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第三十一章

どうやって書こうか悩む箇所に差し掛かっています。配信が1日遅れてしまいましたが、ようやく踏み込めました。

あと2章で第2部は終了します。

 鶴川駅でオレこと高藤哲治はバイクで送ってくれた川上太一さんと別れた。

 自転車に乗り換えて自宅に戻ると、お父さんが家にいて、お母さんと一緒にリビングでテレビを見ていた。さっさと2階に上がろうとすると、お母さんがオレに声をかけた。


 「哲治、こっちに来て。話があるの」


 オレは二人に近づいた。お父さんが鞄をしょったままのオレを見て言った。


 「今日は随分帰りが遅かったな。何をしていた?」


 「友達がケガしたから家まで送ってきた」


 「塾の友達か?」


 「違うよ。学校の友達にたまたま会っただけ」



 ドキドキしながら答えると、


 「……もう深夜0時になるのよ」


 ふうっと長い溜息をついたお母さんがオレを見た。

 その目を見て、オレは背中にひやりとしたものが流れるのを感じた。

お母さんが続けて言う。


 「帰りがあまりに遅いから、お母さん、塾に電話したのよ。石塚塾長はお前がいつも8時になるとすぐに塾を出ていくとおっしゃって、どうして帰っていないのかととても心配されていたわ」


 バレた、とオレは思った。下を俯いてぎゅっと拳を握って動かないオレを見て、お母さんが冷たく言う。


 「塾から家まで1時間しかかからないから、普通に帰ってくれば9時には家につくわよね? でもお前が帰ってくるのは毎日10時過ぎ。お前は一体毎日どこで何をしているの? 

 そしてもう一つ……」


 リビングのテーブルに、お母さんが貯金箱にしているクッキーの空き缶がどんと置かれた。


 「お母さんが買い物のお釣りをここに入れているのは知っているわよね?」


 お母さんの目を見る勇気がないまま、オレは下を向いてかすかに頷いた。お母さんが続ける。


 「最近お金が減っているの。それも100円玉ばかり」


 お母さんが空き缶の中を探って100円玉を1枚取り出した。


 「おかしいなと思ったから、昨日の夜、お金の数を全部数えて、ついでに100円玉を5枚入れておいたの。

 今朝、お前が出かけた後にお金を数え直したら、100円玉が4枚もなくなっていたわ……。お母さんもお父さんも由美も、ここからお金を取り出していないのは確認済みよ。

 哲治、説明してくれる?」


 「……知らない。オレじゃない」


 「はあ? オレじゃないってどういうこと!?」


 突然、お母さんの声が大きくなった。お母さんの剣幕にびくっとして顔を上げたら、お母さんの視線とオレの視線がガチンとぶつかった。

 怒りで真っ赤になった顔面と、涙が溜まって真っ赤になった白目とが、お母さんを「赤鬼」に変えたかのようだった。



 「赤鬼」はオレの頬をぱーんと平手打ちして怒りで体を震わせながら叫んだ。


 「バカだバカだと思っていたけど、とうとう泥棒までするようになったなんて! しかも正直に認めず、ウソをついて誤魔化そうとするワケ!? 

 お父さんが言うように、あんたはあのおじいちゃんそっくりよ! 自分さえ良ければ、他のことなんて全部どうでもいいんだわ! 

 だから家のお金を盗んでも平気な顔をしていられるのね!」


 「違う! そんなんじゃない!!」


 思わずオレは叫んだ。これまで一度も言われたことがないひどい言葉で、オレはすっかり混乱していた。

 そして、この「赤鬼」になったお母さんの目つきは見たことがないくらい異様に冷たい。オレは今までと違う雰囲気に不安感で体が締め付けられて、必死に反省の言葉を並べた。


 「お金を勝手に使ったことは謝るよ! でも盗もうと思ったわけじゃない。あとでちゃんと返すつもりだったんだ!」


 途端に「赤鬼」がくらっとよろけた。


 「見え透いたウソを! そんな言い訳が通用すると思ってるの!? 

 ああ、もう限界! イヤイヤイヤッ! 

 なんでこんな風に育ったんだろう!」


 小さな子のように地団太を踏みながら叫んだ「赤鬼」は、涙をぽろぽろ流しながらオレをギロリとにらんだ。 


 「産まれたときから全然可愛くなかったし、頑張って育てても、私の期待を裏切ることしかしない! 

 あんたは一体どれだけ私をがっかりさせれば気が済むのよ!?」


 そして「赤鬼」は、オレの鼻先に人差し指を突き出して怒鳴った。


 「あんたなんか、あんたなんか、

 産まなきゃよかった! 

 もうどっか行ってよ! 

 二度と顔も見たくない!!」



 目の前で崩れ落ちて号泣する「赤鬼」の姿を、オレはしびれたように動けないまま、呆然と見つめた。「赤鬼」はオレのことは一切構わず、ただただ自分の悲しみにくれている。


 そんな「赤鬼」の背中を優しく撫でていたお父さんがオレを見た。

青ざめた顔で無表情、冷たい視線でオレを刺すように見るその姿は、まさに「青鬼」だった。

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