01.始まり
惑星メトロポリス。天をも貫く摩天楼が立ち並び、その間を空を飛ぶ車が飛び交う大都会。
惑星全域が高度に都市化され、銀河中の人や金、物が集まる政治と経済の中心地。
増え続ける住民たち全員が暮らせる住居として一軒家よりもマンションを。
大勢の人々が買い物に来ても販売できるように大型のショッピングモールを。
これらの施設をより少ない土地で賄うために、高いビルを建築してその中で人々が暮らせるようにこの惑星は発展してきた。
そしてこれらのビルとビルを、外に出ることなく行き来できるように連絡橋が結び、ビルにいながら外の空気を感じられるように展望台が敷設されるようになった。
するとどこのビルにもこれらの連絡橋や展望台が付けられ、それらが地上に降り注ぐ日光を遮るようになった。
それを避ける為、資産家たちや権力者の手でより高いビルが幾つも建設され、それらを結ぶ連絡橋や展望台が付けられ、またそれを避けるためにさらに高いビルが建てられ――というのを繰り返してきた結果、ビルが柱。連絡橋や展望台が床の役割を果たすようにして、惑星全体がまるでマトリョーシカ人形や玉ねぎのように幾つもの階層で覆われるような構造になっていった。
その中でも最も地上に近い『最下層区』は上層の建築物に日光を遮られ昼でも真夜中のように暗くなっていた。人々はそんな暗闇の中を携帯ランプや原始的なかがり火を灯すことで生活していた。
そんな果てしなく続く暗闇の中をオレンジ色に煌めく火球が流れ星のように通り過ぎた。
火球は怪物に当たった。大人一人分の高さはある巨大な猪のような頭部に人型の姿をした怪物だ。怪物は火球が当たると呻くように鳴いてその場に倒れ伏した。
倒れた怪物の前に一人の少女が座り込んでいる。
年齢は15歳。腰まで届く長い黒髪をポニーテールにして、赤い刺繍で縁取られた白い軍服を着ている。スカートやブーツ、手袋も軍服と同じように白地に赤い刺繍が施されており、肩や胸元には金の飾りが付いている。
その統一された服装は厳かとでもいうのだろうか、着用している者の生真面目さ、清廉さというものを見る者に与えていた。
容姿については真珠のように煌めく色白の肌、黒曜石のような輝きを放つ黒く大きな瞳。
整った鼻筋に、瑞々しく光る唇。
目元には泣きぼくろがありそれがまた独特の色気を感じさせ、総じて美しく整った容姿をしていた。
そんな少女の美しい容姿がこの日は少し崩れていた。
なぜなら目を点にして、口をポカンと開いた、呆然という言葉がそのまま当てはまる表情をしていたからだ。
彼女はつい先ほどまで、この暗闇の中たった一人で、自分の頭よりも高い体躯を持つ人型猪の怪物と対峙していたのだった。
そんな怪物が突如飛んできた火球によって倒れ伏したのだ。状況の理解が追い付かずに呆然とするのも無理のないことであろう。
あまりにも呆然とした為か、足を折り曲げて先端が太ももよりも外側に位置した、ぺたんと座り込んだ体制になっている。
先ほどまで両手で持っていた少女の身の丈ほどもある長剣も、地面に片手だけが持ち手と繋がった状態で転がるように倒れていた。
少女が呆けたまま座り込んでいると、一人の少年が近づいてきた。
見た目からは年齢は少女の1つか2つほど上だろうか。
燃えるような赤い髪を短く揃えていて、目の方は反対に青い宝石をそのままはめ込んだかと思うような瞳をしていた。
表情は少女の方とは異なり、自信に満ち溢れた、不敵な笑みを浮かべている。
見る人によっては不審に思うだろうが、あどけなさが残るものの端正な容姿もあってか不審者という印象は与えない。
むしろミステリアスで神秘的な引き込まれるような印象を見る者に与えていた。
服装は赤いベストに青いローブを羽織っており、手には金属製で視力検査の環を菱形に近づけたような形で紫色の水晶玉が付いた長い杖と、鍔が広く先が尖って折れ曲がっている三角帽子を着けており、見る者に魔法使いをイメージさせる服装をしていた。
そんな魔法使いのような姿をした少年は、呆然と座り込んだ少女に対してこう声をかけた。
「よう、あんた。大丈夫かい?」
これが少女ユカリ・イズミと、少年ソラ・リュウセイの出会いだった。




