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精霊が視える少女に転生したあたしの生存戦略〜ここは乙女ゲームの世界ですか?〜  作者: 兼乃木


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9話目 異界渡り

「あの人、こんなにぽやぽやがいるのに、あたしの事を悪霊憑きか疑ってたの…?」


 グリド・グリズド教国の()ぐし子サキが帰ってから、ノーラも気づいた。

 特大の矛盾に。


 テオバルトも当然気づいていて、麗しの美貌を曇らせていた。

 サキは「精霊が視えたから教国に拾われた」と言っていたが、その前提すら怪しく思える。


「疑いたくないが『異界渡り』だから教国が忖度(そんたく)した可能性もある。まだ習っていないだろうが、『異界渡り』の『聖女』の伝説があるからな」

「…聖典に載ってるお話?」

「聖典には載っていないな」


 分厚い聖典の話だけではなく、他にも多くの神話・伝説・伝承が存在するらしい。

 どこまで覚えなくてはならないのだろうか…!


 しかも乙女ゲームの設定っぽいし、ノーラが悪役ポジっぽいし!

 なんで歴史を改変した悪女なのか!


 頭を抱えるノーラに、応接室の片付けに来ていたメイドが手付かずだったジュースのグラスを渡してくれる。

 果汁100%の搾りたてジュースは美味しかった。


「かつて『聖女』と呼ばれる人がいた系の伝説?」

「そうだな。そして再び現れるという預言でもある。聖女が現れるのは世界の均衡を保つため──裏を返せば世界の均衡が崩れる事態が起きるという話になる」


 正義は悪が存在するから成立するのだ。

 悪役がいないとお話にならないし。


「世界の均衡…具体的にどんな悪い事が起きるの?」

「世界が穢れすぎて、御遣い様たちが全てお還りになってしまったらしい。精霊たちも姿を隠してしまった」

「どこに秘密の隠れ家が…!?」


 そこら中でぽやぽやしている精霊たちがいなくなるなんて、それは大異変だ。

 精霊たちは全く気にした様子もなくぽやぽやしているだけだけど。


「世界を回って穢れを祓い、精霊たちを呼び戻し、御遣い様が再臨なさる程に世界を清めたのが聖女だ」

「世界一周旅行…?」


 この地域だけではなく世界中を回るとか、何年かかるだろう。

 ノーラはこの世界の広さが分からないので、地球基準で考えてしまう。


 終わる頃には聖女オバサンになってそう…


「とりあえずお前は今まで通りに勉強をしていれば良い。先ほどの挨拶は良く出来ていたぞ」


 テオバルトは褒めて伸ばすタイプらしい。

 そしてノーラは褒められると調子に乗るタイプである。

 褒められて伸びるのではなく。


 でもやる気は出たから、悪くない教育方針かもしれない。






「なんか色々言ってたから、聞き忘れた…『異界渡り』って何?とか…」

「異界から現れる稀人(まれびと)のことですね。この世界とは異なる、遠い場所なのだそうですよ」


 部屋に戻って勉強を再開したノーラが思い出して聞くと、メイドのメリダは即座に答えた。常識だったらしい。


 聖女以外にもたまに現れるそうだ。


 百年に1人くらいのペースだから、しかもこの国に現れるという話でもないので、珍しい事は確かなようだ。


「異界にはこの世界にない知識があるので、その話を聞くだけでも価値があるそうです」

「美味しいご飯のメニューとか?」

「そういう話もあるでしょうね」


 結局グラタンはこの国にはなかったのだ。

 ノーラは自作できる知識がないので、食べたいと思うだけである。


 あの胡散臭い男装の人に迂闊に聞いたら「やはり転生者!悪女!」と言われそうだから聞けないし。

 グラタンのレシピを尋ねる悪女とは…


 グラタンが世界の均衡を崩す可能性も微レ存…?


「食の革命が、世界を変える…?」

「お腹がすいたのですか?おやつにしましょうか」


 お腹がすいた訳ではなかったが、おやつはいただくことにした。

 5歳児なのでたくさんは食べられないが、甘い焼き菓子は頭脳労働によく効く栄養である。


 でも異世界人のことまでどうでも良くなって忘れたので、記憶力向上の効果はつかないのが残念だった。






 テオバルトの住む屋敷には美しい季節の花が咲く庭があり、東屋(ガゼボ)も建てられている。


 休憩時間はここでぼんやり過ごすのがノーラのお気に入りになりつつあった。

 日がな一日、ぼんやり過ごせる自信がある。


 何も考えずにぼや〜としているだけなのに、何故こんなに満たされた気持ちになるのだろうか。ノーラにも不思議な感覚である。


 屋敷の使用人たちは変な子だとも言わずに、ノーラの好きに過ごさせていた。

 もしかして、ぼんやりさんってノーラが思うよりたくさんいるのだろうか。


 働きもせずにぼや〜として過ごすのは、贅沢な時間の使い方として王侯貴族の間では推奨されているとか…!


 …ないな、とノーラも否定する。

 そんな怠け者が持て囃される世界、解釈違いである。


 面倒見が良くて働き者で、いい子のジンが精霊たちに好かれる世界なのだ。

 ぼんやりさんより働き者が褒められて欲しい。


 ノーラが「ジン君、元気かなあ」と思っていると、メリダが「そろそろお部屋に戻りましょう」と声をかけて来た。

 付き合わせてしまって申し訳ない気持ちと、この機会にのんびり休んでおいてという気持ちになる。


 メイドたちがこの状況で休めるものなのかは、良く知らないのだが。


「旦那様は明日、お出かけになられるご予定です。教国の愛ぐし子様が旦那様のご不在中にいらっしゃるかもしれないとの事です」

「…あたし1人で相手をするの!?」

「そうなる可能性があるので、お気をつけ下さい」


 ノーラがぼや〜っとしている間に知らせが来たようで、歩きながらメリダが言った。

 5歳児に客の相手をさせるなんて、あの男装女、非常識ではなかろうか。来ると決まってないけど。


 来そうだな、と思われているだけである。


 しかもテオバルトの不在時を狙って、悪女ノーラの化けの皮を剥がしてやる!という意図が見え見えだ。


 本当に来たらそう思われるという話である。


「メリダたちは聞いたの?あたしが悪女になるって」

「簡単な説明はしていただきましたが、悪女になったノーラ様のお姿は想像がつきませんねぇ」

「悪霊に憑かれるらしいよ」


 転生者と言っていたから前世の『あたし』の事だろうが、悪霊憑きは酷い話である。

 それとも第3の人格が目覚めるのだろうか。


 前々世のあたし…


 どこまで遡っても賢い人が現れる気がしない。なんてことだ…!


「グリグリ教国の名前を間違えずに言える『あたし』が現れたら、悪霊かもしれない…!」

「その前にちゃんと覚えましょうね」

「そんな記憶力の良い賢い人はあたしじゃないの…!」

「あんまり賢くない人だって覚えてますよ」


 それはあんまり賢くない人より、さらにアホという意味では…!?


 あんまり賢くない人って誰!?という話をしているうちに、部屋にたどり着いてしまった。


 悪口になるからと、具体的な名前は教えてもらえなかった。






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