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19.決着


 エレノーラとソラは目を合わせ、ほぼ同時に横に跳ぶ。

 黒球は二人が立っていた場所を通り過ぎ、そのまま背後にあった壁の方に飛んでいく。

 そしてそこにはたった今、壁を崩して現れたスコーピオンが立っていた。


「――!!」


 ネクロは動揺する。表情は伺い知ることはできないが、その目は一点に集中していた。

 思わず制止の言葉を叫ぼうとする。だが間に合わない。

 言葉が声にならずに、ただ口をパクパクと動かすだけになってしまう。


 その時、スコーピオンは何が起こったのか理解できなかった。

 自分と同じ武器を持っている守護者(ガーディアン)の少女と戦っていたことだけは覚えている。

 互いの武器を打ち合い、行き止まりまで追い詰めた。

 とどめを刺すため槍を構え、突進した。

 回避する場所は無い、たとえ盾で防御しようとも容易に奥の壁まで押し込める。

 そういった算段だった。

 しかし、この局面で彼女は驚くべき行動に出た。

 盾を投げ捨て、そのまま槍を構えこちらに走ってきた。

 相打ち狙いかと思った矢先、彼女は槍の先端を走りながら地面に突き刺した。

 そしてその反動を活かし、棒高跳びの要領で空高く跳び上がった。

 そして標的を失ったスコーピオンは、まっすぐと壁を突き崩しその向こうに飛び出した。


 ネクロの放った破壊(デストラクション)はまっすぐとスコーピオンに直撃し、彼の体に一つ、大きな穴を開けた。

 スコーピオンは力なく槍と盾を落とす。 

 そして痛みに悶え苦しむように穴の辺りを手で庇う。

 しかし、もう遅すぎた。

 穴の周りにはひびが広がり、そこから紫色の光が漏れ出す。

 徐々に漏れ出す光が増えていく中、彼は何かを覚悟したかのように落とした槍を右手で拾った。

 そして振り返る。そこにはユカリがいた。

 彼はユカリを槍で差すと、そのままヨタヨタと一歩ずつ歩いていく。


「……まだ......終わりじゃ......ない......!!」


 スコーピオンは最早、意地と執念のみで動いていた。

 せめて最後に一人だけでも道連れにしようとしていた。

 しかし現実は無常であった。

 一歩、二歩と近づくがそこで歩みは止まり槍を落としてしまう。

 それに続く様に体が前に倒れる。


「……まだ......終わり……じゃな……い……まだ......負けて……」


 最後まで言い終わる前に彼の体から紫色の閃光が眩しいくらいにあふれ出す。

 そしてあふれ出る光が一瞬、収まったかと思うとそのまま彼の体は凄まじい音を立てて爆発した。

 爆風で砂利や石が飛散する。

 煙もまるでキノコのように上空へと昇っていく。

 あまりの衝撃にその場にいたユカリ達四人は、身を伏せて爆発から身を守るのに精一杯だった。


                  ◇


「――やったか!?」


 ソラは思わずそう口に出していた。煙は未だにスコーピオンが倒れた辺りに立ち込めていた。

 ネクロの魔法をスコーピオンに当てて倒す、エレノーラが言うにはこれはユカリの作戦らしかった。

 このままではジリ貧に陥る、そう考えてこの策に乗ったは良かったが、まさか一度で成功するとは彼自身予想だにしていなかった。


「......ゲホッ!! ゲホッ!!」


「エレノーラちゃん!! 大丈夫!?」


 衝撃で倒れた体を咳込みながらエレノーラは起こす。

 そんな彼女にソラは駆け寄ってその身を案じる。


「――二人とも!! 無事!?」


「おぉ! ユカリ! お前も無事だったか!」


 立ち上る煙を迂回するように、ユカリがその場に駆け付ける。

 それを見てエレノーラが言葉を続ける。


「シイナちゃんはこの先に匿っています! 早く向かいましょう!」


「――待て」


 その場を後にしようとする三人の前に、ネクロが立ちふさがる。

 それを見て三人は臨戦態勢になる。


「......お前ら......自分が何を敵に回しているのか......分かっているのか?」


「もちろん! 帝国と連邦だろ?」


 ネクロの問いかけにソラが答える。

 それを聞いてネクロは苛ついたように続けた。


「......それが......どれだけ無謀か......考えなくてもわかるだろう......何故そうまでしてあの子供を......」


「そんなの、助けたいから助けるのよ」


 ネクロの話が終わる前にユカリが答える。

 それを聞いてネクロは黙り込んで何かを考えこんだ。


「何もしないならどいて。二人とも、こんな奴ほっといてさっさと行きましょう」


「......」


 黙り込むネクロを横目に三人は走り去る。

 一方でネクロの方は何かを考えこんでいる様子で、三人を素通りさせる。

 ソラはネクロの横を通り過ぎてから一度だけ、チラリと振り返って見たがそれでもネクロが後を追ってくる様子はなかった。

 そのまま前を向きなおすとソラは走り去る。

 後に残されたネクロは三人が走り去った方を見ながら一言だけ呟いた。


「......助けたいから助ける......ね......」


                  ◇


 ネクロの元から去っていった三人は、エレノーラがシイナを匿っているという場所まで急ぎながら向かっていた。


「エレノーラ、目的地まであとどれくらい?」


 ユカリが走りながら尋ねる。

 それに対してエレノーラも走りながら答えた。


「このまま走っていけばもう五分もかかりません! あっ、次の角を右です!」


 そのまま曲がり角を進み、今度はソラが二人に対して質問をする。


「二人とも、一つ聞いていいか? シイナを連邦にも帝国にも渡さないって言うのには賛成だけど、何か具体的な展望とかはあるの?」


 ソラもいつになく真剣な調子で尋ねる。

 ユカリもエレノーラもその語気に圧されたのか、言葉を継げずに黙り込む。

 三人とも走る事こそ止めないが、沈黙が続き重苦しい空気になっていた。

 その空気に耐えかねてか、ソラが二人の顔を伺いながらといった感じで切り出した。 


「......この銀河で連邦にも帝国にも属さない勢力っていうのは存在しない。せめてどっちかとは味方になっとかないと......」


「なら、まずは連邦と交渉ね。帝国よりは話し合いの余地があるわ」


 ユカリが答える。

 それに対してエレノーラは不安そうに、ソラは苦虫を嚙み潰したような表情で返答する。


「......大丈夫でしょうか......」


「......連邦がこういう時、味方になってくれるイメージなんて無いけどな......」


 それを受けてユカリもばつが悪そうな表情で返す。


「......私だって、連邦がすんなりとシイナ殺害をやめてくれるなんて思ってないわよ......でも帝国に味方になってくれる当てなんて無いんだからしょうがないじゃない......」


 三人はそのまま気まずそうに走り続ける。

 そうこうしている間に、三人はシイナが匿われている建物まで到着した。

 建物が見えるやいなや、エレノーラが二人に告げる。


「あの教会です! あそこにシイナちゃんが!」


 エレノーラが指さす方向には汚れ一つない白い外壁に、赤い煉瓦の屋根が備わった建物があった。

 建物は直方体を二つ、凸の形に組み合わせたような形状をしており、赤い煉瓦の屋根が三角になるように付いていた。

 真ん中の飛び出した箇所には四方のどこからでも見えるように大きな時計が付いており、その上の屋根には十字架が一つクリスマスツリーの上に付く星のようにそびえ立っていた。

 教会の周りは石造りの遊歩道が広がっており、道の横には花壇が並んでいた。


 教会の周りは不気味なほど静まり返っており、ソラはその静けさに胸騒ぎがしてならなかった。

 しかし、その不安を口に出すこともできずに教会の前まで来てしまった。


「この中です! この中にシイナちゃんが!」


 そう言ってエレノーラが扉を開ける。

 中には赤い絨毯が敷かれていて、見上げた先にステンドグラスが煌めいていた。

 椅子が左右に等間隔で並んでいて、真ん中を通る道の先にシイナはいた。


「シイナ‼ 無事だった!?」


 その姿を見て、ユカリは駆け寄る。

 ソラも後を追うようにシイナの元へ駆け寄った。

 幸いにも怪我の類は一切無く、その姿を見てソラは安堵の一息を吐く。


「良かった......怪我とかは無くて......具合とかは大丈夫?」


 ユカリがしきりにシイナに尋ねる。

 その問いかけにシイナはこくこくと首を縦に振ってうなずいている。



「……そしたら……今度は連邦との交渉に……」


 ソラが言い終わる前に、その場に近づいてくる者がいた。

 その気配を感じ、ソラ達はそちらに目をやる。

 そこにはソラ達も見知った顔――――ブルストムがいた。


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