14話目 教国の使者
王太子一家とお茶をしてから、ノーラはグリド・グリズド教国の使者の所へ向かった。
同行しているのはテオバルトと城の騎士たちだけだ。
今回の使者は王城に滞在しているらしい。
「教国の『御遣い様の愛ぐし子』様なんだよね?」
「そうだ。精霊たちの反応も異常はないし、言動が気持ち悪い以外はマトモな部類だ」
言動が気持ち悪いとは……
騎士たちも同感とばかりに頷いていた。
言動が気持ち悪いとは…………
想像がつかなくてぼや〜と歩いているうちに、会談場所に着いてしまった。
騎士が扉を叩いて声をかけている。
すぐに返事があって、テオバルトから部屋に入った。ノーラも大人しくついて行く。
「お呼びたてしてごめんなさいねぇ!来て下さって嬉しいわ!どうぞこちらにお掛けになって!」
「オネエさん…?」
「あら!ごめんなさいね、こう見えてアタシ、男なのよ」
いえ、見た目は男ですが。
言動がオネエなだけで。
声だって野太いし。
テオバルトと騎士たち、さらに室内にいたメイドたちが「この子供の眼は節穴か…!?」と驚愕する中、超ご機嫌なオネエさんがノーラたちが座るのを待っていた。
ノーラはぎくしゃくと挨拶してから、テオバルトに椅子に座らせてもらった。
テオバルトは驚きから覚めたようで、優雅に挨拶をして席に着く。
オネエ…教国の御遣い様の愛ぐし子はブランと名乗った。
「あのね、どこから説明したら良いかしら。ノーラちゃんはどこまで聞いているの?」
「子供に聞かせるような話はなかったはずだ。また押しかけて来るのではと怯えていたから、牢に捕えられた話だけはしたが」
「そうなの…あのね。サキちゃんの後ろ盾になっている枢機卿が、あの子の事を『聖女』だと信じているのよね」
「男装してても頭おかしいって、教国の人は思わないの?」
「え、思うわよ。でも異界のファッションらしいのよね、アレ」
異界…日本人だと思っていたが、日本じゃないのかもしれない。
コスプレ以外で見たことがないファッションだった。
「私はタカラヅカ歌劇団に入る予定だった、と言っていたわ。どういう劇なのかは聞いていないけど」
「タカラヅカ…」
やっぱり日本人じゃねぇか!コスプレ女!
本人は入れるつもりで落とされた、そんな気がする。あの言動はきっとそう。
ノーラは被害の度合いでそう断定してやった。
「サキちゃんが言うには、この世界には5つの未来があるらしいのよね。聖女になったサキちゃんが教国を導く未来。名前は忘れたけど、サキちゃんがなんとかって男と結婚して幸せになる世界」
「あの者の個人的な未来はどうでも良いのでは?国家や世界の話じゃないのか」
「だってあの子、同列に語るんだもの〜」
ヒロイン視点だろうか。
そんなの聞いて真に受けた枢機卿はボケが進行していそうである。
「なんとかとなんとかは好みじゃないからナシで、あとアレとソレと結婚する未来もある、って自己中な話しかしない子だしィ」
「…それは聞く気が失せるな」
「でしょお?最後はテオバルト様となんとかって男が同性愛に目覚めてうんたらかんたらって言い出すし!」
「…今すぐ息の根を止めて良いよな?」
テオバルトが本気の顔で立ち上がるので、ブランが必死に止めていた。
「でもその話に繋がるのよ!ノーラちゃんのことが!」
「く、続きを聞こう」
ノーラもなんでテオバルトのBLルートに自分が関係するのか分からない。
部外者だから、何が起きてもノーラは外から見守るだけである。たぶん。
「ノーラちゃんがテオバルト様をたぶらかすんだとか、ノーラと結ばれるルートだけは許さないとか、あんな悪女は排除するしかないって息巻いてて」
「テオバルト様、5歳児にたぶらかされるほど女に困ってないと思うよ」
「そうよねぇ。ノーラちゃん可愛いけど、そういう話じゃないわよね」
「ルソールさんの話はしてた?」
「ルソール?…ルソール……あ、それよ!テオバルト様の恋人の男の名前!」
テオバルトが最高に綺麗な笑顔で「もう息の根を止めても良いな?」と言い出したが、ブランは半泣きで止めていた。
腐女子の妄想を聞かされた過去がありそう。
「それにノーラちゃんがテオバルト様と結ばれるとグランダル王国が一層栄えるって所がね、枢機卿には重要だったみたいでね」
「…そういう話か」
「じゃあ悪女って、完全にあの男装女にとって都合が悪いってだけだったの?」
「…ええ、そうよ。アタシにもそうとしか聞こえない話だったわ」
「悪女というのは、あの異界渡りの事を言うのだろうが」
テオバルトも怒って吐き捨てている。
グランダル王国側から見ると、王国の繁栄を妨害した悪女に他ならなかった。
よくも聖女だなんて自称できたものだ。
「でも枢機卿は信じたがっているのよ、サキちゃんの話。サキちゃんが生きていれば教国が繁栄する。でも、サキちゃんが死んでノーラちゃんが生きていたら…ね?」
「そんな妄言を信じる人間をいつまで枢機卿の地位に置いておく気だ。教国内で片付ける話だろう。都合の良い話をするな」
「だってアタシには手に余るのよぅ!」
テオバルトはノーラを抱き上げて立ち上がると、交渉決裂とばかりに部屋を出た。
確かにノーラにも、王国に譲歩をさせようと図々しい事を言っているなと思えた。
ノーラに分かるのだから、他の人たちは聞く価値なしと耳を貸さないだろう。
「ノーラなら騙せると思ったのか」
「あたしは騙せても、周りの人たちは騙されないと思うよ」
「ノーラのお願いなら聞くと思ったんだろう。愛ぐし子の頼みだからな」
「騙されても、あんな男装女キライ!という所は主張しようと思う」
ノーラは騙されない自信などないが、まず男装女が何をしたのか調べたほうが良いと思う。同情する気も起きないままなのだ。
でもそういえば、転生者という設定は必要不可欠なのかなと疑問に感じた。
乙女ゲームに転生者とか出るものだったか…
ゲームによるとしか言えない。
「悪霊憑きの話はどこに繋がるのかな…」
「名前を知っていたというのなら、何かしらの情報を得ていた可能性は消えていないが…」
ノーラが大神殿に拾われる前から知っていたのなら、全て作り話と断定しきれなくなる。
それに転生者なのは言い当てられているのだ。内緒だけど。
「ところでノーラ、教国の名前は?」
「抜き打ちテスト…!?」
突然の出題に頭を抱えたノーラは「グ、グリム・グリーンガム?」とかすりもしない答えを返して、グリド・グリズドと発声練習のように繰り返したのだった。




