13話目 登城
テオバルトがまた城に行ったので、ノーラが「あの人が来たらどうしよう…」と男装女の襲来を警戒していたら、何故か城で捕まって牢屋にぶち込まれたそうだ。
帰宅したテオバルトが言っていた。
何をやらかしたのかは聞いていない。
「…他の国の使者を牢屋にぶち込んでも大丈夫なの?戦争とか起きない?」
「王太子殿下のご判断だそうですから、きっと大丈夫ですよ」
この世界の常識はまだまだ分からない。
グリグリ教国が怒らないのなら良いが、地球だったら国のメンツにかけて許さないと思うのだが。
それも前世の『あたし』のイメージでしかないけど。
どっちにしろノーラは無責任に「変な人が来ない!」と安心して過ごせば良いだけだ。
存在がけっこうなストレスになっていたらしく、思った以上に安心してしまった。
静かな日常が戻って来て、ノーラがテオバルトの屋敷でお世話になりながら勉強をしていると、またグリグリ教国から使者が来たと聞かされた。
グリド・グリズド教国は使者を出すブームでも到来中なのだろうか。
公費で国外旅行のノリで。
…それは駄目な奴では?
「今度は女装男でも来たの?教国では流行ってるのかな」
「教国の流行りは存じませんが、女装はしていなかったそうですよ」
「そっかー」
女装男子(美少年)ならちょっと見たかったが、普通の人なら興味はない。
どうせ大人だし。
という訳でさっさと忘れたノーラだが、何故かテオバルトに連れられて王城に行くことになっていた。
メリダたちが張り切って訪問用のドレスを用意していた。
「…そ、そのお高そうなドレスは、誰がお金を払うの…?」
「公表されていないとはいえ、ノーラ様は御遣い様の愛ぐし子様なのですから、このくらいはすぐに用意されるのですよ」
「お金の心配は無用ですからね!」
大神殿は御遣い様の愛ぐし子費用をいくら用意しているのだろう。
運営費がどのくらいなのか、ノーラには想像もつかない。むしろこの国のお金の単位も知らない。
「…は!あたし、お買い物したことなかった!お金もマトモに見たことなかった!」
「では今度、お勉強いたしましょうね」
「メリダ様、商人を呼びますか?それともお店の見学も出来たほうが良いでしょうか」
「旦那様にもご相談して決めましょう」
商店街に一度行ったが、オバサンから話を聞いただけである。
それを思い出しただけなのに、お貴族様な展開になっていた。
はじめてのお使い的な展開はないらしい。
残ったお駄賃でお菓子屋さんでおやつを買う展開はないのだ。ちょっとガッカリ。
おやつは買いに行くまでもなく用意されているが、お店で見たいなという気持ちとはトレードオフだった。
可愛いドレスで着飾って、最低限の挨拶を覚えて、ノーラはそわそわしながらお城の門をくぐった。
馬車に乗っていただけだが。
「そんなに城に興味があったのか?」
「違うの…早く、早くしないと覚えた挨拶が消えそうで…!」
「…教国の使者には挨拶してもらわないとならないが、殿下はまだ大目に見て下さる。そんなに気負わなくて良い」
今日は言葉遣いにちょっと気をつけよう、とテオバルトに言われて思い出すタメ口事件。
それもあったー!と頭を抱えそうだが、まずは教国の使者だ。先に片付けて安心したい。
などとテンパっていたが、先に向かったのは王太子イグレオンの所だった。
ついでに王太子妃と2人の息子つきだった。
「はじめまして、ノーラ。わたくしはミアクレア。こちらは長男のレグシオンと次男セルグレンよ」
「レグシオンだ!名前で呼ぶことを許してやる!」
「だぁ!」
ノーラよりひとつ年上のレグシオンと、まだ1歳になって間もないというセルグレンという兄弟だった。
美丈夫の王太子とキリッとした美人の王太子妃の息子なので、どちらも整った顔立ちをしていた。
兄のほうは偉そうだが、王子様だから事実偉かった。
「お、王家の方向けのご挨拶…!」
「挨拶の仕方が違うことを覚えていて偉いぞ」
違うのは覚えているが、どうやるんだっけと聞きにくくなった。
ノーラはあたふたしてから、どうにか思い出して乗り切った。
命を捧げる奴!と心の中で叫んでしまった。
でも教国の使者用の挨拶が消えかけている。
練習させて欲しい。
言えないまま促されて椅子に座った。
正確には届かなかったから、テオバルトに座らせてもらった。
テオバルトも優雅に挨拶をして着席していた。
「グリド・グリズド教国から使者が来ていることは聞いているな。今回は本物の『御遣い様の愛ぐし子』のようだ」
「教国側も愛ぐし子がいないのではという疑惑は早々に否定したかったのでしょうね」
御遣い様の愛ぐし子は、本当ならホイホイと国外に出さないものらしい。
御遣い様のいない国にも精霊はいるので、精霊の視える愛ぐし子はどこの国でも特別だからだ。
不思議と御遣い様のいる聖地以外では生まれないので、精霊の愛ぐし子ではなく御遣い様の愛ぐし子と呼ぶのかもしれない。
「教国内も一枚岩ではない、一部の者の暴走だったと言い訳しているが、聞く価値はないからな。御遣い様の愛ぐし子と認定した人間がいるという事実が全てだ」
「幼いノーラにも言って、言質を取りかねない様子なのよ。なりふり構わないというか、見苦しいというか」
「ぜひ会わせてくれとうるさくてな…」
それでノーラが呼ばれたらしい。
なんて迷惑なのか。
「さすがに異界渡りの件は口にしないが…」
「あの者の話は聞いていたかしら?」
王太子妃がノーラに尋ねて来た。
話について来れているか確認したのだろう。
「牢屋にぶち込まれたって聞いた…聞きました!」
「淑女は『ぶち込まれた』とは言わないわねぇ」
「おおおう!」
確かに淑女なら言わなそう。
テオバルトだってお上品に言う気がする。
ノーラは言い換えてみた。
「牢屋に、えっと、えっと…おぶち込んでくれてやりましたわ…?」
「酷くなった…」
「牢に捕えられたで良いだろう」
レグシオンに慄かれて、王太子に正解を教えられた。確かに、ぶち込むから離れるべきだった。
っていうか、ノーラがぶち込んだみたいになっていた。
王太子妃は肩を震わせて笑っている。
「あの者は自分は聖女だと繰り返すばかりで話にならなくてな。ノーラはあれがルソールを狙っていると言い当てたそうだが、何か理由があるのか?」
「え?う〜ん…」
そういえば余計な事を言ってしまった。
しかし乙女ゲームの話をしても通じない気がする。
そして転生者!悪女!と言われてしまう展開だ。それは困る。
「逆にルソールさんを狙わない女がいるのか?いや、いない!」
「わたくしは狙っていませんよ」
「ここにいた!」
一瞬で論拠が消えた。なんてこったい。
「ノーラも狙っていたのか?」
「あたしも狙ってなかった!」
ああいう裏がありそうな男は好みじゃな〜い、とか言ってしまったあの日…!
だって好みじゃなかったのだから嘘はつけない。自分以外に言った訳ではないし。
「でも、でも、見目麗しい美青年たちを侍らせて逆ハーレムを狙う女は、確かにいるの…!」
「…ああ、そういう話か」
「あの若さでもうそこまで…とんだ聖女ですわね」
なんか誤解が生じていた気がしなくもないが、ノーラに対する追求は止まったので良しとした。
きっと男装女とは2度と会うまい。
それにイケメンを狙ったのだから、完全な誤解ではない。たぶん。
レグシオン王子は、10年後だったら「ふっ、面白ぇ女」というテンプレ台詞を言ってくれたかもしれない




