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12.死亡


 ズガガガガッッッッ‼‼‼‼

 

 銃弾の雨がソラを襲う。

 それに対してソラは必死になって走る。走ることで避ける。

 しかし避けた先にも銃弾の雨が降り注ぐ。

 ソラは杖を地面に突き立て、棒高跳びの要領で飛び跳ねる。

 上に避けた事で辛うじて銃弾の雨を躱す。そして再び走る。

 今ソラは五階建てビルの屋根の上を走っている。

 隣のビルとの間に走る隙間をジャンプで飛び越えてパルクールの要領で屋根の上を駆け抜けていく。

 目的はシイナからスコーピオンを引き離すこと。途中で攻撃もできれば尚良し。

 そのためあえてソラは見つかりやすいところを選んで逃げていた。

 その狙いは的中したのか、スコーピオンもソラを追う。かつては道路だった道を八本の足で歩きながら内部に機関銃が備わった鋏をソラに向けて発砲する。

 たちまちビルに銃弾が突き刺さり穴だらけにしていく。放棄されたビルであったためか建物は劣化が激しいようだ。ソラが隣のビルに向かってジャンプしたすぐそばからビルが崩れていく。


「……ぐっ‼‼」


 崩れるビルから何とか隣のビルに飛び移る。そしてできたわずかな隙を衝いてソラは杖を構える。そして周囲のエーテルと自らの精神を反応させる。


「……炎の雷(ファイア・ボルト)‼‼」


 今込められるありったけのエーテルを使って火球を放つ。その甲斐あってか生成された火球はいつもの倍の大きさにもなっていた。


 火球がスコーピオンに向かってまっすぐ放たれる。ヒュウゥンと空気を切る音を鳴らしながら。

 スコーピオンは火球を避けようとする。

 しかし以前の戦いとは違ってスコーピオンは巨大な蠍の駆動機械を身に纏っている。当然重量は比べ物にならない。

 その巨体故、彼は逃げる獲物を追い詰める機動力こそあれど、相手の攻撃を咄嗟に避けられるような瞬発力は以前よりも下がっていた。

 火球はスコーピオンに直撃した。大きな爆発音を鳴らしながら。

 

「……ぐっ‼‼」


 スコーピオンもたまらず怯む。その歩みが止まる。

 しかし、スコーピオンはすぐさま態勢を整えた。そして、鋏を開いて銃口をソラに対して向けた。


 ズガガガガッッッッ‼‼‼‼


 再び弾丸の雨がソラに襲い掛かる。

 ソラの立っていたビルはたちまち塵と化す。


 それでもソラは必死に走る。足を止めたらやられる。その恐怖が彼の足を動かす原動力になっていた。

 しかし無理が祟ったのかソラは隣のビルへジャンプしようとした瞬間足がもつれてビルの縁に足を引っかけてしまう。

 そしてそこにスコーピオンの銃撃がビルを襲う。ビルはガラガラと音を立てたちまち崩れてしまう。

 

「うわぁぁぁぁ‼‼‼‼」


 ビルの崩落に巻き込まれてソラは思わず悲鳴を上げる。

 コンクリートでできた地面にソラは思いっきり叩きつけられる。

 なんとか受け身は取れたが、瓦礫も一緒になって降ってくるため身動きが取れなかった。

 

 ソラがその場でうずくまり瓦礫をやり過ごすと視界の奥からスコーピオンがゆっくりと近づいてくる。

 横から生えた八本の足がガシャガシャと音を立てる。

 舞い上がった瓦礫が土煙となって視界を悪くする。

 その土煙の奥から赤いスリットを光らせ、青く煌めく巨体を登場させる様子はまさしく舞台役者のようだった。

 

 痛みに耐えながら何とかソラが立ち上がると、スコーピオンが彼に向かって声をかけてきた。


「あの子供はどこだ?居場所を吐けば見逃してやる」


「……言う訳ないだろ」


「何故そんなにボロボロになりながらあの子供を庇う? お前とは何の関係も無いだろう?」


「……あほか……マジシャンが子供見捨てて逃げるなんてかっこ悪い真似できるかよ。むしろかっこ良くお前ぶっ倒して拍手喝采浴びてやるっつーの」


「……馬鹿な奴だ」


 そう吐き捨てるように言うとスコーピオンはユカリに向かって放ったように毒針をソラに向かって放つ。

 ソラはこの攻撃を見ていなかったため不意打ちの恰好となり、避ける事が出来ずに直撃してしまった。

 ソラの全身に痛みと悪寒が走る。そしてその痛みと寒気がソラの思考を支配していく。

 ――死にたくない。

 ――楽になりたい。

 

「ぐはッッ‼‼‼‼」


 ソラは思わず血を吐いてしまった。全身から力が抜けていく。

 遂にはソラは立っている事もままならずその場に倒れこんでしまった。


(あ、死んだわ……俺)


 心の中でそう思いながらソラの体から色が抜けていく。顔色は悪くなり、唇は青紫に染まっていく。

 痛み、苦しみ、恐怖で一杯となっていた彼の思考は、今や何一つとして考えていない真っ白なものとなっていた。


               ◇


「……おいっ‼ おいっ‼ しっかりしろ‼‼」


 ソラが地面に倒れたその瞬間、彼とスコーピオンの前にブルストムが駆けつけた。

 ブルストムはソラを抱えて必死に声をかける。しかし何度呼びかけても返事が返ってくることは無かった。


「……本当に死んじまったんじゃないだろうな……」


 ブルストムは倒れたソラの腕を自身の首に回しながら来た道を引き返した。このまま戦っても勝ち目は無い。そして何よりもソラの安否を確認する時間が欲しかった。そう思ったからこそ彼は迷いなく逃げの一手を選べた。


 ブルストムが逃げている途中で彼はエレノーラとユカリの二人に出会った。エレノーラが顔色の悪いユカリに肩を貸しながら歩いている。

 ブルストムは二人の元に駆け寄ると冷静さを欠いたまま二人に向かって状況を聞いた。それは普段の彼を知るものからすれば到底彼らしくないと思うような行為であった。


「エレノーラ‼ ユカリは一体どうしたんだ⁉」


「毒にやられたんです‼ 傷は治せたけど毒までは……」


 そうして話す二人の元に大きな地鳴りのような音が響く。その音に混じって機械が動くガシャガシャという音が聞こえてくる。スコーピオンが近づいてきたのだ。


「とにかくここは逃げるぞ‼ 護衛対象の少女も探しながらだ‼ 良いな⁉」


「はいっっ!!」


 ソラとユカリを庇いながら二人は走る。そして手近な建物に逃げ込む。その建物は偶然にもソラがシイナを隠した建物であった。

 建物に逃げ込んだ二人は息を潜める。すぐ近くをズシン、ズシンと地鳴りのような音とガシャガシャという機械の駆動音が通る。

 しばらく息を殺していると音は段々と小さくなっていく。ここにきてようやく二人は大きく息を吐いた。


「……行ったか」


「そんな事よりまずは二人の治療を!! 早くしないと!!」


 涙目になりながらエレノーラは訴える。ブルストムはそれをどこか冷めた目で見ている自分がいる事に気づく。


(……諦めているのか? この俺が?)


 ブルストムは自問自答する。幸いにも答えはすぐに出てきた。


「……まずすべきことは護衛対象の保護だ。目的を見失うな」


「二人の事はどうでも良いんですか⁉」


「任務は護衛対象の移民保護局への護送だ……護衛対象の所在を知らないのが今一番まずい……」


「よくそんな薄情な事言えますね⁉ 見損ないましたよ!!」


「優先順位を明確にしているだけだ!! 何も思ってないわけじゃない!!」 


 ブルストムもエレノーラも声を荒げる。二人ともすでに冷静な判断ができなくなっていた。

 そこに建物の奥からシイナが走ってくる。どうやら二人の口論の声で目が覚めたようだ。

 駆けつけたシイナは二人の様子を見るなりまずユカリの方に両手をかざす。手元が青い光を放ちその光がユカリの体を包んでいく。

 毒消し(ポイズンヒール)と呼ばれる魔法だ。

 光に包まれたユカリの方はというとまず顔色が良くなった。血が巡ったのか血色がよくなり唇も青紫色から元のピンク色にまでに戻っていた。どうやら体を蝕んでいた毒が消えたようだ。


「ユカリちゃん!! よかった!! 元気になったんだね!!」


 エレノーラがユカリに抱きつく。それに対してユカリの反応は理解が追い付いていないのか唖然とした何とも締まらない表情をしていた。


 それに続いてシイナはソラに対しても毒消し(ポイズンヒール)を使う。

 手元が青色に光ってソラの体を包み込む。しかしその光はすぐに霧散してしまった。

 その光景を目の当たりにして、信じられないといった表情でシイナは見る。

 するとシイナは同じように手をかざして回復魔法(ライトヒール)を使用した。

 緑色の光がソラを包んだが、またも霧散していく。

 その場を重い空気が包み込む。誰も、何も口に出せなくなっていた。


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