16話目 平和な日?
ノーラはあくびを堪えたが、ぼんやりしてしまって話は聞き流していた。
教国の使者である、御遣い様の愛ぐし子ブランと会談した後でテオバルトと王太子イグレオンのもとに戻って報告している所だ。
王太子妃と2人の王子は自室に帰ったあとだった。
テオバルトがしっかり報告しているし、見張りの騎士やメイドたちからも話は入るはずだ。
ノーラから話すことはない、と思う。
ねむねむ状態でぽやぽやな精霊たちをぼんやりと眺めていた。
眠って良いかなあ、と思ってしまう。
どのくらいぼんやりしていただろうか。
テオバルトに抱き上げられて少しだけ意識がそちらに向いた。
「話は終わったから、もう寝ても良い」
「ん〜…」
おやすみィ…と言ったつもりだったが、むにゃむにゃとしか応えられていなかった。
目覚めたら朝でした。
しかもメイドさんに起こされるまで眠りこけていたらしい。
ノーラは何時間寝ていたのかとびっくりした。
「なんでそんなに寝てたの?」
「お疲れになられたのでしょう。はじめての事ばかりだったと思いますし」
「そっかー」
はじめてお城に行って、予想外に王太子妃と王子たちに会って、あとオネエさん…いや、教国の使者からうんざりする話を聞いた。
特に男装女の自己中な話は長くて疲れた気がした。
メイドに手伝ってもらいながら神官見習いの服を着て、髪を梳かしてもらう。
このお屋敷で過ごしていたら駄目になりそうだが、御遣い様の愛ぐし子なのだから今後も特別扱いしてもらえるらしい。
とはいえ、貴族のテオバルトはさらなる特別な存在なのだ。そこはわきまえておかなくては。
大神殿での食事と大違いの朝食を食べながら、期間限定だから!と思う。
いつもは一緒に食べるテオバルトはいなかった。
「起こしてもらったのに、寝坊した…?」
「旦那様はお早めに出掛けられただけですよ。ノーラ様はお疲れのようでしたから、ゆっくり休ませるようにと言いつかっております」
「そんなに疲れたのかな…」
自分のことなのにノーラは首をかしげてしまう。自覚がなかった。
でもぼんやりしていて良いのなら、1日中ぼんやりして過ごすことだろう。
勉強しなくて良いとは言われていないので、いつもより短い時間だったが字を書いて覚える勉強はした。
覚えたつもりなのに、1日経つと忘れてしまう事も多い。反復練習は大事である。
1番最初に覚えた『御遣い様』はほとんど間違えずに書けるようになっているので、これは自信がついて来た。
「そうだ、精霊はどう書くの?あとぽやぽや」
「精霊はともかく、ぽやぽや…ですか?」
「精霊はぽやぽや光ってるの」
大神殿の礼拝堂の天井のフレスコ画のように、精霊の姿を描いた絵はある。
視えない人でもノーラの言葉は伝わったようだ。
メイドのメリダに「ぽやぽやなんですねぇ」と微笑ましげに言われたものだ。
精霊たちはいつも通りぽやぽやしている。
「何にも考えないでぽやぽやを眺めてるだけで1日が終わるくらいぽやぽやなの」
とても頭の悪そうな説明になっていた。
5歳児らしさに溢れているから大丈夫という事にした。
前世の『あたし』はオバサンだけど。
オネエさんだとアレを思い出すので止めた。
とりあえず新しい言葉を教えてもらったが、覚えるのは今の課題が終わってからである。
でもたまには新しい刺激が欲しいのだ。
飽きるから。
勉強の後の休憩でおやつを食べて、今日は天気が良いのでお気に入りの庭の東屋に向かった。
そこでしばらくぼや〜として過ごした。
何もない日、最高だった。
ノーラにとっては何もない日だったが、お城ではとんでもない1日だったらしい。
男装女が身勝手な話を披露したら内容が酷すぎたので精霊たちが怒り狂い、教国のオネエさんがそれを感知して発狂しかけたとか。
ノーラには良く分からないがカオス。
夕食には帰って来たテオバルトが「ノーラは心配しなくて良い」と言いつつ、本人はガッツリ関わるハメになって疲れた様子だった。
「お屋敷はずっと平和だったよ。精霊たちはご機嫌でぽやぽやだよ」
「そうだな」
精霊はぽやぽや光っているだけなので個体の区別はつかない。だが移動しているぽやぽやも見るし、ノーラについて来るぽやぽやもいる。
ノーラよりジンのほうがついて周るぽやぽやが多かったけど。お気に入りの側にいたいタイプもいるのだろう。たぶん。
テオバルト親衛隊のぽやぽやたちもいるが、今はいつも通りに視えた。
「そうだ、明日は屋敷にいるから、一緒に買い物をしようか。確か明日呼んであるのだろう?」
「はい。手配済みでございます」
テオバルトは明日はのんびり過ごしたいようだ。余程疲れたんだなとノーラはうなづく。
外はまだ危険かもしれないということで、侯爵家のお抱え商人を呼んであるらしいのだ。
高級品しか売ってなさそうだが、見るだけでも勉強になる。はず。
「テオバルト様は何が欲しいの?」
「ノーラの普段着を増やしたい。まだ神官見習いとして扱っているから着る機会が少ないだろうが、なるべく早く立場を固めるからな」
「おー…」
神官見習いの服も新品を用意してもらったのに、ノーラの普段着など増やしてどうしたいのか。
テオバルトに似合う服のほうが必要ではないだろうか。輝くイケメンはいろんな衣装で着飾って欲しい。
そう、1日に10回くらい着替えるお貴族様らしく!他の貴族には無駄でもテオバルトには必要だと思うのだ。眼福のために!
「…ところで、レグシオン王子殿下のことはどう思う?王家と神殿の関係を考えると、愛ぐし子が嫁入りする可能性はないのだが」
「王子様?……将来は美形に成長しそうだなと思いました。好みじゃないけど」
「なるほど」
年が近いから、誰かが余計な事を言ったのだろうか。
レグシオン王子は俺様系っぽいのでノーラの好みではないのだ。
ノーラの前世の『あたし』は明るく爽やかなタイプか、お人好しで世話焼きタイプが好きなのだ。ノーラはお父さん1択な気もするけど。
もちろんお人好しで世話焼き(ジン君)である。
「あ!教国のオネエさんは女の人に見えたんじゃないんだよ!言葉遣いがオネエさんなのにオジサ…男の人だったから!」
「…ああ、そういう意味か。そうだな、紛らわしかったな」
昨日言い忘れた事を訴えた。
メイドさんたちが「???」という顔で聞いていたが、周りにいないのなら知らなくても良いと思う。
きっとあのオネエさんはそのうち帰国するだろうし。




