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episode13.悩みと図書館と友達

ようこそ!えけて。と申します!

初めての小説なので、温かい心で楽しんでいってください!



「で?」


岩に腰掛けたまま、ミストは頬杖をついた。


「何を忘れたかったんだい?」


「え」


「忘却の湯はね、

“忘れたい”と願ったものほど効く」


湯気の向こうで、ゆらゆらと何かが揺れていた。幻なのか、ただの湯気なのかわからない。


「君は何を流したかった?」


ケットは少し黙った。


「……別に、

忘れたいとかじゃないんだけど、」


「うんうん」


「ただ……なんか」


念入りにブラッシングをしていた手をとめて、

言葉を探すように、尻尾を抱える。


「あいつの事考えると、胸んとこがモヤモヤして…

よくわからないし、疲れてるからなのかなって思ったり、思わなかったり」


「それで温泉?」


「そう」


温泉の主は数秒黙ったあと、

小さく笑った。


「君、だいぶ重症だねぇ」


「えぇ!?」


「自分の気持ちにはとことん鈍ちんだねぇ

いや、気づかないふりをしているだけなのかな?」


鈍いかな?と自分に対して疑問に思うケット

自分は好きに生きて、気持ちの向くままにしているし、家を出てからは言われなかったためわからなかった。


(なんでユーストマのこと考えるとモヤモヤするんだろ、それになんか悲しい、無視されたから…?けどあれは声が聞こえてないってこともあるし…)




「……君はさ」


岩に腰掛けたまま、湯気の向こうを眺めていた。


「なんでそんな顔をするんだい?」


「え?」


「無視されたくらいだろう?」


さらりと言われ、

ケットは耳をぴくりと動かし

丸まっていた背中もピンっと正した。


「くらいってなんだよー!」


「だって事実だろう?

殴られたわけでも、裏切られたわけでもない」


「それは…そうだけど」


「なら放っておけばいい」


ミストの声は軽い。

けれど、妙に冷たかった。


「君は優しすぎる」


「えぇ?普通じゃない?」


「普通じゃないよ」


即答だった。

温泉の主はゆっくりとケットを見る。

その目は閉じられた瞳なのに、見透かされている気がした。


「君は“抱え込む側”だ」


「誰かが泣いてると気になる、寂しそうなら放っておけない、笑ってほしいと思ってしまう」


「なのに自分には無頓着」


「??それは何か悪いことなの?」


「悪いとは言ってないさ」


ミストは肩を竦めた。


「ただ、優しい奴が笑って過ごせるほど

この世界は光ばかりではないよ」


「それはキミも知っているだろ?」


その瞬間、冷たい表情。

空気が少しだけ冷え、湯気も揺れ動いた。

ケットはびっくりし、姿勢を正しく少し俯いた。


「わかってる…し、」


「なら放っておきなよ」


「…だけど!!

目の前の人が泣いてたり苦しんでたり、腹すかせてたりしたら、俺は手を差し出したい!」


「昔、俺に手を差し伸べてくれたあの人みたいに!」


その瞬間、ずっと開いていなかった目を開き

驚いている温泉の主の顔が目に入った。

そしてすぐに呆れたと言わんばかりの笑に戻った。


「悩みの種である人物は

すごい狐に好かれたもんだ」


幸せものだねぇと少し呆れた様に、けれど嬉しそうに笑みを浮かべながら呟いた。





そして、決意した様ような顔で、表情がまた消えた。


「いいかい?

ルナバスティオン大図書館の仕組みはね

“優しい者”を使って、君たちの種族からしたら危ないものを守っているんだ。」


「遠い昔、私の種族が管理していたものを

下界人が保管するようになった際に編み出した、クソみたいな契約さ」


子供に言い聞かせるかのように言葉を選ぶも、

不愉快を露わにしながら話した。

ケットはいろんな事実に黙って聞くしかできなかった。


「800年前、下界人の手に渡ってから幾度となく人が犠牲になり、500年前からは多を守るため小を切り捨てることで管理している」


「それからはあの場所で誰かを契約で人を縛っている。

いわば人柱なんだよ」


冷たい空気、低い声、吐き捨てた言葉

人柱という言葉。

ぞわり、と背筋を冷たいものが撫でた。


さっきまで温かかった空気が、

急に気味悪く感じる。


「……人柱って」


ケットが小さく呟く。


「下界人はその“モノ”を軽く見過ぎなんだ」


「私らなら耐えられるものを、

短命な君たちは、命を削り続ける」


「それを“役目”だの“名誉”だの、

綺麗な言葉で誤魔化してるだけさ」


吐き捨てるような声だった。

初めて、本気で嫌悪を見せた。


ケットは想像している以上に残酷な真実を知って、ある人物が頭によぎった。

物が少ない部屋、図書館の話の時の顔、お婆さんの話、みんながいう“関わるな”

繋がりたくない事実に嫌でも繋がってしまった。


「……助ける方法、ないのかな…?」


これ以外、言葉が出なかった。

その問いに温泉の主はすぐ答えなかった。


長い沈黙の間湯の音だけが響く。


やがて、小さく息を吐いた。


閉ざされた目を開け、しっかりとケットを見ながら

やかしい顔、目を細め、静かな声。


「だから関わるなと言ってるんだよ」


「君は、

助けられないものであっても見捨てられない」


「最後に苦しむのは君だよ」


それは優しい声だった。

それが逆に、残酷だった。


「だからその図書館に関わるのはおすすめしない」


(また、関わるな…か…)

「でも」


「でも、じゃないよ。心優しい君だから言っている。

さっきも言ったろ、先人の忠告は聞くものだ」


「嫌だ」


即答だった。

ケットは迷いもなくはっきりと伝えた。

そして、少し困ったように笑った。


「だって、あいつのこと放っておけないもん

飯も美味しくて、あったかくて、優しいあいつが好き」


軽く笑ってぽりぽりと頬を掻く。


「だから、関わらないって事はもう出来ないや」


「……」


「無視されたくらいでこんなモヤモヤするの初めてだったから、最初はよくわからなかったけど

理由もわからず無視されたのが嫌だ、

友達なのに何も話してくれないことが嫌だったんだって、主の話聞いてて思った!」


話し合いが足りなかったんだ!と

その瞬間、深く息を吐いた音が聞こえた


「はぁぁぁ、ほんとに君ってやつは

大馬鹿者だよ」


「大馬鹿に進化した…」


「もうお好きになさいよ…」


呆れてしまうほど

この目の前にいる優しすぎる子の未来が幸せであればいいと考えをやめ、

頭を抱えるように額を押さえる。


「おう!相談に乗ってくれてありがとう!

次会いに行った時話し合いしてみる!」


その一言で、

ミストは完全に頭を抱えた。


「あぁもう…!

よりによってこういうの拾うのか……

いや、この子があいつに似たのか…?」


「?」


「いや独り言だよ」


ミストはひらひら手を振る。

そして小さく、誰にも聞こえない声で呟く。


「なんで止めなかったんだって

バレたら殴られるかな……」


「ん?」


「こっちの話」


そう言って笑った顔は、

少しだけ諦めたようだった。

お読み頂きありがとうございます!

更新も頑張っていきますので、よければ次も読んでいただけると嬉しいです

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