21.旅立ち
ソラ達は惑星メトロポリスにある第四発着場に来ていた。
ここは空港のように幾つもの宇宙船が集まり、人や物を運んで惑星同士を結ぶ場所である。
ソラ達が到着すると同時に一機の宇宙船が滑走路を加速し、音すらも置き去りにするような速度で飛び出していく。
その光景を横目に四人は、発着場の建物へと入っていく。
守護者が待ち伏せしているかもしれないと警戒しながら進むが、幸いなことにここにはまだ追手の影は迫っていないようだった。
ソラ達四人はエントランスにある四人掛けの椅子に座り一息ついた。
「…………ふぅ、まだ追手は来てないみたいだな………」
「………ですねぇ………」
「………気を抜かないで、次の便まであと四十五分。連邦がその気になれば発射そのものすら止められるわよ」
「まぁそれはそうなんだけどさ、実際そうなったら………やっぱりさっき言ったみたいに?」
「他に手なんて無いでしょ。今の私たちには何もかもが足りないんだから………手段なんて選んでられないわ」
「いやまぁ、それはわかるんだけどさ………それにしたってもうちょい穏便にいけないの?」
「………腕っぷし以外に今の私たちが使える手札は無いわ。諦めなさい」
ソラとユカリは現状を確認しあう。
そもそも彼らの言う計画自体は、至極単純であった。
惑星エルダーフへ向かう宇宙船に乗り込み、もし連邦の手で運行が止められそうならばソラの「イグニス」の力を解放し、そのまま宇宙船を奪いエルダーフに向かう。
ユカリは最初から宇宙船を奪うべきと主張したが、ソラとエレノーラが必死になだめて今の計画に修正したため、ソラは計画を始める前から気疲れしていた。
(………守護者はいない。今のところは上手くいってる。なのに何だ? この不安………)
発着場に着いてからソラの胸にはざわめきのような、言いようのない、得体の知れない不安がうごめいていた。
それが心臓の表面をなぞるような、言葉にできない不快感が彼を包んでいた。
(………やっぱり宇宙船を乗っ取るっていう計画が問題なのか………? どうする? 今からでも変更すべきか………?)
ソラの胸中を幾つもの不安が通り過ぎる。
あれだろうか、いやこれが原因だ、等と一人で色々と考えを巡らせるがどうにも考えがまとまらない。
思い切ってユカリやエレノーラに相談してみようか、そうソラが思い立った瞬間であった。
「守護者だ‼ この場にいる全員!! 指示に従ってもらう‼」
突如として発着場エントランスに大きな声が響く。
その声はソラ達が今、最も聞きたくないものであった。
(………守護者‼)
エントランスに入ってきた守護者は若いエルフ、ドワーフ、鬼人の三人組だった。
彼らはユカリと同じような白い軍服を着ている。
そのまま彼らは入口から近い順に一人ひとり顔を確認していく。
その様子を横目にソラはユカリの方を見る。
ユカリはシイナを自身の背後に下がらせ、自身も柱に隠れる。
ソラも隠れようと周囲を見渡す。
その瞬間、後ろから大きな声をかけられる。
「おい!! そこの!! コソコソ何をしてる!!」
(………やべっ!!)
ソラの元に森人の守護者の隊員がズカズカと近づいてくる。
近づいてくるなり彼はソラのことを頭のてっぺんから爪先までなめるように見た。
「おい、あんた。身分証明ができる物は持ってるか?」
「………えぇはい。魔導士証なら………」
そう言ってソラは守護者隊員に小さなプラスチックのような外見のカードを手渡した。
受け取った守護者隊員は怪訝そうな顔でそれを受け取る。
そして自分が受け取ったものが何なのか理解したのか、驚いたような顔をして何度も手に持ったカードとソラを見比べてこう言った。
「………あ………あんた………政府公認の魔導士なのか!? すげぇ………初めて会った………!!」
「………えぇはい。魔導士やらせてもらってます………」
「………すいません………握手………してもらっていいですか?」
「………えぇはい。喜んで………」
そう言ってソラが握手をすると守護者の男は嬉しそうな顔をして再び仲間と共にエントランスにいる人達の顔を一人ずつ確認していく。
ソラが握手をした隊員は仲間から何やってんだと小突かれていたが、よほど嬉しかったのか本人は締まりのないにやけた表情でそれを食らっていた。
(………助かった………ユカリ達はどうしてるかな?)
そう思いながら先ほどまでユカリ達がいた場所を見るが、彼女たちの姿は無かった。
先ほどの様に守護者の注意を引かないように辺りを見渡すが、少なくともこのエントランスにはユカリ達三人はいないようだった。
ユカリ達が身を隠したと分かり、ソラは安堵の一息を吐く。
そして守護者達もエントランスにいる人達を確認し終えたのか、そのまま搭乗口へ続く通路の方へと足を進める。
彼らがいなくなると同時にユカリ達を探そうとソラは立ち上がるが、そこに思わぬ人物が現れる。
「………こんなに短い間にこうも顔を会わせるとはな」
「…………ブルストム…………!!」
ソラの前に現れたブルストムは小さく手招きをしてソラを建物の外に連れ出す。
辺りに誰もいないことを確認すると彼はこう切り出した。
「…………ソラ…………悪いことは言わない。あの子供からは手を引け」
「気持ちはありがたいけど…………それは無理かな…………」
「何故だ? あの子供とお前は何も関係ないはずだろう」
「まぁそうなんだけどさ…………シイナを見てるとなんて言うか…………ほっとけないんだよね」
「…………それが理由か? それだけで犯罪者として追われるんだぞ? もっとよく考えたらどうだ」
ブルストムは静かで重苦しく、力の入った声でソラに語り掛ける。
その声からソラは彼の思いを汲み取った。
そのうえでソラはブルストムに対して告げる。
「何回も考えたんだけどさ…………たとえ犯罪者として追われても俺は彼女の味方でありたい。そう思ったから………だから俺はシイナを守る。例え誰が相手でも」
「…………馬鹿だな、お前は。そんな事は他人に任せておけば良いじゃないか。わざわざ自分で苦労までしてご苦労なこった」
「まぁ自分でもちょっとおかしいかなとは思うけどさ…………いつか誰かが自分の代わりに立ち上がるかもしれない。それだったら…………今、自分が、その誰かになっても良いんじゃないかって。そう思ったんだ」
その言葉にブルストムは黙り込む。
ソラもそれに釣られて黙り込んでいると建物の中からガラスの割れるような音と警報が鳴り響く。
ソラとブルストムが何事かとエントランスに戻ると、そこには地面に倒れた三人の守護者と、武器を構えて立つユカリ達の姿があった。
周りにいる一般の乗客たちは怯えて遠巻きにユカリ達を見ている。
ソラは慌ててユカリ達に近づくと彼女は開口一番こう言い放った。
「ソラ!! 守護者にばれたわ!! すぐに宇宙船を奪って逃げるわよ!!」
「いや、そりゃこんな事したらばれるだろう…………いくら何でも気ぃ短すぎない?」
ユカリの言葉に呆れ混じりにソラは返す。
するとそばまで着いてきたブルストムが間に割って入る。
彼に対してユカリは冷たく言い放つ。
「ブルストム、言ったでしょう…………邪魔しないで」
「それはできない相談だ、ユカリ。 第一、この惑星から逃げて何になる。 連邦は宇宙の果てまでお前たちを追い続ける。 逃げ場なんてどこにも無いんだ、諦めろ」
「だったら少し痛い目に遭ってもらうわ」
そう言うとユカリはブルストムの顔面に思いっきり右の拳を打ち込む。
弾丸のような速度で放たれた拳はブルストムの頬を捉え、そのまま丸めた紙屑の様にクシャクシャとなった顔面を晒してブルストムは弧を描くように飛びながら倒れた。
「行くわよ!! 早く!!」
そう言うとユカリはシイナの手を引いて駆け出す。エレノーラもブルストムにごめんなさいと一声かけてから走り出す。
「あぁもう!! ブルストム!! 俺たちは行くからな!! また今度な!!」
そう言うとソラはユカリ達の後を追って走り出した。
◇
「――――何なんだね!? 君たちは!?」
ユカリ達の後を追うとエルダーフへ向かう宇宙船が滑走路に入って出発の準備をしている所だった。
そのままユカリはドアをこじ開けて中に入ると、乗務員達が突然の乱入者に悲鳴を上げた。
ユカリはそれを気にも留めずに操縦席に向かって一目散に駆けていく。
ソラ達が追い付くとそこはユカリがこの宇宙船のパイロットと思しき男性を脅迫している場面だった。
男性はソラ達に対して恐怖と困惑が入り混じった疑問をぶつける。
「えぇと…………元守護者と魔導士の…………ハイジャック犯?」
「宇宙船の乗っ取りってハイジャックなの?」
「知らないよ、そんなの…………じゃあ…………スペースジャック犯?」
「だから何なんだね!? 君たちは!?」
ソラの回答にユカリが質問を加える。
ソラもその問いに答えてしまった結果、話が脱線してしまった。
パイロットの男性が再度恐怖と困惑の叫びを上げると、不意に外からサイレンの音が聞こえてくる。
窓の外を見ると武装した守護者の隊員が何十人とこちらを取り囲んでいる。
「犯人に告ぐ!! 直ちに乗務員を解放して投降せよ!! 繰り返す!! 直ちに乗務員を解放して投降せよ!!」
守護者の中でも指揮官と思しき隊員が拡声器を持って叫ぶ。
他の隊員たちは銃を構えて、その発射口をこちらに向けていた。
「…………って言ってますけど、どうします?」
「乗務員の解放だけは乗りましょう。後は聞かなくて良いわ」
そう言うとユカリはパイロットの男性を引っ掴んでコックピットの外に連れていく。
そして入ってきた場所から男性を放り出した。
そのままユカリは機内の乗務員を次々に引っ掴んでは外に連れ出していく。
「…………おっそろしいな、あれ」
「…………ユカリちゃん、もうちょっと穏便な方法は取れないんでしょうか…………」
ソラとエレノーラが唖然としているとユカリが戻ってくる。
「乗務員は全員解放してドアも閉めたわ。ソラ、いつでも出せるように準備して」
「はいはい…………もうどうにでもなれ…………」
ソラがぼやきながらも各種機器を操作していく。
その姿を見ながらユカリはエレノーラに対して声をかける。
「エレノーラ、本当に着いてくるの?私はともかくあなたはまだ巻き込まれただけって事にできるんじゃない?」
「…………いや無理でしょう…………ここまで来て…………それだったら私もこのままついて行きますよ…………」
ユカリの問いかけに対してエレノーラは呆れ混じりに返す。
そうしているとソラがその場にいる全員に声をかけた。
「チェックリスト…………OK…………準備完了。皆、椅子に座ってシートベルト締めて」
その声にユカリ達は客室に出て椅子に座りシートベルトを締める。
やがて宇宙船がゆっくりと動き始めた。
「犯人に告ぐ!! 大至急!! 速やかに!! 投稿しなさい!! 繰り返す!! 大至急!! 速やかに!!」
そのまま宇宙船は守護者の制止を無視して滑走路に出る。
やがてエンジンの音が大きくなっていき、機体は前に走り出す。
猛スピードで宇宙船は走り出し、機体後方から青い炎が噴き出す。
そしてそのまま猛スピードで飛び上がった機体は白い煙を後に残しながら大気圏を飛び出していった。




