと『鍵』を回収しろ」
陰気な男にしては珍しく怒気のこもった声で、威圧するように言い放つ。
その声でキャンサーは弱弱しく、怯えるように返答する。
「か、かしこまりました! このキャンサー、必ずや『鍵』を連れて帰ります!」
「………わかってるなら良いんだ………」
そう言い放つとネクロはスタスタと歩きながらその場を立ち去る。
そして立ち去る途中で、彼に聞こえない様にこう言い放った。
「………勝てないだろうなぁ………今のキャンサーじゃ………」
そのまま森の奥深くまでネクロは歩いていき、やがてその姿は見えなくなっていた。
◇
シュウに連れられ彼の家まで運び込まれたシイナ、ユカリ、エレノーラ。
しばらくすると意識を取り戻した彼女達は、その間起こったことをソラから聞いた。
そして今はシュウの家で晩御飯として森の動物の肉を串に通し、香辛料で味付けをし焚火で大胆に焼きあげた串肉を食べていた。
せっかくだからとソラ達は満天の星空の下、各々が離れすぎない程度に散らばって、気に入った場所でそれぞれ食事を楽しんでいた。
「はぁ~、美味しいですねぇ~」
肉を頬張ってエレノーラがご満悦の声を上げる。
「………かぶりつく感じが………良いわね………気に入ったわ」
ユカリもシュウが焼いた肉を最初こそおっかなびっくりと食べていたが、既に虜になってしまったようで既に五本目にかぶりついていた。
そしてもう片方の手には六本目の肉が握られていた。
表情はご満悦だ。
「………」
シイナも両手で串を持ち、小さな口で少しずつであったが肉にかぶりつく。
最初こそ驚いていたものの、今では慣れてきたのか食べるスピードが上がっていた。
表情が硬い彼女にしては珍しく、満面の笑みを浮かべながら食事を楽しんでいるようだった。
「それにしても美味いな、この肉。なぁシュウ、これって何の肉なんだ?」
ソラも両手に肉の刺さった串を持ち、ほおばりながらシュウに尋ねる。
それに対してシュウは得意げにこう返した。
「ボスケラトプスっていう群れで暮らす草食の動物がいるんだ。他の星から来た奴曰く、牛肉みたいな味だとよ」
「ふ~ん、確かに牛の………タンみたいな食感だな」
シュウの答えに相槌を打ってソラは返す。
実際に柔らかく、しかし弾力があり噛めば歯ごたえのある食感と、コクがありそれでいてサッと油が喉を通る感覚は牛の舌を食べた時の感覚に似ていた。
その返答にシュウは興味深そうに食いつく。
「………なぁ、やっぱり都会にはここじゃ食えないような美味いモンが沢山あるのかな?」
「まぁ、確かにここじゃ食えないような料理も他の星には、それこそ星の数ほどあるな」
「マジかよ!? あぁ~俺も行ってみてぇなぁ~他の星!!」
ソラの話を聞いて憧れが爆発したのか、歓喜の表情を通り越して悔しささえ滲み出るような表情でシュウは言った。
その言葉を聞いてソラは尋ねる。
「………なぁ一つ聞いていいか? なんでそんなに他の星に行きたいんだ?」
「決まってるだろ、そんなの!! 何も無いうえに窮屈で!! ダッサくて!! 陰湿な奴らばっかりな田舎よりも、煌びやかでオシャレな物が溢れてる都会の方に住みたいんだよ!! 俺は!!」
満面の笑みで力強くシュウは力説する。
しかし、それを聞くソラの表情は暗い。
離れて肉を頬張るユカリの方も、二人の会話が耳に入ったのか食事を中断し聞き入っていた。
「あ? もしかしてあんた、アレ? 都会なんて人ごみばっかりで息苦しいとか田舎の方がのんびりして暮らしやすいとか、そういうこと言うタイプ?」
ソラの表情が曇ったのを見て察したのか、シュウもソラに対して尋ねる。
それに対してソラは言葉に悩みながら絞り出すように答えた。
「………いや………まぁ………それもあるけどさ………いや、そうじゃなくて………この惑星にだってここにしか無い良いところいっぱいあるんだろ? だったらさ、無理に都会に出ていくよりもこのままここで暮らすのも悪くないんじゃない?」
「馬~鹿。良いか? そういう『ここにしか無い良いところ』って奴はなぁ、ここに適応できた奴しか味わえないんだよ。俺みたいなここに適応できなかった奴にとっちゃ、ここは良いところなんてな~んにもない、ただのド田舎さ」
吐き捨てるようにしてシュウは言った。
その口調は軽いものだったが、表情はまるで親の仇でも見たかのように恐ろしく、冷たいものだった。
その口調と表情のギャップにソラは気圧される。
離れて聞いていたユカリも、そちらの方には顔を向けてはいなかったが神妙な表情で二人の話を聞いていた。
惑星エルダーフに来て初めての食事はその後も和やかに進行し、夜も更けて自然とお開きになっていた。
シュウの家の中で女性陣は一階で、男性陣は二階で夜を過ごした。
日中の一件で予想以上に疲れが溜まっていたのか全員、布団に入ると泥の様に眠りについた。




