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精霊が視える少女に転生したあたしの生存戦略〜ここは乙女ゲームの世界ですか?〜  作者: 兼乃木


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18/20

18話目 誘拐

 大神殿の入口で拐われたノーラは、犯人が用意していた馬車に乗せられて移動していた。


 後ろから抱えられていて見えなかったが、馬車に乗せられて椅子の上に放り出された時に見えた顔は知らない男だった。

 男は扉を閉じると馭者台に座ったようだ。


 縛られたりはしなかったが、早々に走り出した馬車から飛び降りる度胸はない。それ以前に5歳児には扉が開けられない気がする。


 泣きそうなのを堪えて窓の外を覗いたが、ノーラはほとんど街を歩いた事がないのだ。貧民街(スラム)なら分かるけど、そんな所は走っていない。


 ノーラが知っている位置関係は、王都の北側に王城があり、城の近くが貴族たちのお屋敷街になっていること。もちろんテオバルトの屋敷もこの区画にある。


 大神殿はお屋敷から南にあるが、街のどのあたりに位置しているのかは知らない。

 ついでに貧民街は東のはずれにあるらしいが、やっぱり位置関係は分からない。


 馬車は西に向かっているようだが、今は西に進んでいるというだけだ。どこかで方向転換するかもしれない。


 大通りのような広い道ではなく、対面から馬車が来てもすれ違えないくらい細い通りを走っていた。

 たまにいる通行人が迷惑そうに避けている。


「ぽやぽやさん、テオバルト様を案内して来てくれるかな…」


 ぽやぽや精霊たちがぽやぽや光りながらノーラの周囲を回っている。なぐさめてくれている気がした。


 ちょっと元気が出たので、ノーラも頑張って考えてみた。


 ノーラを誘拐する目的からして不明である。

 神官見習いだから、とは考えにくい。それなりの人数がいるので、誘拐してまで手に入れたい人材ではないだろう。


 それに御遣い様がいる聖地の神官だから「御遣い様が視える」という能力が必要とされているだけで、それ以外の神殿の神官たちは御遣い様が視えない人ばかりだと聞いた。


 御遣い様がいない場所なら視えても無意味だし。視えるなら聖地に栄転するらしいし。


 それなら御遣い様の愛(め)ぐし子だとバレたのだろうか。教国には報告したと言っていたし、王国内でも知らされている人はけっこう存在するらしい。

 知られると面倒な連中には黙っているだけだ。


 愛ぐし子がいなくて困っているどこかの聖地の人が、まだ公表されていないからと拐ったのだろうか。

 ノーラは他の聖地の事情までは習ってないから、ただの妄想である。


 しかしそれにしては扱いが雑だ。

 誘拐する時に乱暴になったのは仕方がないとしても、荷物みたいに放り込んで放置である。


 ノーラが貧民だからと馬鹿にしている気配は感じたけど。


 殺す気ならわざわざ誘拐しないだろうし、殺意はないから精霊たちもまだ嫌ってはいないようだ。

 幼児を誘拐するような連中、嫌われて当然じゃないのかと思ってしまうが。


 早くテオバルト様が助けに来てくれたら良いなあ、と泣くのを堪えて願ったのだった。






 馬車はやがて王都を出たようで、見渡す限り畑ばかりの中の道を走っていた。

 西に向かっているが、もちろんノーラは王都の外の地理など知らない。


 舗装された街中の道とは大違いの悪路に、ノーラは椅子から放り出されそうになるし、頭をぶつけるし、酔って気分が悪くなるしで、半泣きでえぐえぐしていた。


 声を上げて泣く気力もない。


 どれほど時間が経っただろうか。

 時間の感覚なんて消えていたノーラは、馬車が止まったので少しだけほっとした。


 止まったくらいで気持ち悪さは治らないが、地獄の中よりはマシである。


 ぽやぽやたちが心配そうに飛んでいるのをぼんやり眺めていると、知っている声が聞こえた。


「あら、酔っちゃったかしら?でも我慢してね。休んでいる暇がないのよぉ。急いで帰らないとならないんだもの。本当困っちゃうわぁ。サキちゃんが壊されちゃって、教国の危機なのよう!これでグランダル王国が預言通りに繁栄したら困るわけ」


 身勝手な話の途中で、再び馬車が動き出した。


「大丈夫よぉ。貧民だって愛ぐし子は貴重だもの。教国には貴族なんていないからノーラちゃんを殺そうとする馬鹿はいないわ。女の子なら特に可愛がってもらえるわよぉ、教皇様は大の女好きだから!アタシは女じゃなくて良かったけど!」


 耳障りな高笑いには悪意しかなかった。

 お前は教皇の慰みものにされるのだと嗤っているのである。


 ノーラが子どもだから分からないと思ってのことか、貧民なら詳しいだろうという嘲りなのか。


 気分の悪さより怒りが上回る。

 この変態野郎、ぶち殺す。


 ノーラの中の前世の『あたし』が殺意を抱いても、精霊たちはノーラを嫌わなかった。

 相手は愛ぐし子だが、酷い侮辱をしたのはブランのほうだからか。


 それとも前世の『あたし』が怒り狂っていても、ノーラが泣き出したからだろうか。


 ノーラと『あたし』の感情がブレている。

『あたし』は転生者という名の悪霊なのだろうか……


 でもアレ、男装女の妄言だし。

 たぶん原作にはそんな設定はなかったはずだ。


 教国が舞台の乙女ゲームがあって、続編か何かで王国に舞台を移した乙女ゲームもあった。そちらの主人公がノーラだったのではないだろうか。


 BL展開はファンの妄想な気がするし。同人誌でも見たんじゃないかな…と思う。

 乙女ゲームにBLを混ぜると大炎上するのだ。

 記憶はないけど、それは覚えている。


 混ぜるな危険。


 とはいえ男装女は自分に都合の良い話しかしていなかったから、詳細は不明である。ルート分岐があるようだから乙女ゲームかなと推測しただけなのだ。


 でも目の前の性根の腐ったオネエは攻略対象ではなかっただろう。

 こんな奴、誰も攻略しようと思わねえよ!と怒りがぶり返して来た『あたし』だった。






 気持ち悪いを通り越して、このまま死ぬんじゃないかな…と思えて来た頃、外から「まずい、追っ手だ!」「なんでこのルートがバレたんだ!」と焦った声が聞こえて来た。


 オネエも「なんですって!?」と慌てているが、貴様は周りにいる精霊をなんだと思ってんだと不快感が増した。

 ぽやぽやたちも「えー?マジで言ってんの、コイツぅ」という雰囲気である。


 馬車が速度を上げるのでノーラは椅子から落ちそうになったが、オネエに掴まれた。

 ノーラを助けたのではない。走る馬車の扉を開けて、ノーラを外に出して喚いた。


「それ以上近づいたら、このガキを叩きつけるわよ!」


 そんなことをされたらノーラは死ぬ。

 恐怖で声も出なかった。


 ぽやぽやたちがたくさん周囲に来てくれたが、実体がないので助けにならないだろう。

 でも大神殿で感じたのと同じ精霊たちの怒りが吹き出しているのが分かる。


 オネエも気づいたようで「本気でやる訳ないじゃない!」と言い訳していた。

 言い訳しながらもノーラを馬車の外にぶら下げたままだ。口先だけの言葉で騙せるとでも思っているのか。


 なんでこんな奴が今まで嫌われずに立ち回れたのか分からない。

 なんでこんな奴が御遣い様の愛ぐし子なのか。


『あたし』の中の殺意が膨れ上がるが、馬車が大きく跳ねた拍子にノーラの小さな身体がぽーんと空を舞った。

 馬車が揺れた時にオネエがバランスを崩して上に放り上げる形になったのだ。


 事故だと奴は言い訳するだろう。


 危険を知っていてやっていたのだから、そんな言い訳が通じるはずがない。

 上ではなく下だったらすぐに死んでいた。


 わずかな対空時間の間に『あたし』はありったけの怒りと殺意を放った。


 人殺し!

 人殺し!

 人殺し!


 死ね!

 死ね!

 死ね!


『あたし』は死の間際にお綺麗な事を考えられるヒロイン様には、なれなかった。





□助けに来てくれるのはテオバルトだ、と断定しているのは精霊が視えるから正確に追跡できると思っているからです。貧民街を出る時にノーラ自身も精霊たちに導いてもらっているので。

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― 新着の感想 ―
比較的まともなオネェと思ってたら全くまともじゃなかった…;;
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