11.相対
「大丈夫か!? ほら水だ!! 飲め!!」
「ぐっ!!すまん……」
ソラとブルストムの二人はスコーピオンから逃れ、惑星メトロポリスの地下街跡地に逃げ込んでいた。
彼らのいるこの場所はかつては人で栄えていたが周辺地域の開発と共に人が少なくなり、やがては街ごと放棄されたという経緯を持っていた。そのため身を潜めるには格好の場所だった。
「シイナやユカリは無事なのか?」
「……わからん。会えたのはお前だけだ、エレノーラも無事だと良いが……」
「無事ですよ~」
「「!!? 生きてたのか!?」」
物陰から血と泥まみれのエレノーラが現れる。その光景にソラとブルストムの二人も驚愕する。
エレノーラは二人に回復魔法を施した。二人の傷が見る見るうちに塞がっていく。
「……感謝する」
「……ありがとう……助かったよ」
「どういたしまして♪」
「ユカリと……シイナだったか、護衛対象は無事か?」
「すいません……列車が横転して車両から投げ出されたんです……二人とはその時にはぐれてしまって……」
「まぁまぁ、君だけでも無事でよかったよ」
ブルストムの質問に気落ちするエレノーラにソラが優しく声をかける。それでも責任を感じているのかエレノーラの顔は暗いままだった。
「……とにかくこれで三人は合流できた。後はあの二人を見つけて移民保護局まで連れて行けばいい……だから気にするな」
ブルストムが不器用に励ます。それを聞いてエレノーラも口を固く結び、目つきも芯を感じさせるキリッとした普段よりも凛々しい表情になる。
「……そうですね~あとはあの二人を見つけるだけですもんね~……よ~し、私がんばりますよ~」
それでも声までは変わらず、相変わらずふわふわとした可愛らしい声色だったのでソラもブルストムも思わず力が抜けてしまう。もっともこれが彼女の良いところかもしれないと二人は思った。
傷を癒した三人は地下街を進む。ソラが魔法で火の玉を生成しそれを浮かせることで明かりを確保して地下街の暗闇を進んでいく。人から打ち捨てられて久しい為か地下街は不気味なほど静まり返っていた。そのため三人も音を立てないようにゆっくりと歩いていた。
ブルストムはこの現状に苛立っていた。護衛対象とはぐれてしまっただけでなくユカリまで安否が不明である現状は、どんな任務も完璧にこなしエリートとしてもてはやされてきた彼にとって到底容認しがたいものであった。あまつさえ同行者は同僚であるエレノーラと、素性のわからない民間人である。魔導士としての能力は優れているようだが正規の守護者隊員でない者の力を借りなければいけない現状は、彼にとっては不満が溜まって仕方がなかった。
そんなとき沈黙に耐えかねてかは知らないがソラが小声で二人に話しかける。
「……そういえばさ、エレノーラちゃんって魔導士じゃないの?」
「……?違いますよ~?」
「いやさ、さっき回復魔法使ってたからてっきり魔導士なのかなって」
「あれは訓練生時代にエーテル能力があったから教わったんです~。いわゆる『魔導士認定試験』は受けてませんよ~」
「え?あれってエーテル能力ある人全員が受けるもんじゃないの?」
「……確かにエーテル能力がある人間は大抵受験するが……だからといって全員が受けなきゃならんという法律は無いぞ? 人との距離感といいあんた常識無いんじゃないか?」
「ブルストムくんは落ちちゃいましたからね~」
「……黙れ」
怒りに震えるブルストムをまぁまぁとエレノーラが宥める。対してソラの方は呆然とした様子で「……知らなかった」とだけ呟いていた。
そんな事を話しながら三人が歩いていると前方に地下街の出入り口になっている階段が見えてきた。三人が見つけると同時にその出入り口から爆発音が響いてきた。
「……!! 急ぐぞ!!」
ブルストムが駆け出した。ソラとエレノーラも後を追って駆け出す。
三人が階段を駆け上がって音のする方へ急ぐとそこには怯えて座り込むシイナと、シイナの盾になって立つ血まみれのユカリ、そして二人の前に立ちはだかる巨大な青い機械の怪物、スコーピオンの姿であった。
「……野郎!!」
ブルストムが走り出す。走りながら抜刀し飛び上がってスコーピオンの上半身、人型の部分に向かってレイピアで攻撃する。怒りに身を任せたとは思えない見事な突きはスコーピオンの首元を捉えた。しかし、その一撃は甲高い金属音と共に阻まれた。
スコーピオンは微動だにしていない。攻撃を受けてブルストムに気が付いたスコーピオンは尻尾の槍を振るってブルストムを吹き飛ばした。
「……ぐぁ!!!!」
吹き飛ばされて地面を転がったブルストムは悲鳴を上げる。なんとか立ち上がろうとしながらブルストムが見たのは、下半身の蠍の鋏を開いてこちらに向けるスコーピオンの姿だった。
スコーピオンが鋏を開いてブルストムの方に向けると、そこからズガガガガッッっと音を立て火花を出しながら鉛玉が雨の様に打ち出された。
ブルストムは恐怖する。その恐怖にのまれないように全速力で横に向かって走り抜ける。急所を庇うようにして走りながら思いっきり飛び込むようにして物陰に隠れた。
銃弾はブルストムが駆け抜けた場所を正確に打ち抜く。弾が撃ち込まれた穴が空き、ブルストムが隠れた遮蔽物もたやすく穴だらけにされてしまった。
その光景を見たスコーピオンはブルストムの方から再びシイナとユカリの方に向き直る。
シイナとユカリの二人も逃げ出すがスコーピオンはその巨体に見合わぬ速度で容易く二人に追いつく。そして鋏を閉じると今度はそれを金槌で釘を打つ時の様に振り下ろした。
ユカリは慌ててシイナを押し飛ばす。そして自分自身もスコーピオンの方に向かって飛び込みながら前転して回避しようとする。
するとスコーピオンは下半身の蠍の口部分を開き、そこから針のようなものが六本飛び出した。
不意打ちのように放たれたのでユカリは針を避けきれずに全てをその身に食らってしまう。
ユカリの体に針が刺さる。痛みと出血で最早ユカリは声すらも出せなくなっていた。
その場で倒れこむユカリにスコーピオンは容赦なく迫る。
スコーピオンが尻尾の槍でユカリを突き刺そうとしたその時、エレノーラがメイスを前に構えて立ちふさがる。スコーピオンの槍はエレノーラのメイスとぶつかりガキンッと音を立てる。
あまりの衝撃にエレノーラも押されて下がるが、うまく受け止めたためか特に傷などは負わなかった。
「……ユカリちゃん!! 大丈夫!?」
エレノーラが普段からは考えられないような迫真の声でユカリの身を案じる。それに対してユカリはかすれるような声で「……だ……大……丈夫……」とだけ返した。
「ユカリちゃん!! 待っててね、すぐ治療するから!!」
エレノーラはユカリに対して回復魔法をかける。ユカリの傷がたちまち塞がっていき体に突き刺さっていた針も肉に押し出されて地面に落ちる。しかしそれでもユカリの顔色は青ざめたままだった。
「……ぐっ!!」
体の内側から湧き上がる苦しみをユカリは必死にこらえる。しかし耐え切れずに口から血を吐き出してしまう。口から放たれた血はゆっくりと地面に向かっていきそこに血だまりを作った。
「ユカリちゃん!! ユカリちゃん!!」
エレノーラが必死にユカリに声をかける。対してユカリは苦しそうな表情のまま黙り込んでいる。その様子を見てエレノーラの脳裏に嫌な想像が思い浮かぶ。
(もしかして、毒針!?)
エレノーラは傷を癒す魔法は使えても毒を治す魔法は使えなかった。故に毒で苦しむユカリに対してエレノーラは何もできず呆然とする他なかった。
そのときソラはシイナを抱えて逃走していた。ブルストムが吹き飛ばされ、ユカリが撃ちだされた針に苦しむ間に生じたわずかな隙をついてシイナの元に駆けつける事に成功したのだった。
シイナの元に駆けつけたソラはお姫様抱っこの形で抱えて、スコーピオンに背を向けて全力で駆け出した。
逃げるソラ、迫りくるスコーピオン。巨体故に一歩一歩の歩幅の差で二人の間の距離は着実に詰まっていく。しかしスコーピオンは追跡こそ行えどユカリやブルストムに対して行った銃撃や毒針飛ばしなどの遠距離攻撃は行ってこなかった。それを見てソラの脳裏にある考えが浮かんだ。
(シイナがいるから撃てないのか!?)
スコーピオンはシイナを傷つけまいとしてるのかその巨体を接近させるだけだ。不幸中の幸いだったが、だからといってソラの方にも現状を打開する手がある訳では無かった。
ソラは走りながらも必死に考える。
(このまま移民保護局に連れて行っても、あいつがいたんじゃ意味がない!!)
するとソラは途中で見つけた建物に駆け込む。どうやら入り口が壊れたまま放棄された建物らしく内部は無人であった。その建物の奥の部屋にシイナを運び込むと、ソラはシイナ床に寝かせて一人建物の外に出てきた。
(やるしかない。俺が何とかこいつを倒さないと……)
青く染まった巨影が立ち塞がる。それを前にしてもソラは杖を前に掲げて歩みを止めなかった。
「……見せてやる。魔導士に不可能は無ぇって事を!!」
そう叫びソラは一人スコーピオンに立ち向かった。




