第三十二章
さっきまでお父さんだった「青鬼」は、ソファからゆらりと立ち上がり、オレこと高藤哲治と向かい合った。
冷気のこもった息を吐きながら「青鬼」が言う。
「哲治、お前はもうダメだ」
その言葉に思わずオレはびくりと震えた。その様子を見て「青鬼」が意地悪く笑った。
「頭が悪いだけなら、勝と同じだからまだ許せるんだよ。自分ができる精一杯を健気に頑張っているんなら、仕方がないと思えるからな。
だがな、勉強しろというと反抗して暴力をふるい、いい塾を探して通わせれば勉強もせずに繁華街で遊び回り、挙句に遊ぶ金欲しさに家のお金を盗むなんて、人間として最低だ。下の下だよ」
ズキンっといつものようにこめかみが痛み出す。額に冷や汗がにじみ出してきた。それでもオレは逃げられない。
両手を痛いくらい握りしめて耐えていると「青鬼」がバカにしたように言った。
「とはいえ、だ。お前のせいばかりとは言えないんだ。おじいちゃんもお前と同じ悪党だったからな。
気に入らない人間を叩き潰し、金を巻き上げ、裏の世界でのし上がったんだ。
お前のこの性格はおじいちゃん譲りなんだよ。
血だよ、血! 運悪く隔世遺伝したんだ。
だがな!」
「青鬼」がオレの肩を乱暴に突いた。オレはよろめいて一歩後ろに下がったが、磁力で吸い付けられたように「青鬼」の視線から目を外すことができない。
そんなオレを冷ややかに見返して「青鬼」は言う。
「お父さんは一生懸命働いてお金を稼ぎ、お前たちに何不自由ない暮らしをさせてきたんだ!
戦後の貧乏暮らしをしていたおじいちゃんとは比べ物にならないくらい豊かな生活なんだぞ!
なのにお前は、今の状態に不満たらたらで自分では何一つ努力しない!
これはお前の本性が性悪だと言う証拠じゃないのか!?」
痛いところを突かれて、思わず下を向いたオレに、「青鬼」がさらに冷酷な言葉を浴びせかける。
「なあ、一体どこで盗みを覚えたんだ? どうせ一緒に夜遊びをしている不良連中にそそのかされたんだろ?
社会のゴミみたいな人間とつるむのは、お前の精神もゴミだからなんだよ!
こんな風に楽に金を稼ぐ味を覚えたら、お前は二度とまともな人間には戻れないぞ。
だってなあ……」
おかしくてたまらない、という声で「青鬼」が叫んだ。
「お前はあのおやじそっくりだからさ!
まったくとんだ大失敗作だ!
いっそ生まれるところからやり直せよ!」
「ぎゃあああああああっ!」
金切り声を上げて、オレは玄関を飛び出した。
ズキズキと頭が痛むせいで、吐き気がする。
オレは喉まで出かかったものを飲み込むと、自転車にまたがり、暗闇に向かってがむしゃらにペダルを漕ぎ始めた。




