22.新たなる出会い
深い深い森の中、鬱蒼と茂る樹木が高くそびえ立っている。
ここ惑星エルダーフは惑星全体が巨大な森林で覆われている星である。
そんな森の片隅で一人の少年が一心不乱に金属の塊に向き合っていた。
「…………よし…………これで…………どうだ…………?」
年齢は十五歳程、種族は地球人。
黒い髪に浅黒く焼けた褐色の肌、その顔にある緑色の瞳は目の前の機械に釘付けになっている。
顔の下半分を覆うように覆面をしており、肩にはケープをまとっていた。
服装は柔らかい布地で出来た紺色のシャツに茶色のズボンを着用しており、ズボンの方は脚絆が巻き付けられており、膝より上が少し膨らんでいた。
靴は丈夫な革製のブーツになっており、険しい道を歩く時でも負担にならないようになっていた。
手には茶色の手袋をしていて、肘から先には手甲を装着していた。
彼が向き合っている金属の塊は古びた小型の宇宙船だった。
大元は貨物運送用の機体で、昔エルダーフを訪れた旅人が残していったものだった。
彼はこの宇宙船を修理して宇宙に旅立ちたいと願っていた。
そんな少年の試みは失敗した。
宇宙船の残骸は少年の操作を受け付けず、彼がどんな操作を行っても微動だにしなかった。
「…………また駄目か…………今度は上手くいくかと思ったんだけどな…………」
少年は目に見えて落胆していた。
覆面をしていてもその落胆ぶりは容易に見て取れた。
「…………ん? なんだ……あれ?」
少年が視線の先には、燃え盛る星のような物体が空の向こうから飛んでくる様子が見えた。
その物体は真っすぐと森の中へと落下していった。
そして落下した先から巨大な爆発音が振動を伴って響いた。
「…………やべぇじゃん…………火事になるんじゃねえの……あれ…………」
落下地点からは巨大な火柱が黒煙を伴って立ち上がっていた。
少年は心配そうにその光景を見つめている。
「……よし、見に行ってみるか…………行くぞ!! ラプター!!」
少年が呼びかけるとすぐ近くの小屋から羽毛を備えた前足をはためかせ、二本の後ろ足で軽快に地面を走る恐竜のような動物が現れた。
「クエェェェェ!!!!」
その背には鞍がついており、そこから垂れ下がった鐙に足を掛け少年と恐竜は真っすぐ墜落現場まで駆け出して行った。
◇
少年が墜落現場に着くとそこには巨大なクレーターと、宇宙船の残骸が散らばっていた。
辺り一帯から火の燃えるパチパチという音と、焦げ臭い嫌な匂いを少年は感じた。
「…………ひっどいな…………これ…………」
現場の惨状に少年は眉を顰める。
それでも何か使えるものはないかと、少年は残骸を漁りだす。
そして宇宙船の中にあるものを見つけた。
「…………これ…………人だよな…………やばくね…………?」
少年の視線の先には三人の少女が意識を失って倒れていた。
一人は長い黒い髪をポニーテールにしており、容貌は白い肌がまるで陶磁器の様にきらめいて見える美人の少女だった。
そしてもう一人は長くウェーブのかかった金髪をした少女で、黒髪の少女が綺麗な顔立ちというならこちらは愛嬌のある可愛らしい顔立ちをしていた。
この二人は背丈からして自分と同じくらいの年齢だろうかと少年は思った。
残骸の中が薄暗く、よくは見えなかったが白を基調とした軍服を着ているのが少年の目に留まった。
そして最後の一人は雪の様に白い肌と髪色で、赤いキャミソールを身にまとった可愛らしい少女だった。
彼女だけは他の二人よりも背が低く、容姿も相まって他の二人よりも幼く見えた。
目の前の少女達を見て少年は急いで宇宙船の残骸から引きずり出す。
そして安全と思われる場所まで離れた場所に運んだ。
そして少年は今一度、少女たちの姿を見る。
「……守護者……?」
少年はこの銀河で治安維持を行う組織の名を口にする。
少年が世話になった事は無い。
それでも守護者という組織に所属するものがどのような装いをしているのかは一般常識として知っていた。
そしてその一般常識という物差しで推し測れば目の前の少女達、特に少年と同年代の二人は間違いなく守護者の制服を身に纏っていた。
「……何だってこんなド田舎に…………」
少年は考える。
しかし日頃、頭というものを使わずに暮らしてきた少年にとって、今この状況をすんなり説明できるような答えは出せなかった。
そこで少年はもう一度宇宙船の残骸の中に入る。
今ある情報で足りないなら、もっと多くの情報から考えれば良い。
少年はそう考えたのだ。
足元に注意を向けながら少年は慎重に残骸を調べる。
どうやらこの宇宙船は人を運ぶための旅客船だという事までは、少年の脳でも理解できた。
しかし少年の頭を更なる疑問が襲う。
(………いくら何でも三人は少なすぎねぇか………?)
少年の目に映る残骸はそれなりに大きい。
長さで言えば二十メートルくらいに思えた。
しかしいくら何でもたった三人の為に、この大きさの宇宙船が用意されるだろうか。
たまたま乗り合わせた人数が少なかった、で済ませる事が少年にはできなかった。
ふと少年は宇宙船の前方、コックピットの方を見る。
ドアが開いていて、中の様子が伺えた。
見た限りではコックピットには誰もいなかった。
少年はコックピットの中を調べる。
計器類はほとんど壊れていて何も表示されていない。
操縦桿やレバー、各種スイッチも反応が無い。
期待外れか、と少年が立ち去ろうとした時あるものが目に留まった。
(………穴……?)
操縦席があるはずの場所に丸々すっぽ抜けたかのように四角い穴が開いていた。
そして本来ならば付いていて然るべき操縦席はきれいさっぱり無くなっていた。
(………緊急脱出か……?)
少年の頭によぎった可能性は緊急脱出。
パイロットがこれ以上宇宙船の操縦が不可能だと判断して、機内から脱出した。
操縦者を失った宇宙船はそのままこの星の重力に従って真っ逆さまに落下する。
ここまで調べた情報でこの宇宙船が辿った末路については少年も容易に想像できた。
それでも少年の疑問は晴れない。
(………撃墜……? 誰が……何の為に……?)
いくつもの疑問が少年の脳内を埋め尽くす。
それらがあふれて少年の頭は今にも爆発しそうになっていた。
頭を掻きむしり、いくら考えても出ない答えを追い求め続ける。
そうしていく内に、少年の頭は限界を迎え先ほどまでとは打って変わって脳内が真っ白になっていく。
(………あ~……駄目だ……考えるだけ無駄だわ……これ……)
思考を放棄して少年は残骸の外に出る。
そういえばあの女の子たちはどうなったかな、と少年がそちらを見ようとしたその瞬間だった。
ドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「――な、なんだ!?」
突如爆発音が響く。
少年は思わずそちらを見る。
「…………こんな所にいたのか。探したぞ…………」
そこにいたのは深緑色の装甲で全身を覆った、時代劇に出てくるような鎧武者のような存在だった。
装甲の各所は金色で縁取られ、頭部は蟹の鋏が二本の角の様になった意匠をしている。
目と思われる部分は、黒いスリットが走り、その中央に赤く光る点が一つ点灯していた。
腰には二本の刀剣が携えられており、一本は持ち手の部分も含めて一メートルほどの大きさをした太刀で、もう一本はそれの半分ほどの大きさの脇差であった。
肩の部分には砲塔が見え、そこから煙が上っている。
ここから砲撃でもするのだろうか、今の爆発もそれによるものだろうか。
思わず少年はそう思った。
目の前の鎧武者から放たれる威容に少年は唾を飲み込む。
視線は一点に集中し、一挙手一投足を逃すまいと必死に眼前の存在を観察する。
「…………あ、あんた………一体誰なんだ……何が目的なんだ!?」
「……お前に用は無い。巻き込まれたくなければ消えろ、小僧」
目の前の鎧武者は少年の質問などお構いなしに言い放つ。
少年はその言葉に従おうかとも思ったが、恐怖からか足が動かない。
腰が抜け、体を震わすしかできない状態で少年は、心の中で助けを求める。
そんな事は気にも留めずに鎧武者は先ほど船の残骸から遠ざけた少女の方へと歩みを進める。
少年が固唾を呑んで見守っていた、その時であった。
上空から燃え盛る炎を身に纏った存在が、鎧武者目がけ恐ろしいほどの速度で飛来した。
「――――ぐおっっ!?」
鎧武者は激突した存在に吹き飛ばされ、遥か遠くまで転がっていく。
少年は突如として現れたこの存在を凝視した。
背丈は百八十くらい、灰色の髪に焼け焦げたような褐色の肌。
額から上に向かって二本の角が伸びており、背中に一対の翼と腰には一本の尻尾。
四肢は中ほどから燃え盛る炎を纏って輝いており、見方を変えれば輝く炎が四肢の形に押し込められているようにも見える。
体には刺青の様に赤く発行するラインが走り、瞳も燃え盛る炎の様に赤く染まっていた。
(――――何なんだよ……あれ……)
少年が困惑しながら見ていると吹き飛ばされた鎧武者が戻ってくる。
鎧武者は肩の砲塔から砲撃を、突如飛来した怪人に放つ。
怪人は全く微動だにせずゆっくりと前に進む。
鎧武者も負けじと砲撃しながら後退するが、怪人の歩みを止めることはできなかった。
歩きながら怪人は右腕を胸の前まで上げる。
すると右腕に炎が集まり、その輝きが増していく。
最早、直接見るのも辛くなるほど右腕を眩しく輝かせると、怪人はその右腕で鎧武者を思いっきり殴りつける。
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!?」
叫び声を上げながら鎧武者は真っすぐと吹き飛ばされ、ついには見えなくなってしまった。
少年は怪人を目で追う。
怪人の方も少年の方に気が付くと視線を少年の方に向けた。
気づかれた、と少年が思った時には遅く、怪人は少年の方に近づいてくる。
腰が抜けた状態で何とか後ろに下がろうと少年がもがいている中で、目の前まで来た怪人は立ち止まって目を閉じた。
すると怪人はたちどころに少年と同じ地球人の少年に姿を変えた。
「……へ…………?」
少年が呆けていると目の前の彼は声をかける。
「よう、あんた。大丈夫かい?」
これが少年シュウ・サヴィスと、ソラ・リュウセイの出会いだった。




